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Benesse力の浸透加速(2)

★前回のBenesse力の浸透加速(1)で、<Benesse力とは、スタッフが学校の先生方といっしょに悩み考え解決力を生み出していくというリーダーシップを発揮できるところだと感じ入りました。>と書きました。

★これは私ばかりではなく、カトリック学校の経営者はピンとくるはずです。特に愛光学園や栄光学園などはそうでしょうね。なんてたって、BENESSEとはラテン語で「よく生きる」というところから命名されたそうですが、要するに中世カトリック神学の匂いがしてくるからです。

★司馬遼太郎さんと立花隆さんは、対談の中で、ヨーロッパについて語ったときがあったのですが、そこで二人は、ヨーロッパは今も変わらず、神学が息吹いているよと言っていました。神学大博士トマス・アキナスの思考体系がと。もちろん、別にヨーロッパの人たちがみな意識しているというわけではないのですが、生活の基盤層にそれがあると感じるということです。

★トマス・アキナスはドミニコ会士で、修道会の祖聖ドミニコの考え方を「神学大全」というマニュアルにした神学者です。聖ドミニコの親友はあの自然を愛した聖フランシスコ。両修道会は歴史の中では結構いがみ合うほど仲がよいわけですね。聖ドミニコは火を噴くような雄弁論者で有名ですが、書を残さなかったのですね。これは聖フランシスコも同様です。

★そこでおそらくトマス・アキナスがドミニコをベースにしながら両者の生きざまから考え方、もちろん信仰のあり方まで膨大なマニュアルを創ったのです。会社に社是や社訓、私立学校に教育理念があるように、ヨーロッパのキリスト教の理念をつくっちゃったということです。

★もうすこしカッコヨク言うと、知のグローバル・スタンダードを作ってしまったんですよね。欧米人は議論を大切にすると言われます。ディスカッションやディベート大好き!というわけでしょう。

★おそらくほとんどの人が見たことがないでしょうが、トマス・アキナスの「神学大全」という知のマニュアルは、ページを開くとQ&A集になっているんですね。すごいでしょう。しかし、もっとすごいのは、考えるマニュアルなんです。Qが出題されると、それに対する反対論者の回答を5つぐらい載せるわけです。そして、トマス・アキナスは、それとは違う回答を結論として述べ、なぜそうなのか根拠を述べます。そして、最後に反対論者の回答を1つひとつひっくり返していくというマニュアルなんですね。

★当時パリ大学では、異端の脅威がありました。神学部の職をドミニコ会で占めなければローマ教会は存在基盤が危うかったわけですね。当時の大学で博士として採用されるには、公開弁論大会で勝たねばならなかったのです。そこで、トマス・アキナスは、後輩修道士のためにマニュアルを作ったのです。しかしこれは知識を暗記すればよいというものではなく、活用できなければならなかったわけです。弁論とはQ&Aの応酬です。最後に詰まった方が、負けました、ありがとうございましたというわけですね。なんか囲碁のようですね。

★ですから欧米の学びの基礎、対話の基礎には実はなんとなんと「型」があるわけです。自由でのびのびするためには「型」が必要なんですね。日本人も同様ですよね。ただ戦後の教育がこの「型」を窮屈だとかいって、あるいは規制、あるいは抑圧だとかいって、壊滅状態にしたんですね。

★もちろん窮屈だったり抑圧的な「型」もたくさんあったのですが、タレントが開かれる「型」もあった。しかし、それを見分ける目が継承されなかったのです。残念ですね。ところが、13世紀に、トマス・アキナスはもっとも大事なその「型」という基準をチェックするマニュアルも「神学大全」の中に埋め込んだんです。

★なんだか未来のマザーコンピュータに、自己チェックの知性をプログラムするような話ですよね。しかし、危機管理とはそういうものです。そしてそれがうまくいかなかったとき、ショートさせるパラドックスを仕掛けておく。だからトマス・アキナスのあとの世代は、このパラドックスを解こうと悪戦苦闘するわけです。イエズス会のスアレス、あのデカルト、あのカント(カントは物自体はわからんという不可知論で応戦)、あのヘーゲル(は神の声は聞こえるというプロテスタントの立場にたって、絶対精神で物それ自体を超えようとしましたが、そこに主観が。ファシズムの忍び込む入り口を、ハイデッガーとともに用意してしまったと言われるときもありますね)が・・・。とにかくみな応戦。でも解答はみつからない。今でも知の開かれたままの状況をつくったんですね。

★OECD/PISAでなかなか優秀な成績をおさめているフィンランドの文科省の人たちは、平気でこういう話をするんですね。ハワード・ガードナーが言うとすると、この知はDisciplined Mindです。これはSubject Matterとは全く違うものだと言います。現代教育はSubject Matterで満足しているけれど、本来はForm of Thinkingが大事だと。このFormを鍛える、陶冶する方法、つまりDマインドを新たに作りたいと言っているのが多重知能論者のガードナー。

★しかし、考えてみれば、このDマインドはトマス・アキナスのマニュアルに相当するんですね。この流れはリベラル・アーツと融合したのでしょう。今でも欧米や日本の私立学校には継承されています。

★なんでこんなことを書いているかというと、Benesseという響きがそういうイメージを沸かせたからなのですが、実はK氏が、「中高一貫校 東大合格√を考える会」の勉強会で「学びのしつけ」という話をしていると聞いたからです。さすがです。ヨーロッパの古くて新しい「学びのDiscipline」、つまりDマインドについてちゃんと語っているのですから。Benesseという響きは力と化して浸透しているということではないでしょうか。I先生からお話を聞いて、そんなことを感じたのでした。[本間 勇人 Gate of Honma Note  

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