2008年を首都圏私立中学受験から見る[04]
☆2008年を首都圏私立中学受験から見る[03]のつづきです。前回男子選択校の特徴は投資型で女子選択校の特徴は消費型という通念は、考え直した方がよいと述べました。そうは言っても、私の力ではこれは難問です。年明けに私学の先生方のお知恵を拝借するとして、その前の準備をしておきましょう。
☆教育を経済学で見る場合、次の2つの書が役に立ちます。小塩隆士著「教育を経済学で考える」(日本評論社2003年)、荒井一博著「学歴社会の法則 教育を経済学から見直す」(光文社新書2007年)がそれです。
☆ただし、これらは20世紀型産業社会の中で役に立つのだということを忘れずに読んでいただかないと、鵜呑みにしては閉塞状況に陥ってしまいます。ここで成り立つシグナル理論、簡単にいえば、社会的レッテル貼りです。
東大に合格した=優秀な人材=高所得という図式ですね。
人的資本論は、学力が高い=優秀な人材=高所得という図式です。
☆しかし、これらの資本は収穫逓減の法則にしたがい限界があります。外部環境に対する効果はあげますが、自分の収入にはそれを組み入れられず、熱効率がだんだん悪くなります。それが「学校選択と投資理論」の図にあるように、20世紀型人材の範囲で描く、資本曲線です。
☆ところが21世紀型人材というのは、学歴があるかないかといえばあったほうがよいのだけれど、非学歴の条件でも、かなり裕福な状況を作ることができるのです。クリエイティブクラスというのは、この21世紀型人材を指しています。
☆20世紀型人材の教育環境や社会関係は、消費と投資を区別しています。生産者と消費者を区別します。学歴と人脈の密着性を大事にしています。知識と体系の記憶と安定を大事にしています。物づくり産業資本を何より優先しています。労働者は仕事場に拘束され、グローバルな移動性は原則ありません。労働者は外部経済は回収できません。日本はいまだにこのレベルですね。フランスも似ています。
☆ところが、21世紀型人材の教育環境や社会関係は、消費と投資は表裏一体です。消費者自ら生産のためのニーズを提供します。マーケティングの仕方が全く違うのですね。学歴と人脈よりWeb社会の関係性を重視します。知識と体系は創造的に破壊されるターゲットです。産業資本・金融資本・人材資本・社会関係資本のバランスを最適化することが最重要です。労働者という概念がありません。経営者であり労働者です。これをクリエイティブクラスと呼んでいます。グローバルな移動は当り前で、時間と空間は横断的かつカオスモスです。外部経済は収益に回収します。フィンランドはこのレベルに到達しようとしているのです。イギリスがブレア政権以降、このレベルに到達しようとしています。もちろん、良し悪しは別にしてサッチャー政権の改革が利いているのですけれど。
☆ICT産業が欧米に相当遅れをとってしまったのは、日本の人材概念、教育環境、社会関係環境が、すべて20世紀型だからです。2008年に向けて、金融商品のターゲットは、日本の場合は、まだまだ物づくり企業に投資しようという動きです。しかし株ではなく、為替という金融商品を、ものづくり企業のために軽視しているために、GDPは転落する一方です。
☆市場経済の中で勝ち組の企業はあるでしょうが、国力はグローバリズムの市場で負けこみます。日本の経済は、市場経済で、戦略的に負けこみます。国はこの状況を救うこともできません。これは欧米の動きとはまったく違いますね。日本は、国家単位では市場も信用できないけれど、国家も信用できないのです。これは困ったことなのでしょうか。それとも起死回生の戦略があるのでしょうか。
☆日本は国家も欧米のような民主主義国家には育たなかったし、市民社会と国家の葛藤という歴史もなかったわけですから、欧米と同じような国家観や市民社会観を持とうというのがはじめからミスコンセプトだったわけです。日本が進むべき道は、クリエイティブ・シチズン社会ですね。封建社会江戸時代の否定に成り立つ欧米化近代化ではなく、封建社会江戸時代の民主化によるもう一つの近代化、つまり私学の系譜に即したものです。アドバンスモダンへの道といってもよいのですが。
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