2008年問題<13>
☆2008年問題<12>のつづきです。日本の身近な生活の中では、マイクロ・ファイナンスに投資できませんから、国内格差社会における機会均等論議で終わってしまいがちですが、改めてガタリの言葉で、重要な問題性を確認したいところです。教育とは何かということですね。
極貧状態は富裕な社会がいやがおうでも被らざるをえない単なる残存物として存続しているのではない。貧困は資本主義システムによって<望まれている>のである。資本主義システムは集団的な労働力を発動するためのテコとして貧困を利用しているのだ。個人は都市の規律や賃金生活の要請、あるいは資本の収入といったものに従わざるをえない。個人は社会的体系のなかで何らかの場所を占めざるをえない。そうしなければ、貧困か生活保護、場合によっては犯罪の淵に沈むことにもなる。したがって、資本主義によって支配された集合的主観性は、富裕/貧困、自律/保護、統合/崩壊といった二極構造をもった価値の磁場に組み込まれている。しかし、このような覇権的な価値化のシステムしかありえないのだろうか?このようなシステムが社会全体が一貫性を保つために必要不可欠な唯一の定理なのだろうか?
☆このガタリの問いかけに真摯に取り組んでいる領域はどこだろう?ということなのです。官主導の≪学校文化の系譜≫は、すぐに機会均等という「超自我」を持ち出し、二極構造の負の極をネガティブに抑圧します。否定の否定ですから、表層としては安心安全です。意識としては無意識に負の極を抑圧しますから、あたり障りのない心地よい気分、feel-goodなわけですね。
☆ポストモダンとしてはさらに横断的かつ多極化というわけですが、実は二極構造の中を横断的かつ多極化するだけですから、結果的にオールドモダンを強化することになってしまうんですね。≪ディズニー文化の系譜≫には、feel-goodしかあり得ないわけです。
☆しかし、それでよいのかとガタリと同じような問いに気づいた主観性が(共立女子の渡辺先生だったら、ポストモダン的共同主観的存在構造の条件に気づく主観と言うでしょう)、いろいろな現象として≪現れ出つつある自己≫として多様かつ多層に出でるのです。その新たな共同主観の領域が≪アキバ文化の系譜≫と≪私学文化の系譜≫です。
☆これらの系譜は、抑圧に対し、サルトルのように「嘔吐」するわけです。フランス哲学者の合田正人さんなら「むかつき」というでしょう。教育社会学者本田由紀さんなら「『ニート』って言うな!」と言うでしょう。愛光中のドミニコ会神父なら「なまぬるい。熱いか冷たいかどちらかでありなさい。そうでないなら吐き出そう」と聖書のフレーズを投じるでしょう。二極構造の中から出なさいということですね。
☆ガタリはだからといって、黙示録的ユートピアを構想するのではなかったのでしたね。あくまでもこの二極構造の中にいて、この構造を問い返そうということです。この中にいるから身体的に「むかつく」し「嘔吐」するのです。そしてその昇華がアキバ的エロティシズムといことになるのかもしれません。マンガ、ゲーム、アニメ、モバイル、サイバースペース、コスプレ、ニートなどなどは、新たな欲求の現象ということでしょうか・・・。吉原的なエロスは、抑圧されたストレスの転移にすぎないわけです。ガス抜きですね。アキバ的なエロスはそこを突き抜けるわけです。これは≪学校文化の系譜≫にとって不安のターゲットです。この不安をどのように解消していくか。抑圧か寛容かが問われるわけです。
☆ここで注意しなければならないのは、オールドモダンの寛容は抑圧だということなのです。あらゆる個性を認めるけれども、近代共同体に同化させなければ気が済まないのです。同化という名の抑圧が、近代のプロジェクトの戦略です。
☆サルトルのいう寛容の存在のあり方は、「実存」ですが、これは翻訳がわかりにくいですね。存在と実存の差異がわかりにくいのです。exsitenceはex-istenceとすると「現れ出つつ在る」ということですね。つまり「離在」です。ここまでくると、私の手には負えません。しかし、≪私学文化の系譜≫の成果の一つである戦後の教育基本法を巡る思想のルーツはこの「離在」です。
☆エロスは人間存在の重要な現象です。これを抑圧するのではなく、寛容に受け入れながら「離在」としての存在に昇華するということです。エロスは他者への関心がベースですから。ただモダニズムにおけるエロスはカントではないですが、手段なのです。存在ではなく・・・。
☆ガタリは存在の科学ではなく、むしろ存在の倫理を重視しているはずです。客観的データに基づいて人間の存在について議論するコミュニケーションではなく、主観性の倫理に基づいて人間存在について議論するコミュニケーション、つまり川合先生の「ていねいなコミュニケーション論」が重要なのです。
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