学び野[03] 空間の媒介性
☆前回「<体験―媒介項―[経験値=体験=知識]―媒介項―[経験値=体験=知識]・・・>の連鎖を『結びつける考え方』」と述べました。子どもたちは、いや私たちおとなもですが、たんに体験しただけでは、ああおもしろかったで終わりかねないのですね。しかし、なんでも体験したものを経験値としてアップしようとすると、それはそれで問題があるのですね。
☆たとえば、私たちは毎日路上で多くの人と出会うわけですが、すれ違うという体験の中ですべての人との交流を経験値としてアップさせていたのでは、そうおいそれと路上を歩くこともできません。つまり、体験をスルーさせてしまうのは人間にとって当たり前のことなのです。
☆むしろ体験を経験値にアップするには、それなりの仕掛けなくしてはできないというのが当然の成り行きなわけです。たとえば中学入試で、受験生が多くの学校を併願し、併願校のほとんどが合格し、最終的に2校のどちらにするか選択判断に迷ったとします。そのとき最終的に決め手になるのは何でしょうか。
☆それは合格体験―進学経験値をつなぐ媒介項としての仕掛け=プログラムの質が決め手になります。合格者は、入試の準備のために説明会など学校を訪れます。そのとき学校は、選択されるための仕掛けを用意しています。つまり生徒獲得プログラムですね。
☆受験生にとっては、学校を知る学びのプロセスに投じられることになります。そのときこの学びのプロセスのおもしろさ・心地よさ・好奇心の喚起性・役立ち感・お得感などなどのインパクトのあったところでの経験値が大きくなるのは当然ですね。
☆さて、この学校獲得プログラムの構成要素ですが、教師の語り・教師との対話などがベースになりますが、それ以外に説明会資料というテキストもあります。そのテキストは文字ベース、つまり連続型テキストばかりではなく図やグラフ、絵などの非連続型テキストも入っています。また体験授業では、身体を動かしたり、音楽で声や耳を刺激したり、クッキングで臭いや味覚を大いにゆさぶったりゆさぶられたりします。
☆しかしこの学校を知る学びのプロセスで重要なものは、これらすべての図としてのプロセスの背景にある地としての空間です。空間の仕掛けが、すべてのプロセスをバックで支援しているのですね。
☆何気ないプロジェクターでのプレゼンも、その設置環境が悪いと、暗くて見にくかったり、眠くなったりして居心地が悪くなります。それはそれで経験値なのですが、選択しない経験値を高めてしまします。
☆テキストも読みにくい読みやすいは、レイアウトやデザインの二次元という空間デザインです。体験授業で、多目的ホールやちょっとしたフリースペースは、基本的に監視システムベースの学校空間の特徴の一つ強制という感覚を開かれた感覚に誘います。またチームで授業体験をするとそこにはアジト空間が広がりますから、親密度が生まれます。授業体験で友達作りができてしまうのですね。
☆麻布学園の文化祭にいくと、部活に参加できます。これが危ない^^)。将棋部などで、先輩と将棋をさすことができるわけですが、そこで先輩に勝ってしまう。ほんとうは負けてくれているわけですが、それはともかく、それで麻布学園の将棋部にいきたいという経験値アップということになるわけです。この話は私のかつての教え子の話ですから、一般化はできませんが。たとえばの話です。
☆体験を経験値にシフトする媒介項のうち空間そして空間は移動しますから時間ですね。学びのプログラムの構成要素というのは実は多様な媒介項のシステムなのです。私がHonda「発見・体験学習」のプログラムをデザインしていたときは、「媒介項」といっても哲学的用語風で受け入れられなかったので、別の言葉で置き換えました。それが「トリガー」という言葉なのですが、すぐに浸透したので、それにしました。学習理論では、グレゴリー・ベイトソンが使う用語ですが。ヴィゴツキーなら「最近接領域」と呼んだのかもしれません。
☆Honda「発見・体験学習」で、やりたかったことで、できなかったことは、時空のアフォーダンスプログラムですね。都市交通では、渋滞や交通事故を回避するためには、移動と空間の媒介項の開発が重要だったのですが・・・。人間の従来の経済活動から時空を都市空間に押し付けるのではなく、空間が語りかける仕掛け、つまり媒介項、つまりトリガーを考案するというのが時空のアフォーダンスプログラムなのですね。もちろん、物理的空間だけではないですね。エンジンという化学的空間が、物理的空間を移動したり、変容したりする人間という脳化学空間に与えるエコロジカルな影響も計算に入れる必要があるのです。つまり排気ガスの問題です。まあ、それはともかく、
①学びの空間
②学びの時間
③学びのテキスト(ツール)
④学びの仲間(年齢・世代・国などのミックス。つまりここでは時間性と空間性がコノテートされている)
⑤①から④を統合する学びの方法(ここでは記号のコノテーションとデノテーションの反転あるいは入れ子状あるいは入れ子状の逆のレイアー構造が生まれる)
☆学びの媒介項の基本カテゴリーは、上記の5つです。学校の場合だと校舎などの設計デザインの時に、学びの空間は計算されています。しかし、家庭や地域、社会では、学びの空間として設計されることは今まではあまりなかったと思います。図書館など点としての学びの空間(物象化されたという意味です)は設計されていても、エコゾフィー的な学びの空間はなかなかありません。
☆仙田満教授は、子どもの学びの環境デザインのリーダーですから、公園や学習施設をたくさん手がけています。イサム・ノグチの公園は、その先がけです。コンテンポラリー・アートは基本的には知性と感性をゆさぶる学びの空間を形成しています。
☆ロンドンやニューヨークという都市空間が新鮮で、何かを問いかけてくるのは、まさにコンテンポラリーアートという学びの挑戦が空間化しているからですね。見ようによっては、東京や京都のような都市空間はコンテンポラリー・アートです。しかし、日本人にとってはすでに日常化してスルーしてしまう空間かもしれません。時空との馴れあいを揺さぶるのが学びのプログラムでもあります。揺さぶらないとあるいは揺さぶられないと体験をスルーしてしまうんですね。
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