08中学入試問題とPISA[02] 麻布の国語の新しさ
☆今年の麻布の国語の入試問題では、いつものように素材文としてのテキストは8000字程度の物語が出題されました。問いもおもに二人の少女の心情の変化を、レトリック(比喩などの表現)の解読を通して、丁寧に追っていき、心情の大きな変化に表われる少女たちの成長について考える問題でした。そして、その成長が具体的にどういう変化なのか、それからその変化のきかっけになるメディア=媒介項(テキストの中では鏡)のロールプレイは何なのかについて論述する問題でした。つまり、問いの構造自体は麻布の顔そのものだったわけです。
☆しかし、テキストが少し新しい感じがしましたね。安東みきえさんの著書「夕暮れのマグノリア」の中の一つの章「循環バス」が選択されていたわけですが、安東さんが断層世代であるので、アニメやマンガの影響もうけているのでしょう、たいへん読みやすい文章だったというのは、従来とは違うところかもしれません。いやいやここが危ないのです。ドラえもんのように、どこでもドアで、日常から非日常にワープする極端な場面がないので、逆に気づきにくい物語の構造になっています。
☆死喩と比喩が表裏一体になっているので、比喩が隠れているのが見えにくいのです。たとえば、循環バス自体が、いじめの悪循環の比喩なんですが、そう読み取らなくても、物語は読み進めてしまうのですね。あのテキストは、昨年の5月に出版されていますから、やはり毎年5月前後に出版される本を活用する可能性があるのです。つまり表現やテーマが時代に沿うものが出題され続けるというのは、麻布の1つの見識ですね。この見識はまさに不易流行。麻布が私学の系譜のルーツでありながら、常に新しいのにはそういうワケがあるのでしょう。
☆さて、PISAの指標に従って分析した結果を見てみましょう。PISAの読解リテラシーの思考のレベルは5で止まっています。学習指導要領は3で止まりますから、国際標準と合わないわけですが、麻布の国語の問題はすでにPISAを超えてしまっています。これは前回ご紹介した雙葉も同様です。
☆また、情報の取り出しのような問題は少なく、文脈や物語の構造から推理していく「テキストの解釈」の問いが圧倒的に多いわけです。そして、テキストから離れてテーマの背景を創造的に思考し論述する「熟考と評価」の問題が圧巻なのです。PISAの指標で合格者の平均点を推測してみると、33.4点(60点満点)ぐらいになります。もちろん、実際のデータではなく、あくまで予測値です。
☆それにしても社会の最終問題は、いつもながら脱帽ですね。今の立法府である国会の時限立法などの議論なき議論にもの申す問いかけですね。国会議員のみなさんに解いてもらいたい問題です。PISAの指標で言えば、この社会の問いも、レベル6で、カテゴリーは「熟考と評価」になります。
*PISAの指標や基準については、国際教育研究家岡部憲治さんの「世界標準の読解力 OECD・PISAメソッドに学べ」がよくできています。白日社から出版されていますが、編集者鳴瀬さんのお話では、大学の先生が購入されているケースが多くなってきたということです。あるエクセレントスクールの私立学校も10冊いっぺんに購入されたようです。全国学力テストや公立中高一貫校の適性検査の作成にも役立ちます。岡部さんも私もいくつかの自治体の学力テストや適性検査に直接間接かかわってきたので、無責任なノウハウ書ではありません。「私立学校の入試問題の分析」、「公立中高一貫校の適性検査の分析」、「私立学校の学習プログラム編集・運営」、「国立中学の学習プログラム編集・運営」、「自治体のカリキュラム編集支援」、「センター模試や私立中学の学力診断テストの編集・評価分析」という現場経験から生まれ出た本です。テストの作成者の意図どころか、仕掛けを見破る奥義でもあります^^)。
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