首都圏 中学受験 2008 [58]
☆この入試の時期は、私立中高一貫校のそれぞれの顔が見え隠れします。いつも通り合格者を出し、いつも通り召集日を迎え、繰り上げ合格者も一度出したら、それで終了という余裕シャクシャクの学校。生徒募集がうまくいかなくて、どうしてそうなったのか学内では大いに議論になって、次年度へ向けての態勢を整える学校。生徒募集がうまくいかなくても、なるべくその話には触れないで、知らん顔をしている教師が多い学校。様々ですね。
☆そんな中で共立女子は、生徒募集は成功しているにもかかわらず、学内で議論が絶えない学校です。共立女子の学校の特徴は、とにかく対話と議論による関係性のバランスを生み出すところです。
☆バランスをとるとは妥協するという意味でも使われる場合もあるでしょうが、共立が使うとしたら、最適化という意味で使われるのでしょう。複眼的視点から議論をすることによって、最適な仮説を立て、振りかえり、改善していくプロセスがいたるところにありますね。
☆たとえば、A日程の合格者を出す場合も、侃々諤々があったようです。昨年まではA日程の定員は120名だったのですが、共立女子の入試日戦略は、全体定員を減らし、徐々に2月1日シフトですから、今年のA日程の定員は150名に増やしました。それによって、応募者も増えたわけです。
☆そうすると、ここに合格者を何人出すと繰り上げ合格者を出さなくてすむのか、議論がわくわけです。共立女子は、基本的には繰り上げ合格者をできるだけだしたくないと考えています。受験生の気持ちやモチベーションを考えればそうなるのでしょう。
☆しかしです。この見逃しそうな考え方に、重要な背景があるんですね。合格者を出す意志決定に学習観の違いがあらわれるのです。一方では、定員を増やして、応募者も増えたし、A日程以外に、B日程やC日程も併願してくれているのだから、そんなにたくさん合格者を出さなくても、歩留まり率は高いだろうし、万が一の時は、B、Cの日程を受験してくれるだろうという考え方。ここにはある種の経営の論理も働いているし、エリートスクール的な発想があります。
☆片方では、BやCの併願をしてくれているのだから、あとから合格するより、A日程で合格した方がモチベーションが違うはず。今年はA日程の段階で少し多めにとろうという考え方ですね。偏差値にとらわれない、タレントを十分に伸ばせる自信に満ちた学習観で、エクセレントスクール的な発想があります。
☆結果的には前者の考え方が選択されたのですが、その仮説は外れたようです。C日程までになんとか態勢を立て直そうと、再び侃々諤々・・・。共立女子は全体としてみればエクセレントスクールですが、すべての教師が同じ発想を持っているわけではないのですね。そこに最適化プロセスが働く秘密があるのです。
☆教師一人ひとりの学習観と経営観と学校のベクトル(エクセレントスクールなのかエリートスクールなのか)は様々なのですね。だから葛藤が生まれ、議論が起こる。あとは市場の原理です。どの考え方が生き残るのかは、時ともに変容するし、教師の人材の強さによっても変わります。それになんといっても学校選択者のニーズですね。
☆共立女子の学習観は、常に新しいし、経営観も偏差値や大学進学実績重視の競争ではないですね。教育の質の競争を重視しています。学校のベクトルもエクセレントスクールです。議論の結果、学校全体としてはこのような方向に動いているのです。まさにブラウン運動体、あるいはアダムスミス的な見えざる手の環境を作っているわけです。
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