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2008年2月

学び野[08] フィンランド・メソッドの批判的思考力としての媒介性

☆北川達夫さんによると、フィンランド・メソッドにおける批判的思考力は論理力の応用段階だそうです。論理力の応用とはどういうことでしょう。

☆批判的思考力をトレーニングする際も、やはりカルタ(マインド・マップ)を活用します。発想力や論理力のトレーニングの時、中心に言葉やフレーズを置いて関連する言葉や理由のフレーズを増やしていったのですが、批判的思考力の場合、中心におかれるのは、テーマそのものだったり、論文そのものだったりするのです。

☆そしてそのテーマや論文のいいところと悪いところを十個ずつつなげていくのです。あるいは、本当にそうかなという発想をつなげていきます。

☆これは一体論理力のカルタとどう違うのでしょうか。北川さんは例として「遠足とはいかなるものか」というテーマの場合を挙げます。遠足とは楽しいものだと考える生徒がほとんどでしょうが、遠足とは修業のためのものだと考える生徒がでてきたらどうなるかと。

☆当然だと思っていることを覆してみること。これが批判的思考力なのですが、それをカルタでやってしまうんですね。論理力の段階では、概念の精査というより、論理のフレームが大事で、批判的思考力はそのフレームの中にいれる概念の中身そのものに焦点があてられるのです。

☆発想力はフレームなのか概念の吟味なのかは、まだ混沌としているのですね。表現力は混沌とした発想とそれをまとめる論理を統合する。しかし、それによって、発想の芽が摘まれ、一般的な考え方にしぼんでしまう。つまり体験>経験値。そこで、批判的思考力。そうじゃないだろう。で、体験<経験値と大逆転という媒介項なのですね。

☆ここにはヨーロッパのリベラルアーツなベースがあります。論理力の段階のカルタはフレームづくり。これをデカルトやスピノザ、アインシュタインは物質の延長(属性)と言ったんですね。そして批判的思考力の段階のカルタは、概念の脱構築。これを彼らは思考(属性)と呼んだのです。カントだったら、前者を実行力、後者を構想力と呼んだでしょうか。

☆数学の領域ではニコル・ブルバキが、これを構造主義的にとらえたでしょうか。ロラン・バルトだったら、記号論的に延長属性を外延、思考属性を内包と言ったでしょうか。

☆この媒介項の運動をヘーゲルは弁証法と呼んだでしょう。エリクソンはこの媒介項の運動を精神の成長理論としてライフ・サイクルと呼んだでしょう。もちろん、中世や古代の思想にも連綿として遡ることができます。このヨーロッパの伝統に挑んだのがフェリックス・ガタリですね。

☆いずれにしても、フィンランド・メソッドの思想の系譜、実は日本の私立中高一貫校にある私学の系譜につながるのですが、このベース抜きのフィンランド・メソッドの導入は、効果を上げられないでしょう。

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首都圏 中学受験 2008 [74]

日経(26日20:06)によると、

通信教育大手のZ会グループと学習塾大手の市進は26日、資本・業務提携で合意したと発表した。Z会グループが5月末までに市進に6%程度出資し、教材やカリキュラムを相互活用する。難関受験に強いZ会と、幅広い生徒に指導実績を持つ市進のノウハウを生かし生徒数増加につなげる。塾・予備校業界は少子化などを背景に大手による中堅・中小の買収や提携の動きが広がっており、1兆円市場の争奪戦が一段と激しくなってきた。

☆ベネッセやナガセ、河合塾など資本力のある教育関連会社や法人が、資本提携や業務提携を進めています。そして今回市進とZ会。

☆こちらはなかなか強いですね。市進に通って、東大に行ける道がなんか広がりそうなイメージじゃないですか。Z会も通信添削という古来のやり方では難しくなることを予想しながら、安定した生徒の確保が可能になるし、なかなかよいコラボではないでしょうか。

☆もしも日能研とSAPIXが資本提携したらどうでしょう。恐ろしいですね。そんなことはありえないでしょうが。いやこの世にあり得ないなどということはありません。合格実績で競争する必要なんて、本当はないのです。

☆受験生5万人の市場をどこまで独占するかで決まりますね。もしM&Aがおこったら、日能研の子会社NTSは大喜びです。なぜかというとセンター模試を運営しているのはNTSです。一挙に受験生はセンター模試を受けるようになるでしょう。

☆そうすると、四谷大塚や首都圏模試は少しだけ困りますね。それより問題は私立学校です。センター模試が大学センター入試みたいな機能を有してしまうからです。デファクト・スタンダード。

☆もちろんナガセとSAPIXが資本提携しても同じことですね。これらの集団は企業で倫理や理念はたいしてありません。要はマーケットの覇者になればよいわけです。合格実績の競争をするよりは、強い企業同士が提携する方が利益ははるかにでるんですね。

☆ローカルなこだわりを捨てたとき、塾のM&Aはシンプルに進むでしょう。しかし、そのとき私学はどうするのか。口頭試問に切り替えるしかないわけです。偏差値を否定するのなら、偏差値で測れないテストをすればよいのです。

☆もっとも1校だけチャレンジしても、桐朋女子のように苦戦します。桐朋女子は本当にフンバっていますよ。だから、あと20校ぐらいが、協定を結び、一斉に口頭試問をやったなら、塾の在り方も変わるでしょう。塾とのバランス・オブ・パワーを崩す私学は、はたして現われるのでしょうか。

☆カトリック学校はその可能性がありますね。幼稚園や小学校も有しているカトリック学校は、中学受験を聖心女子のように、一斉にやめることですね。中学入試の情報がそこだけ閉鎖的になります。情報開示は、資本力の戦略です。負の力に対しは盾や壁をつくることも必要です。ノアの方舟計画。カトリック校は塾に対し挑むことができるでしょうか。

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首都圏 中学受験 2008 [73]

Photo ☆今年も女子聖学院の中学入試の募集は増えました。隔年現象ではなく、毎年増え続けているのですが、その秘密は何でしょう。その理由の一つは、全体の募集の数が多いので、その中に埋もれて目立たないのですが、帰国生入試の結果に表われています。

☆7人応募して、6人が受験し、5人が合格。次が驚愕です。5人とも入学です。歩留まり率100%とというわけなのです。これはあの村治佳織さん(国際的なギターリスト)が女子聖学院に入学したときと同質の感覚なのです。

E ☆村治さんは中学当時から天才ギターリストとして世間から注目されていましたが、入学にあたって、特別な扱いはしませんよという条件と女子聖学院の独特の意志の空間が気に入って入ったんですね。

Photo_4 ☆今回の帰国生もおそらく同じでしょう。帰国生として特別扱いしないのが女子聖学院です。それに新校舎は、ますます意志を明快に表現しています。この空間は他校にはちょっとないですね。あらゆるところにロゴス(コトバ)と意志が明快、簡潔に表され、感銘を受けないわけにはいきません。

Photo_2 ☆特別扱いが必要ないというのは、この教育空間に象徴されています。すべての教科、すべての教育活動に、同構造のロゴスと意志が浸透しているのですね。

Photo_5 はじめにコトバがあった。コトバは神と共にあった。コトバは神であった。すべてのものは、これによってできた。できたもののうち、一つとしてこれによらないものはなかった。このコトバに命があった。そしてこの命は人の光であった。

☆このようなヨハネの福音の初まりのコトバを想起する教Photo_3育内容と教育空間です。私が訪れたとき、お忙しい中丁寧にご案内いただきましたが、先生方の口から放たれるのは、教育刷新の話ばかりです。授業の質をどうアップさせるのか、授業の改革が常に優先する学校だということが伝わってくる学校です。

E_2P.S. 空間のコントラストも明快で、意志と光という明るさと対照的な英語のラウンジがありますが、ここはアメリカの東部の古き良き時代を想起する空間になっています。女子聖学院がアメリカのキリスト教の伝統を継承していることが表現されている空間です。もっとも生徒たちにとってはハリーポッターが出てくるような空間で、人気のスペースです。

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学び野[07] フィンランド・メソッドの表現力としての媒介性

☆このページを書いている最中に、フィンランド・メソッドが授業でも人気がでているという記事が報道されました。良いことですが、体験→媒介項(フィンランド・メソッドの一部)→経験値というサイクルで活用してしまうと、体験>経験値となり、枠組みの狭い、あるいは視野の狭い思考力を育成する恐れがあります。

☆北川達夫さんによれば、フィンランド・メソッドは5つのポイントで成り立っているのですが、そのポイントは相互に関連し合っています。そのことについては、はっきり述べられていませんね。しかし、ヨーロッパの伝統的な教育哲学や芸術、リベラルアーツなどを基礎としてるわけですから、それは統合されているはずです。フェリックス・ガタリのようなカオスモーズな諸関係を構築しているかどうかは、また別ですが・・・。

☆その統合については、もう少しあとで考えることにして、今回はフィンランド・メソッドの3つ目の表現力に関して考えてみます。北川さんによると、フィンランドの表現力のトレーニングは、典型的なものが3つあるということです。

①複数のキーワードをつなげて文を書く。

②フォーマットに従って作文を書く。

③ショート・ストーリーを書く。

☆①の複数のキーワードを使って文を書くというのは、マーケティングの世界でよくある語彙分析に近いですね。これはカルタというマインド・マップの逆の思考です。キーワードを連想ゲームのように発想していくカルタの作業とは違い、キーワードはすでにあるのです。これをつなげて、中心になるテーマを編んでいくわけです。依然として中心という概念が出て来ざるを得ないのはかなり気になりますが。。。

☆②のフォーマットに従って作文を書いたり、ワンパラグラフ・ライティングをしたりするのは論理のトレーニングです。そして③のショート・ストーリーの編集は、再びカルタを使用し、発想を拡散しつつ、論理でまとめていくわけですね。①と②の両方を統合的に行っていくわけですが、もう一つロジックからレトリックに飛ぶことによって、因果関係の連鎖を断ち切ります。ここに感情の躍動感が生まれてきます。

☆こうして3つのフィンランド・メッソドとしての媒介項を活用することによって、体験<経験値となっていくわけです。ここに日本の教育との差異が生まれるわけですね。日本の教育は常に、体験>経験値=体験=知識です。これはちょっとおかしいでしょう。体験がどんどん小さくなっていく。つまり結局体験のない知識だけになってしまうのですね。

☆この点を考えてフィンランド・メソッドを参考せずに、ただ形だけ、というよりフィンランド・メソッドの内的連関を無視して導入すると、とんでもないことになるのです。

☆そうそう中学入試の国語と社会の学びは、当り前のようにフィンランド・メソッドをとっくに使っています。公立の授業で、フィンランド・メソッドが人気ということは、中学入試問題を学び始めたということでもあるんですね。

☆日本の教育システム、といっても政府が作ってきた教育システムの方ではなく、公立小学校側のルサンチマン的というかオリエンタリズム的幻想が造り上げた教育システムが中学受験をタブー化することによって、日本の教育の真のリソースを封印してきたのですね。ちょっと大げさな表現になりました^^)♪。。。

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首都圏 中学受験 2008 [72]

☆しばらくといっても1週間ぐらいですが、白梅学園清修の柴田教頭先生のブログが更新されていませんでした。中学入試が終わり、一段落しているのではと思われるかもしれませんが、学校は1期生、2期生の次のステージの準備と3期生を迎える準備にはいり、ホッとする時間などないのですね。

☆白梅学園清修の先生方は、柴田先生とともに身を粉にして生徒といっしょに動きますから、例年にない寒さが続いているし、風邪などが大流行ですから、そうそうそれに花粉もいとすさまじですから・・・、もしやバタバタと倒れてでもいるのではと心配していましたが、全くの杞憂でした。本当に大忙しだったようです。

☆柴田先生のブログも更新され始めました。めでたしめでたしと思って、内容を見ると、なんと鴎友学園女子の先生方が見学しに来られた様子が、写真付きで載っているではないですか。

☆それにしても鴎友の教頭吉野先生の精力的な活動にはいつも驚愕ですね。鴎友学園女子は、すでに成熟期にはいってもなお革新的な教育活動をやっている学校です。普通ならば、草創期の白梅学園清修を見学しようとは思いつかないはずです。しかし、好奇心旺盛というか探究心旺盛というか、眼のつけどころが違うというか、さすがは吉野先生ですね。

鴎友学園女子といえば、慈愛と誠実と創造の三位一体を教育理念として教育を実践しながら、常に新しい知のテクノロジーを取り入れていく知への欲求値が高い教師陣がそろっている学校ですね。

☆ホームページで学内外の議論を活性化させる手法を、どこよりもはやく獲得し実践された学校でもあります。もう8年ぐらい前の話でしょうか。私も当時はNTS教育研究所を主宰し、サイト内にホンマノオトというページを掲載していましたから、吉野先生にはいろいろ影響を受けた記憶があります。実際何度も吉野先生にはセミナーで基調講演をしていただいたものです。

☆白梅学園の秋田校長先生がイギリスの研修旅行に行かれているとき、ロンドンであのテロ事件が起きました。私も同僚が別の研修旅行を企画してイギリスに行っていたので、応援のためにロンドンにいました。そのとき、リアルタイムに何かあったら情報をリリースしようとブログを開始しました。

☆それは白梅学園清修開設準備時期でもありました。柴田教頭先生は、八雲学園のサイトと鴎友学園のサイトに影響を受けつつも、独自のネット広告戦略を考案しようとしていたのでしょう。思い切ってブログも導入されました。

☆鴎友学園女子、八雲学園、白梅学園清修は、成長サイクルとしては、成熟期、草創期から成熟期への移行期、草創期と違いはありますが、ネットを活用した新しいコミュニケーション関係づくりの探究心旺盛という点では共通しています。

☆吉野教頭先生を団長とする鴎友学園女子の白梅見学チームは、おそらく草創期の白梅学園清修の新しい学びのコミュニケーション・スタイルとそのテクノロジーについて視察することを目的にしていたと推察します。

☆いまここで生徒たちと教師がコミュニケーションするとき、大事なのはハートとハートを結ぶ媒介項です。媒介項として何を取捨選択するのかは、今の生徒にとっては重要です。教師の媒介項をそのまま押し付けたのでは、コミュニケーションを取っているはずが、いつのまにか理解の壁を作ってしまっているなんてことがあるのですね。

☆理解の壁は、実行の壁を作りますから、学びの行為に滞りが生まれます。ヴィゴツキーの最近接領域という媒介項は、どちらかというと生徒のために必要とされたのですが、今日では教師のために必要なのかもしれません。教師が生徒の最近接領域に降りていくためにどの媒介項を選ぶのかというメタ媒介項作りの意味で重要なのです。

☆草創期の白梅学園清修は、生徒の人数を少なめに設定して出発しています。このサイズはコミュニケーションが効果的なのですね。国語科では、いきなりディスカッションと小論文編集の指導を開始できているはずです。数学科でも、数学的思考を言語化するコミュニケーション型の授業を展開しているはずです。

☆スモールサイズだから、優れた媒介項を一人ひとりの生徒に浸透させる速度を加速できます。序破急の成長曲線を描く速度が一般の学校の4倍ぐらいかもしれません。なぜそれができるか。1つはスモールサイズ。2つめは、電子ボードによるコミュニケーションの高密度。3つめは、教科連動型の言語化戦略。(さりげない3つのポイントですが、要するに世界標準の学びの組織づくりということなんですね。)

☆以上の3つは、実は成熟期に入って、全体に浸透できるプランなのですが。白梅学園清修は草創期でやっているわけです。それはネットやPC環境のテクノロジーをうまく活用し、時間を圧縮しながら、あまった時間で、リアルなコミュニケーションを朝から夕方まで貫徹しているから可能なのです。コミュニケーションの質を向上するには、時間のマネジメントが肝要ですが、ネットとPC、モバイルの有効活用はそれを最適化します。

☆成熟期にはいっている共立女子も完全中高一貫体制になってから、白梅学園清修と共通する戦略をとっていますね。定員を減らし、各教室に電子ボードとまではいきませんが同価値の機能を備えた環境を整備しています。リアルなコミュニケーションについては、共立女子では従来から今もこれからも充実しています。

☆宮台真司さんではないですが、あらゆる人間の活動や現象は、コミュニケーションのスタイルとその方法の解明だといっても過言ではないのですが、言語と精神をつなぐ内村鑑三の系譜にある鴎友学園女子が、白梅学園清修で見たコミュニケーションのスタイルと方法はいかなるものだったのでしょうか。いつか吉野先生にお聞きできればと思っています。

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首都圏 中学受験 2008 [71]

☆2/23(土)、中村中では、早くも2009年度入試第一回説明会が開催されました。フェニックスホールは新受験生と保護者でいっぱいになったようです。

☆今年の入試の「報告会」というスタイルなので、なんといっても入試問題の中身と結果とその勉強法についてプレゼンテーションがなされました。その方法は、授業は常に未完であるという授業の質向上を日々行っていくという気概に基づいたデモ授業形式だったそうです。

☆学校説明会というのは保護者がメインになりがちですが、この方法だと受験生もいっしょに耳を傾けられますね。

☆梅沢教頭先生からは、入試総括として、数々のドラマが紹介されたということです。入試前・入試後に保護者から寄せられたメールを読み上げたり、実際の合格不合格のシーンを語ったりして、いかなる心理状態になるかを仮想体験してもらったということです。

☆たんなる中学受験勉強ではなく、人生において有意義な学びとして臨んでほしいという気持ちとそうはいっても受験というストレスをどう昇華させるのかというケアの精神のあらわれですね。

☆さらに、梅沢教頭先生は、受験生に「①自分で起きる②挨拶ができる③家の手伝いができる④ぬいだ靴をそろえる~ができるように」とアドバイスされたということです。これは道徳が大事だということを語られているのではないのです。そういう小さな場面を自ら変える行為の積み重ねが、いかなることがあっても気持を切り替えタフに人生を生き抜いていく技術なんだということでしょう。そして受験も人生の関門の1つであると。

☆フェニックスホール一杯に参加された方々は、1年後に向けて気持の引き締まる機会であったと語られたということです。

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首都圏 中学受験 2008 [70]

☆先週の土曜日(2008年2月23日)、東京女子学園で、教育心理学を学んでいる私立学校の先生方の研究会が開催されました。共立女子第二の伊藤久仁子先生が精力的に活動し、中心的役割を担っているようです。

☆私も参加していいですよとお誘いいただいたのですが、残念ながら都合がつきませんでした。参加できない旨のメールを出すと、すぐに伊藤先生から返信があり、当日の基調講演者児美川孝一郎さん(法政大学キャリアデザイン学部教授)のレジュメもいただきました。本当にきめ細かくて素早い対応に感服です。

☆児美川さんといえば、「キャリア教育」に関する政府の政策を批判的思考で斬りこみ、最適な「キャリア教育」を提案している方だと聞き及んでいます。教育心理学というのは、モダニズム社会という高ストレス社会の中で苦しむ人の心を癒し、結果的になんとかストレスに耐えられるようにする学問だいう先入観を持ちがちですが、どうも児美川さんを囲んで勉強している私立中高一貫校の先生方は様相が違うようです。

☆レジュメから推察するに児美川さんは、広狭両方のキャリア教育の概念を整理し、学校の教育課程全体がcareer education-orientedであるべきであるという考え方を重視しているような気がします。というのもキャリア設計のコンセプトとして「適応」だけではなく、現状を変えるという志向も重視しているからです。

☆要するにキャリア教育というのは、情操面でも、知性面でも複眼的視点と広い視野持って構想・判断・実行していけるテクノロジーの獲得の場だと考えているのではないでしょうか。

☆こういう視点を、私立学校の教師は持っているのだなと思うと、日本の未来も明るいですね。一方公立学校はどうでしょう。どうしても教科専門型の特性がありますから、このような横断的複眼的視点は難しいかもしれません。

☆教員の指導力の問題ではなく、教育のシステムの問題ですね。新学習指導要領は、ここの改善を吟味検討しない限り、クリエイティブ資本を開花させることは難しいでしょう。20世紀型の人材資本としての労働力を相変わらず再生産する教育が継続され、グローバリゼーションの荒波を乗り越えるクリエイティブ資本としての21世紀型の人材を育成できる環境はできません。今のところそのような環境改善に日々努力しているのは私立学校ということになりそうです。伊藤先生の活躍はそのような時代の流れを作っているのではないでしょうか。

☆それにしても東京女子学園という女子私立中高一貫校は、興味深い存在ですね。学校の法化現象の流れに対し、そもそも法の信頼性や妥当性、正当性とはなんぞやという問いを投げかける理事長がいるし、キャリア教育に対しても同じような問いを投げかけます。そしてそういう理念を共有する先生方に場を提供されているわけです。≪私学の系譜≫としての東京女子学園のポジションについてもっと注目されてよいと思います。

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08中学入試問題とPISA[08] JGのテキストは二元論

☆JGの問題も、記述式の問いが多くなりました。問題量も多いし、記述量も多いので、情報処理速度と情報圧縮速度と想像速度を相当速めなければなりません。そのためか、素材文であるテキストは、3題とも共通点があります。

☆どれもリアルとイメージの対比で、その統合はなく、リアル重視あるいは両者の境界をはっきり示す二元論的テキストです。一般的にはバランス感覚が働いている文章が選ばれるのですが、豊かなリアル、愛に満ちたリアルを重視するテキストが選ばれるわけです。

☆思考訓練としてはシャープでやりやすいけれど、現実生活では妥協点を見出すのが普通ですから、実に心が痛むテキストが選択されています。しかしまたこれは、JGのプロテスタンティズムそのものの理念で、貫徹ぶりに感服。

☆JGの卒業生の生き方も、真理に向かってまっしぐらな人が多いし、教師もそうですね。なんといっても朝の礼拝のスピーチがそういう厳しい内容です。あれもこれもではないし、あれでもないこれでもないでももちろんなく、あれかこれかはっきりしなさいというものです。

☆あついのかつめたいのかどっちかはっきりしなさい。なまぬるいのなら吐き出してしまいますよとは、しかし、聖書の言葉そのものなんですね。あまりにストイックで、私は臆してしまいますが、21世紀の女性のリーダーシップには肝要かもしれません。

08jg ☆さて、OECD/PISAの読解リテラシーのカテゴリーやレベルに基づいて分析してみましょう。御三家の中では、問い自体は非常にバランスのとれたデザインがされています。レベル6の問題もあり、やはりPISAのレベルを超えています。

08jg_2 ☆合格者の平均は、意外と難しいですね。67.1%ぐらいでしょうか。細部も読まねばならないし、全体も把握し、想像もしなければなりません。知識の問題もさりげないけれど、微妙な意味を問うものまであります。速度と総合的な思考力のトレーニングが欠かせません。

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学び野[06] フィンランド・メソッドの論理力としての媒介性

☆フィンランド・メソッドの論理力も、体験→媒介項→経験値という学びのプロセスの媒介性の特徴をはげしく持っています。

☆北川達夫さんによれば、論理の回路を頭の中につくること、結果よりプロセスを重視する授業がフィンランド・メソッドだそうです。結果よりプロセス。まさに媒介性重視ですね。北川さんの説明する論理の回路とは、

①意見

②なぜなら(理由1)

③それに(理由2)

④また(理由3)

☆ということのようです。フィンランドの小学校では、物語を読むときにも、因果関係を考えるとも説明されています。

☆たしかに論理力やプロセスを重視することは大事だし、媒介性としても大切な役割を果たすと思います。

☆しかし、大事なことは理由とは何か、因果関係って何かということなんですね。理由や因果関係といえば、「~だから」とか「~なので、~である」という表現を思い浮かべるのではないでしょうか。そしてそれ以上でも以下でもない。

☆これでは、思考のプロセスは画一化されるし、体験<経験値ではなく、体験>経験値になってしまいます。北川さんの論理の説明はあくまで典型例であって、フィンランド・メソッドすべての事例を書いているわけではないと思います。

☆フィンランド・メソッドは、ベースに古いヨーロッパの考え方があります。特にソ連とナチとの関係で揺さぶられた歴史があるので、油断すると古いヨーロッパから発出するファシズムの恐怖を知っています。カントやヒューム、スピノザの思考をベースに持っているので、日常生活における因果関係の不確実性を了解しているし、数学的には意見と理由はトートロジーであることも知っています。

☆論理では人間の情感をおさえることはできません。そこにはやはり理性というエチカがポイントになります。つまりこの部分のベースなき論理の媒介性は、体験>経験値をつくりだしてしまいます。

☆企業と学校のコラボによる学習プログラム作りと実践が定着しつつありますが、学校が公立の場合は、この体験>経験値の流れに拍車がかかります。○○工場見学なんてプログラムが危険なのはそういうわけです。学校が私立学校の場合、教育理念にこだわりますから、体験<経験値となることが多いでしょうが、私立学校もパッケージプログラムでいいやあと判断するときがあります。そのとき危険性が忍び込みますね。

☆企業主導のプログラムを導入している学校の未来は絶望です。これは回避したいですね。方法論だけ学びに持ち込むことの危険性。グローバリゼーションの危険性。それを知ったうえで、論理の媒介性を学びに活用する知性が教養です。リベラルアーツが求められているのには、そういうワケがあったのです。

☆かつてHondaさんとHonda「発見・体験学習」プログラムの構想と実行を手がけたとき、Hondaと学校の懸け橋になったスーパーバイザー(SV)とラーニングアドバイザー(LA)のサポートチームのメンバーはICU出身者と慶応SFC出身者が多かったんですね。また、麻布やミッションスクールなど私立中高一貫校出身の学生も多かったわけです。よく議論したものです。このサポートチームそのものが媒介項だったのです。リーダーシップよりフォロワーシップの心意気が心地よく、そういう出会いのチャンスがあったことに感謝しています。

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首都圏 中学受験 2008 [69]

☆前回組織、特に学校の成長サイクルについて話をしました。しばらくの間、そのサイクルの各期の成功例を見ていきましょう。

☆何もしないでおくと、学校の場合、草創期→成熟期→衰退期→蘇生期→死滅期というサイクルをたどります。企業の場合は、いきなり草創期→死滅期というケースも山ほどあります。

☆草創期において、多少のアップダウンはあるでしょうが、成熟期に向かって驀進している学校といえば、八雲学園、白梅学園清修です。

☆成熟期において、教師が自己研摩し、創造的行為を大いに遂行して成功している学校としては、早稲田実業、明大明治、麻布、開成、海城、共立女子、吉祥女子、東京女子学園、攻玉社、芝などがそうですね。中村中は成熟期の中でアップダウンが小刻みに続き、衰退期直前に見事に成熟期における持続可能性を見出したと了解するのが妥当ではないでしょうか。

☆衰退期において、かなり昔の話ですが、自立再生の組織改革に見事に成功したのは、洗足学園、鴎友学園女子です。最近では共栄学園、宝仙理数インター、かえつ有明、京北学園は教育の質を毎年向上させながら再び草創期に回帰しています。

☆蘇生期にいたり、外科手術を思いきり実行し、再び草創期に回帰したのは、郁文館と広尾学園です。外科手術が派手だったのは、郁文館のほうで、賛否両論が今でもありますが、経営手法として学ぶべき点はあると思います。もっともオーナーのもともとの業種が教育とは遠いようで近い分野だったので、できたことかもしれません。そして、2010年には横浜山手女子が中央大学の系属校になり、草創期に回帰しようとしています。

☆死滅期にいたって、そこから草創期に回帰した学校は、首都圏の私立中高一貫校では、私は今のところ知りません。ただ、死滅期を迎えてしまった学校が幾校かあるのではないかとは思っていますが・・・。

☆次回からは上記の学校を中心に成功の戦略あるいは戦術を見ていきましょう。

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首都圏 中学受験 2008 [68]

☆中学受験の経済を取り巻く環境は、決して順風満帆ではないですね。私立中高一貫校のステークホルダーは、学校自身、生徒と保護者(家庭)、塾、広告代理店、建設会社、学習ツール販売会社、旅行会社、保険会社、出版社、知事、文科省など多岐にわたります。

☆1つひとつ眺めていただくとおわかりのように、すべて組織です。そして組織である限り、常に崩壊の危機に瀕しています。

☆草創期) 新設の学校は、最初は創造的で調子がよいのですが、必ず小さな右肩下がりがきます。ここで、自分たちのソフトに対する生徒や保護者のクレームを受け入れて、強化していくことで、今度は逆にぐんと飛躍しますね。

☆成熟期) 成長し成熟している学校も、油断はできません。生徒や保護者の欲求は常にどんどん高くなります。これに対応できる質の高い教育ソフトを自己研鑚できない学校は、衰退期を迎えることになります。

☆衰退期) 組織崩壊の大きな危機です。自立再生の組織改革をしなければ、あっという間に落ち込みます。

☆蘇生期) 自立再生できないとき、蘇生装置を活用するしかなくなります。つまり外部の力を借ります。コンサルタントと内部の教職員と協働するだけの漢方薬的手法では、もはやうまくいきません。企業で言えば、M&Aですね。資本とノウハウの総入れ替えという外科手術の意志決定を強いられます。

☆死滅期) 清算と撤退するしかないという意思決定をするときです。企業に比べ、学校はこの時期を迎えないところの方が多いですね。補助金が出るからです。

☆企業の場合は、草創期から一気に死滅期を迎えるところも多いです。草創期の小さな右肩下がりの時期を乗り越えられないわけですね。私立学校の場合は、衰退期を持続するところが多く、徐々に死滅期に向かいます。

☆蘇生期を迎えようという意思決定をしたところは、そこが草創期になりますから、再び上昇気流の流れが生まれます。しかし、2、3年で小さな危機が表れます。乗り越えられないと、すぐに衰退期を迎えます。

☆組織がそれぞれの期の危機を乗り越えることができるかどうかは、常に人材による創造的行為にかかっています。また、その創造的行為をサポートできるリーダーシップとフォロワーシップのチームプレイがうまくいく環境マネジメントがあるかどうかも重要ですね。

☆草創期の創造的行為は、学習ツールと教育ソフトの生産ですね。新しいものは、注目を浴びるのは当然です。しかし、最初から完璧なツールやソフトはありません。クレイムもいっぱい出るでしょう。それに対応することで、アイデンティティもツールもソフトも強化されます。

☆成熟期の創造的行為は、生徒や保護者との親密なコミュニケーション、おもてなしです。アイデンティティやツールやソフトの強みは浸透しています。あとはそれを活用することが、生徒や保護者にとって安心でき、信頼でき、自信につながることだというケアです。1人ひとりコミュニケーションをとるシステムの確立と押し付けや事務的ではない創造的コミュニケーションのトレーニングの機会の設定がポイントです。

☆衰退期の創造的行為は、ツールとソフトの見直し、創造的コミュニケーションの劣化を見直すことが重要です。コミュニケーションが劣化している場合、内部のスタッフだけでは、気づきませんから、外部のスタッフやコンサルタントの知恵を借りる必要があります。まだこの段階では漢方薬的処方箋でいける可能性があります。自立再生の道ですね。

☆蘇生期の創造的行為は、優れたパートナー探しです。しかし、それができるぐらいのスタッフがいるならば、もともと自立再生の道を歩めたはずです。結局コンサルタントの情報と交渉にゆだねなければならなくなるでしょう。

☆死滅期の創造的行為はありません。手続き的行為に徹して、立つ鳥跡を濁さずという段取りになります。

☆今年の中学受験を見ていると、衰退期という名の死滅期に突入している学校があります。蘇生期をバネにして見事に草創期にシフトできた学校もあります。草創期から成熟期へ驀進している学校もあるし、草創期の小さな危機を迎えている学校もあります。

☆学校に限らず、組織経営者の責任はやはり重たいのですね。話を聞きに訪問したとき、この責任の重さがそこはかとなく伝わってくる覚悟や気概を持っているリーダーがいる組織は、やはりうまくいっています。責任を回避しているリーダーがいるところは、やはりそれぞれの期を乗り越えられない組織です。言うまでもなく、組織の評価とそこにいる人材の評価との相関係数は大きくなるのです。

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首都圏 中学受験 2008 [67]

☆前回、2010年に横浜山手女子が中央大学の付属校になり、共学校になるかもしれないという記事が昨日(日経新聞2008年2月19日)流れた話をしました。

☆大事なことは、中央大学の戦略と横浜山手女子の戦略ですね。はたして何を考えているのでしょうか。中央大学の場合は、当然マーケティングと新事業計画の両面から勝算ありと考えたのでしょうが、それは何でしょう。横浜山手女子は学内改革によるサバイバル戦略をプランしているのでしょう。東大や早稲田・慶応と連携するならともかく、MARCHの中でもイノベーションには疎い中央大学と協働するというのは、経営判断としてどうなのだろうと思うのは私だけではないでしょう。

☆それとも中央大学の中に、すさまじブレインがいるのでしょうか。早稲田実業の国分寺移転や共学化、小学校設置の大改革のときでさえ、縁の下の力持ち的逸材がいたけれど、自分の命をかけたほどだと聞き及んでいます。そんな逸材がいるのなら、もっと早くからなんとかなっていたような気がします。

☆それはともかく、門外漢の私が独断と偏見で予想するに、大学全入時代サバイブできる大学はもしかしたらMARCHがギリギリなのかもしれません。それでもアカデミズムというよりはキャリアデザインコースとしての機能しか残らなくなると思います。

☆国際的なレベルで研究を全うできる大学は、東大をはじめとするいくつかの国立大学だけになる可能性があります。早稲田・慶応・上智はドメスティックなレベル、あるいはマスコミレベルの研究は保てるでしょう。ICUはリベラルアーツとしての特徴を唯一保てるかな。MARCHはおそらく資格と就職、つまりキャリアデザインコースですね。リクルートの最大顧客といってもよいかもしれません。

☆おもしろいのは聖学院大学です。真の研究者の中には、若いとき、大学受験的な学力はどうでもよいと思っているというか無関心な人もいます。そういう磨けば世界の逸材になるような人材を輩出するクリエイティブ資本を生み出すパワーのある大学です。難関私立中高一貫校の中で目が出なかった生徒がかなり多く聖学院大学に進むのですね。そこで開花し、国立大学の大学院に進んで学者になる人材がでるのです。そのうちハーバードなんかの大学院に進む学生も輩出されるかもしれません。

☆中央大学は、おそらくそこにエンロールメント戦略(生徒獲得戦略)の可能性を見出しているのではないでしょうか。すでに法政大学とかえつ有明との連携、青山学院大学と横須賀学院との連携のケースメソッドがあります。

☆大学というのはどうしようもない教授会というのがあります。権威と世間知らずの塊です。市民の声などには、基本的には耳をかさないと考えてまず間違いないでしょう。

☆この教授会に様々な改革案を通そうとして事務方は相当悪戦苦闘・孤軍奮闘するわけです。大学間の事務方の連携はすさまじく、そこで改革案がいくつも生まれ、教授会でつぶされるというのは山ほどあるでしょうね。おそらくの話ですが。

☆たとえば、ある有名私立中高一貫校(A)から優先的に中央大学が指定校推薦枠よりは広い新しい推薦枠で受け入れるというような話が持ち上がったとします。しかし、そのときの壁は、5段階評価の平均スコアですね。大学の提案に対して、私立A校では、スコアは高くないけれど、なかなか才能豊かな生徒がいるからそういう生徒の道を開きたいと逆提案する。中央大学はいややはりある一定のスコアが必要ということになる。夢は互いに膨らむけれど、この一点で話が進まなくなるというわけなんですね。

☆いくら首都圏の私立中高一貫校に進学する生徒の全国の同世代に対する割合は3%だから、スコアなんてものは相対的で、この3%を考慮した戦略をとるべきだと事務方が教授会に進言しても、地方のナンバースクール出身が多い教授たちは、御三家しか知らないし、私立なんてっていまだに思っている人たちもいるぐらいです。従来の考え方を変えるわけがないですね。

☆そこで、こういう権威者を相手にするときは、マキャベリズムです。キツネのようにライオンのようにですね。私立中高一貫校の<帝国>支配戦略です。系属化すれば、そこの学校からの推薦は、スコアなど関係ないのです。推薦評価というものに沿って受け入れればよいのですから。システムを教授会が認めれば、後はスルーです。既成事実で邁進するだけです。

☆しかし、20世紀型<帝国>戦略ではないですから、そこは事務方はマルチチュードな戦略です。支配者の覇権意識をよいしょしながら、支配される側にそれを覆す知恵と勇気が生まれる環境を作っていくのです。

☆実際連携段階で、かえつ有明や横須賀学院は、カリキュラムは大改革されるし、大学進学実績にも早くも好影響が現われています。私立中高一貫校は、別に大学側のヘゲモニーなどなんとも思っていません。法政や青山、中央をミニマム保証として、その上を狙うわけですから。

☆こういうマルチチュードな戦略が可能なのは、大学の事務方と私立中高一貫校の経営ブレインとの間で相当戦略的で革命的コミュニケーションができるリーダーが合わせて5人いなければなりません。学内外の政治的視点、財務知識、時代を読む情報量、相当堪能な英語力、コンサル力、もちろんリーダーシップ。こういう資質を一人の人間が持っている時代は終焉していますから、5人は必要なんですね。

☆新聞でリリースされるということは、すでに建築計画、カリキュラム計画、生徒募集計画、教師の人材確保計画、塾対策計画、地域戦略計画、新進学指導計画などなどのデザインができていることを示しています。IBコースがその手始めだったのでしょう。2010年までの2年間、中央大学と横浜山手女子との間で、実験的に連携授業などが行われるでしょう。新建築などの設計図やモデルが提示されると思います。そのような動きが出てきたら、これは本格的だと思ってよいのではないでしょうか。

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首都圏 中学受験 2008 [66]

☆2010年小金井市に、中央大学の附属中学が開設されるのはずいぶん前から話題になっていますが、同時期に横浜山手女子が中央大学の付属校になり、共学校になるかもしれないという記事が本日(日経新聞2008年2月19日)流れました。

☆横浜山手女子といえば、今年国際バカロレアコース(以降IBコース)を新設し、ラディカルな改革路線を突っ走っている学校ですね。昨年7月に訪問した時のレポートを書きましたが、その出だしはこうです。

「6年後、横浜山手女子は横浜山手地区の女子校の中でナンバーワンになります。まずは来春オンリーワンの教育環境からスタートします。」と口をそろえて明言したのは3人の先生方。副理事長石本渥先生、教頭野村宗人先生、インターナショナルコース教頭・開発準備室室長田口俊夫先生の3人である。

☆今ハタと気づきましたが、今年はオンリーワンだけれど、2010年以降はナンバーワンの道を歩むよというのは、すでにそのときに決まっていたのですね。ただ、そのときは女子校路線は崩さないという方向だったのが、どうやら共学校化するという話のようです。多少の路線変更は改革ではつきものですが、それにしても思いきったと思います。

☆ともあれ、IBコースの手続き者は今のところ8名で、もしかしたら10名になるかもしれないとのことです。このIBコースは今は目立たないですが、中央大学の付属校となるときに重要な役割を果たすことになるでしょう。

☆中央大学の戦略は、従来のMARCHブランドだけによっていたのでは、大学全入時代サバイブするのが難しいという学内の危機意識によっているでしょう。MARCHの中で中高一貫校の付属を持っていないのは、中央大学だけだったのですが、慶応、早稲田、立命館、同志社、南山など小学校から付属化を進めている、つまり幼年時代からブランドを広げる戦略を促進しているわけです。

☆中央大学のMARCHから外れていく危機感は相当強かったのでしょうね。それで、多摩地区だけではなく、神奈川エリアでも同時に付属校を出していこうという戦略に転じたのだと思います。青葉区には慶応の新しい小中一貫校も開設される予定です。青山学院はすでに横須賀学院と連携プログラムを実践しています。法政は以前から神奈川に付属校があります。

☆こうして見てみると、早稲田がどこかの私学と連携もしくは付属化する動きをしてもおかしくないですね。付属校が、多摩エリアと神奈川エリアで、競争的共在戦略を打ち出してくると、再び中学受験のムードが高まってくることになるでしょう。

☆青山は今のところ現場レベルでは、動きはないですが、相模原キャンパスにも、初等部や中等部を開設する経営判断が下ってもおかしくないですね。同レポートで、「2013年以降、日本の教育、経済、政治、法律、文化などのパラダイムががらっと変わる瞬間が訪れる。変わるというより変わらざるを得ないというのが本当のところだが、教育のフロントランナーはどうやら横浜山手女子であり女子教育なのであろうか」と書きました。残念ながら横浜山手女子は女子教育ではなくなるかもしれませんが、フロントランナーにチャンレジしていることは確かです。

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首都圏 中学受験 2008 [65]

産経新聞(2月18日22時34分配信)によると、文科省の学習指導要領の欠点を、日能研本部は常に補完し、先進的なカリキュラムを構想・実行してきたということらしい。ついこの間まで内部でも批判の多かったRコースという探究―議論―発表プロセスの授業。

「この問題どうやって解こうか」「僕はこうする」「私は違う。ここに線を引いた方がいいよ」-。 先生の力を借りずに、5、6人の児童が1つのチームを組んで図形問題の解法に知恵を出し合い、「一番いい解き方」を探している。見つかったら、他のチームと互いに発表して比べ合う。先生は最後まで、解き方を教えてくれない。これは日能研が4年前から首都圏の一部教室で開設する「Rコース」(小4~6年対象)の光景だ。あらかじめ用意した答えに児童を導かないことが特徴で、高木幹夫代表(53)は「自ら学び考える力を育てる授業。『総合学習』そのものだ」と話す。

☆OECD/PISA型の学びやテストの風に乗って再評価というところでしょうか。日能研本部のこのような新しい学びは、Rコースだけではありません。通信教育「知の翼」や低学年の「ユーリカキッズ」やセミナー「ディスカバリークラブ」など、もともとシカクいアタマをマルくするというコンセプトが多様な展開をしています。

☆日能研本部のこれらの展開の背景には、かなりアカデミックな根拠があります。ハーバード大学の認知科学やETSのテスト測定学などなかなかなものです。ハーバマスまではいきませんが、コールバークのジレンマ理論なども丁寧に勉強していますね。もともとピアジェやブルーナー、ビゴツキーなどの教育学の基礎理論は20年以上前から教務スタッフは学んできたのですね。数学のデキル教務スタッフも健在です^^)。

☆これらの理論を、カリキュラムの根底に浸透させています。外から見ているとわかりませんが、エンジンはなかなか馬力があります。

☆それをのれん分けしてもらった日能関東はうまく利用していますね。代数構造と順序構造までは理解できるスタッフ陣が日能研関東にはいます。でも位相構造は理解していないかもしれません。本当は位相空間の理解が、中学入試の問いの構造の突破には必要なのですが・・・。

☆もっと大事なのは、国語ですね。国語は代数構造と順序構造、位相構造をレトリックとして理解できないとだめなんですね。レトリックとロジックを違うものとして認識していると御三家の国語は本当に理解しているとはいえないのですね。

☆しかし、そんなことは関係ないのです。魂など知らなくてもコピーはできます。とはいうものの今回は河合塾と提携してラテン語由来(ベネッセみたいですね)のGAUDIAというプロセス主義の低学年向きの学習塾を開設しています。河合塾って関係総体主義の思想的背景があるので、もしかしたら、今度はソフトの部分は本格的かもしれませんね。

☆とにかく、やはり日能研はおもしろいじゃないですか。低学年から生徒を囲い込む経営戦略とどこか本物志向の学習戦略。両方のベクトルが最適化するとよいですが、資本の論理はそう甘くないのかもしれません。いろいろな意味で。。。

☆そうそうコンテンポラリーアートの要素がまだ不足しています。学びとアートを結びつける塾はどこでしょうか。そんな塾の出現を期待したいですね。

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学び野[05] フィンランド・メソッドの発想法としての媒介性

☆フィンランドの発想法は、カルタだそうです。マインド・マップのことで、フィンランド語で「アヤトゥス・カルタ」というそうです。

☆北川達夫さんによると、

中央にテーマを書き、その周囲にテーマから連想したことを放射状に書き込んでいく―これがマインド・マップです。マインド・マップは人間の脳の機能にそった思考法であり、脳の働きを最も効率よく引き出すことができるのだそうです。

日本の教育でも、子どもの自由な発想を伸ばすことは重視されています。しかし、実際にやらさてみると、これがなかなか難しい。テーマを与えたところで、そこから何も思いつかない。あるいは、あれこれ思いつくのだけれど、短絡的な思いつきばかりなので、テーマからどんどん外れていってしまう。しっかりしたメソッドがないと発想がゼロのままか、「無秩序な発想」になりがちです。

☆実に惜しい。体験をして終わるのではなく、体験で気づいたり、興味を持ったりしたことをマインド・マップという発想法を媒介として経験値に高めておくというところまではよいのですが、テーマを中央に限定するというところが、惜しいですね。

☆基本的にはこれはツリー構造の思考の形で、思考のスタイルは、必ずしもツリー構造でなくてもよいわけです。またテーマからどんどん外れていって新しいテーマがでてきてもよいわけです。

☆はじめ中央に書かれたテーマとは違うテーマがあとから付け加わっても良いわけです。もしカルタが脳の機能にそっているというのであれば、むしろツリー構造ではなく、囲碁型の構造のほうが適しているかもしれません。

☆初めはつなっがていないようにみえても、実はつながっている。非連続の点どうしを結ぶ様々な曲線があるはずです。非連続の連続を見出したとき、あっ!となるのですが、その発見のツールとしてあるいはメディアとしてマインド・マップは有効なんですね。

☆おそらく企業のマインド・マップはツリー型だと思います。学びで活用されるマインド・マップはむしろ位相空間的ですね。企業では人材を評価するとき、最近接領域など見向きもしません。教育ではむしろこの最近接領域のつながりが大事です。ですから、マインド・マップも企業とは違う使い方をしているはずです。

☆フィンランドでこのマインド・マップが本当のところどう使われているかは、北川さんの本からではわかりません。しかしフィンランドの総合制カリキュラムは、かなり横断的でマトリックスですから、単純なツリー構造の発想法が日常化しているわけではないと予想します。

☆いずれどなたか資金力のある方が、フィンランドをもう一度視察して、この点についてリサーチしてくださるといいですね。

☆いずれにしても、中央にテーマを書くところからはじまるマインド・マップばかりでは、発想は硬直化します。逆説的ですが・・・。

P.S.

北川さんの本に、カルタを使って自己紹介をしようというページがあります。中央にテーマである「私」を書いて、そこから私の枝や葉を伸ばしていこうというものです。これとは逆に、かつて、学習院女子の中学入試で、「私」という言葉を使わずに自己紹介しましょうという作文の問題が出題されたことがあります。やはり、カルタは中心からばかりではなく、周辺から書いていくトレーニングをするのもおもしろそうですね。

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学び野[04] フィンランド・メソッドの媒介性

☆<体験―媒介項―[経験値=体験=知識]―媒介項―[経験値=体験=知識]・・・>の連鎖を『結びつける考え方』と呼んでいるわけですが、この媒介項には、様々なものやコト、そして方法論があるわけです。実はここの部分も体験であるわけですが、それはまたいつか考えてみることとして、媒介項としてのフィンランド・メソッドというのを考えてみましょう。

☆北川達夫さんは、フィンランドの文化や教育に造詣が深い方のようです。北川さんは「図解フィンランド・メソッド入門」(経済界2005年)というわかりやすい本を書いています。

☆フィンランドの読解リテラシーは、次の5つのポイントで学ばれるとあります。

①発想力

②論理力

③表現力

④批判的思考力

⑤コミュニケーション力

☆OECD/PISAの最高位のレベル5の習熟度は批判的思考力のレベルですから、就学前からこのようなポイントでトレーニングされていたなら、世界標準のランキングで上位に自然と位置するのもうなづけますね。

☆フィンランドも日本も第二次世界大戦は、ナチと手を組んでいます。そうせざるを得なかった歴史的必然は違うわけですが、戦後この批判的思考力をフィンランドの教育が積極的に導入したのに対し、日本の教育は学習指導要領の項目の中の一つに過ぎず、プログラム化されているかどうかは、学校によって教師によって違うでしょう。

☆戦後の平和や経済政策においても両国の考え方は違うようです。そういう世界史的な視野を考慮した上で、フィンランド・システムを参考にするかどうかについて議論するというのは、日本の教育関係者の中ではないですね。

☆世界ランキングがトップだから学ぼうという教養のなさが日本の教育専門家集団なのでしょうか。学びとは人間の存在野を豊かにするかどうかがまず大切だというのに・・・。

☆それはともかく、次回は発想力がどのように生まれるのか、その仕掛けについて考えてみましょう。

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08中学入試問題とPISA[07] 海城のテストデザインは緻密 

08 ☆今年の海城の国語の中学入試問題(一回)は、いつもながら、緻密にテストデザインがなされています。選択肢の問題でありながら、情報を正確に取り出しているかどうかを問う真偽問題でとどまることなく、テキストを解釈する問題は当然ながら、テキストを熟考・評価する問題まで出題しています。

08_2 ☆考えるレベルも、情報を確認、整理するだけではなく、論理的につなぐ作業や批判的かつ創造的に思考するレベルまで問いかけています。受験生が世界標準の読解リテラシーのレベルをすでに乗り越えているかどうかがわかるようになっています。

☆PISAの読解リテラシー分析でシミュレーションすると、合格者の全体平均正答率は61.1%です。選択形式の問題が多いので、実際は、もう少し易しめかもしれません。

☆素材文である物語とエッセイのテキストの選択は、いつもながら本当にすばらしいですね。物語は登場人物の置かれた社会的背景が非常に複雑なのですが、まさに現代の小学生のおかれているあまりにリアルな状況を映し出したストーリーです。海城学園が大事にしている公正としての正義を受験生は受けとめなければならないのですが、そういうところまでよく考えられていますね。

☆エッセイのほうも、関係性としての命がテーマです。人は一人では生きていけないから協力し合って生きていこうという程度の関係性ではないんですね。どうしようもない運命的な関係性の重さから、純粋に生まれた瞬間にさかのぼればさかのぼるほど逃れられない存在の事実に気づいていくというようなエッセイです。「関係性」の厚みを小学生の段階でどこまで整理しておかねばならないのでしょうか。

☆単純に読解方法論を学ぶだけではもったいないテキストです。物語の方は、小学校5年生までの間にじっくり読んでおくとよいのではないでしょうか。著者と作品を紹介しておきます。

熊谷達也著 「七夕しぐれ」光文社(2006年10月) 定価1,600円+税

(入試で出題された箇所は、326ページある大著の最後の部分です。小学校5年生までは、入試問題でクライマックスを読んでしまうことになる前に読みたいものですね。)

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首都圏 中学受験 2008 [64]

Photo鈴木隆祐さんの新刊書「名門中学 最高の授業 一流校では何を教えているのか」(学研新書2008年2月6日)は、早くも増刷が決定したということです。クリエイティブ資本としての人材を生み出すハビトゥス(文化資本再生機制)が背景にある中高一貫36校についてフィールドワークを重ねて書き練られた傑作です。

☆さて、鈴木さんの取材記事の中で、明大明治のつぎのような記述に目がとまりました。

明治の生徒は成長するにつれ、しっかりと自分の意見を表明できるようになっている。それが確認できたのが、社会科の松田孝志教諭が、中三の自分の受け持ちのクラスで展開する道徳の時間だ。

☆さすがは鈴木さんです。明大明治の松田先生の授業をきちんと取材されているからですね。松田先生の授業は、道徳の時間に限らず、社会科や総合学習、卒業論文編集の時間で、「探究―議論―編集―論文―自己評価―相互評価・・・」のサイクルを授業横断的に活用しています。しかも中1から高3まで、6年間の螺旋連続型のプログラムです。

☆大事なところはこのサイクルのすべてのプロセスで、生徒一人ひとりと対話をしながら、お互いの居場所をつくりながら、授業を展開しているところですね。もちろん居場所というのは授業の場所とか対話の場所も意味しますが、松田先生の本意は、言うまでもなく、生徒一人ひとりの精神的な居場所です。

☆自分の内面に、リラックスできる場所、沈思黙考できる場所、発想を喚起できる場所、世界の痛みを引き受けられる場所・・・をしかっり広げられるなら、生徒はいかなる局面でもタフにそして寛容な気持ちで生き抜くことができるということなのでしょう。

Photo_2 ☆松田先生の「6年間の対話と議論と論文」のプログラムへの思いと実践例がまとめられた書「心を揺さぶる授業 居場所づくりを支援する」(NTS教育研究所2008年2月6日)が発刊されました。ただ、部数がたいへん少なく手に入りにくいかもしれません。一般書店でも販売されていません。発行元のNTS教育研究所に問い合わせれば購入できると思います。

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首都圏 中学受験 2008 [63]

中村中も無事に今年の入試の幕を閉じ、今月23日から来年の入試に向け説明会を開始するとのことです。

☆今年の入試は、中村中にとっては、ついに次のステージに向かうために、広報活動から教育活動まで、至急再構築してあらたなアクションプランを立てることを余儀なくする事態を生んだようです。PDCAのサイクルにさらに拍車がかかるということでしょうか。

☆詳しくは、23日の説明会のときに公表されるでしょうが、この再構築促進の外的及び内的要因は、梅沢教頭先生からのお話から推定すると、次のようなものでしょう。

①併願校のレベルが高くなった。
 共立女子が圧倒的に増え、豊島岡や普連土、江戸川女子・品川女子の併願も増えている。

②それゆえ、必ずしも第一志望で出願していないレベルの高い受験生が増え、昨年は2月2日の手続き率が85パーセントだったのが、今年は63パーセントになっているのはそういう理由ではないでしょうか。

③今回の手続きが106名だったのは、いよいよ次のステージにシフトする兆しであると、学内では真摯に受け止め、新たな構えで動きだそうとういう気運が生まれている。

☆どういう方向性で進むのでしょうか。それはすでに今年の入試に現われているんですね。それは梅沢教頭の次の言葉に表われています。

「本校の保護者のサポートは受験生保護者のみなさんに大変喜ばれていました。『合格しました~』って抱き合えるってすごいですよね!『「まだまだお母さんがんばって』という励ましなどは我々にはできない部分でしたので、本当にホスピタリティあふれる対応だったと感謝しています。」

☆中村中の在校生の保護者にとって、自分の娘の通っている学校の質が高いことは重要なことであり、それは自分たち自身も持続可能にするボランティアをやりたくなるぐらいなのだという学校であることが明確に意識されるようになっているわけですね。生徒と教師と塾の先生方だけが応援してきた入試の風物詩のシーンに変化を生む出来事です。

☆保護者がそこまでやるのに、教師はもっとやらねばならないという気持ちになるのは当然です。すでに2009年度入試に向けての入試広報のメンバーを他の校務分掌に先駆けて発表しているそうです。要するに、一般企業的には臨機応変な人事異動があったということでしょう。

☆この新メンバーは極力5教科の先生をはずしたそうです。内部の充実なくして広報もないということなのでしょうが、本当のねらいは、広報のまたまた新しい戦略ですね。時代はハイタッチです。表現力です。研ぎ澄まされた感覚です。左脳的表現では、多くの人の心をつかめません。芸術は爆発だとか大きいことはいいことだ!というアートの時代が、日本にも実はあったんですが、今元気がない時代です。中村中は、もっと息吹を世に与える、そうシビレル体験ができる表現を用意するのでしょう。

☆破格な何かが生まれる予感。23日が楽しみです。

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首都圏 中学受験 2008 [62]

☆今春、白梅学園清修中学は、3期生を迎えることになります。各学年定員60名ですが、今回の新中1の入学手続きで、200名強の生徒数になるということです。人気のある学校であることの証拠ですね。

☆といっても、同校の人気というのは、少しニュアンスの違う人気のあり方なんですね。一般的に人気があるというと、入試の募集の段階で、倍率5倍とか、10倍とか、なにかこう過熱ぶりの雰囲気だし、広報活動も派手な展開のケースが多いのですが、どうもそういう雰囲気ではないですね。

☆広報媒体物も基本的なパンフレットや説明会告知用のポスターぐらいしか制作しません。合同説明会も必要最小限度の参加回数でしょう。塾との関係も浅からず深かからずですね。

☆どちらかというと新聞や雑誌などの取材に応じる以外は、同校のサイトで発信するぐらい―といってもこの発信力が毎日更新というすさまじいものですが―でしょう。

☆それなのになぜ?それは教育の質が高いからです。ですが、そのよさがどこでわかるのでしょうか。それは一期一会と口コミです。そして実は同サイトの一見学園の日常生活のブログによる何気ない発信がすさまじい広報の威力を発揮しているのです。

☆おそらくほとんどの広告代理店は、この柴田教頭の戦略を理解することができません。なぜかというと、彼らがパンフレットをつくるとき、柴田教頭が発信している極めて詳細で気配りのきいた目線とその情報は、目にはいらないからです。はっきり言えば、あまりに重要すぎて、パンフレットというページ数や文字数に制約のあるPR紙媒体では、全部削除されるような情報ばかりだからです。

☆私がなぜ出版に興味がなくなりマスコミでもほとんどコーディネーターで前面にでなくなったかというと、紙媒体というのは重要な情報を捨てて、読みやすくして儲けるシステムが成り立っているものが多いからなのですね。もちろん、そうでないところもあるので、そういうところでは少し控え目に顔をだしますが・・・。

☆現在ブログは、玉石混交の状況ですが、柴田教頭のように中高生や教員の生態系がわかる貴重な情報は教育界の宝石のようなものです。だからそれに気づいているマスコミの方はたいしたものだし、学校選択者の倫理的審美眼も驚くべきものです。

☆このブログに魅せられて、白梅学園清修の学校説明会に参加されて、さらに柴田先生の気概が先生方や生徒たちに浸透している雰囲気を感じられた方々は何度も学校説明会に足を運びます。受験生の43%は5回以上学校説明会や受験相談に足を運ばれているのです。

☆それにしても、柴田教頭の“Socratic Questioning”の手法には驚愕です。教頭室でお話をお聞きしていると、休み時間になるたびに、生徒が訪れます。あっ!お客様でしたか失礼しますと去ろうとするところを、どうぞ遠慮なく柴田先生とお話してと言うと、パッとにこやかになります。柴田教頭先生は、廊下に生徒と出ていって、そこで何やら問答が始まります。

☆「先生、どうして人間って平等でなければならないの?」と生徒が質問してきます。柴田先生はその生徒が発している背景を知っていますから、あたまから平等が大事だなどと説教を垂れることはないのですね。「平等である必要はないけれど、公平である必要はあるかもしれんなあ」と。「平等と公平って違うんですか」と生徒はまたまた疑問を持つわけですね。「努力をしたものもしないものも平等というのは少しおかしくないだろうか?そこは公平に評価した方がよいようなだ」と。するとその生徒は再びにこやかな雰囲気になるのです。

☆この時期の生徒たちは自分のクオリティを探し求めているし、高めようとするものです。そのクオリティを大切に守り高めるサポートができる学校が、本当の意味でクオリティスクールです。

☆柴田教頭先生は、来年の入試では、生徒1人ひとりのクオリティを大切できる入試も開発したいと新たな戦略をほのめかしていますが、具体的には何も語ってくれませんでした。それは秘密ですということなのでしょう^^)♪

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首都圏 中学受験 2008 [61]

☆今年の中学入試において、八雲学園は、入試4回すべて応募者数が昨対比100%を超えました。2科目受験と4科目受験という内訳をみると、2科目受験者は減り、4科目受験者が増えています。総合的な学力トレーニングをしてきた生徒が昨年より多く入学することになりそうです。理想のリベラルアーツと大学進学というマイルストーンのバランスがますますよくなるということでしょう。

☆横山先生のお話によると、175人が手続きを済ませたそうです。昨年よりも手続き者はまた少し多くなったため、1クラス35名の5クラス体制で出発できるとよいと考えているとのことです。

☆八雲学園の人気が高いのは、英語教育の多様な活動や多彩なイベント、教養にあふれる芸術鑑賞などいろいろあるのですが、わかりやすいのは、和田中の「夜スペ」ですね。

☆夜のケアのために塾と連携した和田中の話は、世の中を騒然とさせました。しかも世間は和田中に味方です。そのぐらい切迫したニーズが存在しているわけですから、それに対応できる和田中はすごいとなるんですね。教育委員会も世間の評判を悪くはしたくないわけで、その取引はまるで江戸時代の将軍家と江戸の民衆のバランス感覚に相似していて、不思議な印象を受けました。

☆ところで、そんなすごいことを、八雲学園はとっくに「特別進学プログラム」(「特プロ」と呼んでおきましょうか)として構想し、実行し、成果をガツンとあげています。和田中でさえ騒がれたわけですから、八雲学園の人気が高くならないわけがないのです。それに「夜スペ」と八雲学園の「特プロ」の決定的違いは、「夜スペ」は結局ゴールが高校入試。八雲学園の「特プロ」は大学入試です。

☆なんといってもポイントなのは、おそらく「夜スペ」は藤原校長のアイディアと人脈で動いたのでしょうが、「特プロ」は、ボトムアップとトップダウンの絶妙なバランスから生まれてきたものだという点でしょう。八雲学園には、生徒1人ひとりをケアするマンツーマンの対話方式=チューター制度があります。そして、その環境を整える近藤校長のトップの強い意思決定も存在します。この両者のバランスが常に最適化を生み出しているのですね。

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首都圏 中学受験 2008 [60]

☆あるパートナーと電車に乗り込むと、AERAの宣伝がありました。「うわー、今年の首都圏中学受験者数は60,000人超えたってえ~!こりゃやり過ぎだな。初心者営業マンの予算作成みたいだな」と思わず言ってしまいました。するとパートナーは「いいんすかぁ。元は日能研推計らしいすっよ。本間さんの前の・・・。」とさりげなく。

☆その瞬間「あっ、やりやがったなぁ。」と思わず笑み。パートナーが「気持ち悪いすよ。何一人で笑ってるんです?」と。

☆いやいや、実にあるシーンが思い浮かんだからだ。おそらくこの数字、N塾のある情報室の重鎮がえ~いやっちまえと思ってこれだと決めたに違いない、その様子が目に浮かんだからです。

☆まあ、どこの塾も私の49,000人仮説は低すぎると思うでしょうが、この60,000人超えは、これはこれで高すぎると思うのでは。なんだかんだと言っても四谷大塚推計の52,500人が妥当だろうということになってしまうのでしょうか・・・。

☆とにもかくにも、そうそう、N塾のブレインには、昔はマルキストがいましたね。これは結構資本論的には自らが搾取側だから理論だけで結局似非っぽっかたけれど、理屈は骨太でしたね。影響力はあったと思います。しかし、ベルリンの壁崩壊とともに、不思議なことに、その影響力も弱くなりました。時代というのはまっことおそろしい。そんな中で、頑強な思想の持ち主である別のブレインはヘーゲリアンだったと思います。この2人は共鳴もするけれど、後者の方が支配側に落ち着くのも思想のなせるワザだったのでしょうか。

☆さて、そのほかのブレイン、結局彼らがサバイブできているのも時代の流れですが、イエスマンかテクノクラートか、成金主義者ですね。これはN塾に限らず、組織というものはそういうものでしょう。

☆まあ、しかし、オーナーというリーダーのフォロアーとしては理想的なフォロアーはいないかもしれませんね。ずっとそんなことを思っていたのですが、いやいやマルキストとヘーゲリアンの二人にかわいがられながらも我が道をいく新人類世代のブレインがいたことを思い出しました。

☆それで思わず微笑んだのです。パートナーに「そのブレインはね、そうなんだ、珍しく、マキャベリだ!グラムシだ!ヘゲモニーだ!なんてキーワード使っていたんだよ。おもしろいだろう。」と語って聞かせると、「なるほどね。本間さんの言いたいことは、もしかして、日能研の中に・・・、マルチチュード戦術を使うブレインがいるってことっすか?」と、さすが勘の良い友人ですね。

☆マルチチュード戦術は、イタリアの反ファシスト地下ゲリラのような動きだと勝手に思っています。ニーチェ的なんですね。ヒットラーは、ニーチェ大好きで、ムッソリーニに全集か選集、あるいはツラトスツゥラぐらいはプレゼントしたらしいのですが、ムッソリーニはそんなものより、金と愛と酒と食事の日々の方がよかったでしょうな。その代りニーチェ的に動いたのは地下ゲリラです。彼らの座右の銘もニーチェだったとか。もっともこのエピソード、自分で確かめていませんから、不確実かも。ただ、マルチチュードの説明として使っただけです。

☆まあ、いずれにしても私とは違って、かのブレインは、ホッブスよりマキャベリを、デカルトよりスピノザを、カントよりヒュームを、エバよりガンダムを好むでしょう。まっ、独断と偏見ですが。

☆それにしても、60,000人を超えるという表現はどんなインスタレーションなんでしょう。ジョン・レノンが“Make all the clocks in the world fast by two seconds without letting anyone know about it.”とヨウコ・オノの詩を口ずさんだ瞬間を示唆しているのでしょうか?

☆ところで、来年の首都圏の中学受験生は63,000人になるのでしょうかね。急に右肩下がりにはなれないですからね。来年の調整はたいへんではないでしょうか。私が心配してもどうしようもないですが・・・。

☆しかし、私立受験のご家族の平均年収は1,700万円を超えるとか!ある週刊誌で載っていたようですが、私のパートナーはファイナンシャル系のビジネスマンですが「中学受験とともに景気がよくなるということですかね。テクニカルはともかく、まだまだファンダメンタルな情報で見逃しているものもあるなあ・・・」と微笑んでいましたね。

☆私にはとても景気の兆しは見えてこないのですが^^;

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首都圏 中学受験 2008 [59]

☆昨日2月11日、筑波大附属駒場中と開成中などが入学手続き説明会という名で受験生を招集しました。これによって、合格してさらに進学する生徒がはっきりしたわけです。

080212ns ☆筑駒と開成の両方に合格した生徒はほとんどが筑駒に進学するはずです。ですから、開成は電話で繰り上げ合格をしなければ定員を満たせないのです。しかし、合格発表時に、例年定員300名よりも多めに発表しますから、大量に繰り上げ合格を出す必要はないわけです。

☆今年も395名発表しています。日能研とSAPIXの合格者が、合わせて92名ですから、さすがは開成いい読みですね。それでも繰り上げ合格は出さざるを得ないものなのですね。いわゆる女子御三家のほうは、このような動きはほとんどありません。というのもかつては桜蔭と慶応中等部を併願し、両方受かった場合、慶応中等部を選択したものですが、今ではそのような動きはあまりありません。だからなかなか動かないのです。

☆ともあれ、開成と麻布、桐朋、駒東、筑駒は繰り上げ合格の動きがあったわけです。日能研の生徒が20人、SAPIXが12人、合わせて32人が合格したわけですね。塾はこの2塾だけではないわけですから、100件ぐらいの波及があるはずです。この100の動きが、ものすごい人数の動きを生み出すのがこの時期ですね。

☆日能研がこの時期多くの繰り上げ合格者を生み出すのは、SAPIXより生徒数が多いからということですが・・・。

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08中学入試問題とPISA[06] 駒東の国語の素材は衝撃的

08 ☆今年の駒場東邦は相変わらず長文の物語を読解する問題。受験生はまず15ページもの長さの物語を読まねばなりません。そして基本的な問いから最終的には創造的思考力を要する問いまで、読解リテラシーの多角的な視点を持っているかどうかが試されます。

08_2 ☆合格者の平均正答率は70%弱になるでしょうが、素材文そのものの中身は小6の男子生徒にはショッキングだったかもしれません。リアルな問題といえばリアルなのですが、なぜ入学試験でこのような素材が選択されたのか、いずれヒアリングのチャンスをと思っています。

☆71年生まれの長江優子さんの「タイドプール」という作品から出題されました。この71年生まれというのは、中学受験を経験している世代が活躍している世代でもあります。長江さん自身が経験しているかどうかわかりませんが、この作品の中でも塾に通うシーンは日常風景として出てきていたと思います。主人公は女の子。自分の母親も、おばあちゃんもガンという病気にかかっているし、自分の母親が死んだ後、家庭に入ってきた新しい母親、つまり継母との最初の葛藤とそれを乗り越えていく過程が書かれています。

☆世界の問題が、家庭の中にまで入ってきているわけですね。もはや世界や社会の問題を考えるのに、時事問題やニュースにアンテナを立てておく必要がなくなったかのようです。家庭の崩壊と新生、病気と死。舞台は簡単に日本から海外にシフトしたりもする。家族という世界と地球規模の世界の問題性が共通していることが、この世代の作家の作品の特徴です。

☆団塊・断層世代までは、中学ぐらいまではまだ大人がふんばって、世界規模の問題が家庭に入らないように、自分たちが防波堤になっているストーリーが多かったような気がしますが、最近の物語は、家庭の中に世界規模の問題が簡単に入り込んでいるという意味でのリアリティが強烈なイメージを結びます。

☆女性が描いた女の子の物語だから、男子校の受験生は、逆に冷静に読解できるのかもしれませんが、感受性の豊かな生徒はどう感じたでしょうか。もっとも駒東の文章の選択の傾向に慣れているから、そんなことはありえないのかもしれません。

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首都圏 中学受験 2008 [58]

☆この入試の時期は、私立中高一貫校のそれぞれの顔が見え隠れします。いつも通り合格者を出し、いつも通り召集日を迎え、繰り上げ合格者も一度出したら、それで終了という余裕シャクシャクの学校。生徒募集がうまくいかなくて、どうしてそうなったのか学内では大いに議論になって、次年度へ向けての態勢を整える学校。生徒募集がうまくいかなくても、なるべくその話には触れないで、知らん顔をしている教師が多い学校。様々ですね。

☆そんな中で共立女子は、生徒募集は成功しているにもかかわらず、学内で議論が絶えない学校です。共立女子の学校の特徴は、とにかく対話と議論による関係性のバランスを生み出すところです。

☆バランスをとるとは妥協するという意味でも使われる場合もあるでしょうが、共立が使うとしたら、最適化という意味で使われるのでしょう。複眼的視点から議論をすることによって、最適な仮説を立て、振りかえり、改善していくプロセスがいたるところにありますね。

☆たとえば、A日程の合格者を出す場合も、侃々諤々があったようです。昨年まではA日程の定員は120名だったのですが、共立女子の入試日戦略は、全体定員を減らし、徐々に2月1日シフトですから、今年のA日程の定員は150名に増やしました。それによって、応募者も増えたわけです。

☆そうすると、ここに合格者を何人出すと繰り上げ合格者を出さなくてすむのか、議論がわくわけです。共立女子は、基本的には繰り上げ合格者をできるだけだしたくないと考えています。受験生の気持ちやモチベーションを考えればそうなるのでしょう。

☆しかしです。この見逃しそうな考え方に、重要な背景があるんですね。合格者を出す意志決定に学習観の違いがあらわれるのです。一方では、定員を増やして、応募者も増えたし、A日程以外に、B日程やC日程も併願してくれているのだから、そんなにたくさん合格者を出さなくても、歩留まり率は高いだろうし、万が一の時は、B、Cの日程を受験してくれるだろうという考え方。ここにはある種の経営の論理も働いているし、エリートスクール的な発想があります。

☆片方では、BやCの併願をしてくれているのだから、あとから合格するより、A日程で合格した方がモチベーションが違うはず。今年はA日程の段階で少し多めにとろうという考え方ですね。偏差値にとらわれない、タレントを十分に伸ばせる自信に満ちた学習観で、エクセレントスクール的な発想があります。

☆結果的には前者の考え方が選択されたのですが、その仮説は外れたようです。C日程までになんとか態勢を立て直そうと、再び侃々諤々・・・。共立女子は全体としてみればエクセレントスクールですが、すべての教師が同じ発想を持っているわけではないのですね。そこに最適化プロセスが働く秘密があるのです。

☆教師一人ひとりの学習観と経営観と学校のベクトル(エクセレントスクールなのかエリートスクールなのか)は様々なのですね。だから葛藤が生まれ、議論が起こる。あとは市場の原理です。どの考え方が生き残るのかは、時ともに変容するし、教師の人材の強さによっても変わります。それになんといっても学校選択者のニーズですね。

☆共立女子の学習観は、常に新しいし、経営観も偏差値や大学進学実績重視の競争ではないですね。教育の質の競争を重視しています。学校のベクトルもエクセレントスクールです。議論の結果、学校全体としてはこのような方向に動いているのです。まさにブラウン運動体、あるいはアダムスミス的な見えざる手の環境を作っているわけです。

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首都圏 中学受験 2008 [57]

☆今年の中学入試において、京北学園の生徒募集は成功しました。6回の入試チャンスのうち昨対比が100%超えなかったのは、6回目の最終試験だけでしたが昨対比95%ですから、全体では応募者は増えているわけです。

☆そして歩留まりも昨年よりずっとよく、3クラス(25人/クラス)構成(つまり1クラス増)で新中1を運営できるのではないかということです。校長の川合正先生は「結局他の併願校に行く生徒は、学校説明会に来ないで受けてきていたり、あまりコミュニケーションがとれていない生徒がほとんなんだね。もっともっと受けてくれる生徒とていねいなコミュニケーションをしなければと思っているよ」と話してくれました。

☆まさに受験生は、学校を知る学びの体験に来ているわけですから、そこでていねいなコミュニケーションが媒介すれば、京北学園の質の高い教育を実感し、ここで学びたいという経験値をアップさせることができます。この体験から経験値にシフトする媒介項(intermediate function)が、京北の場合は、ていねいなコミュニケーション・プログラムですから、教育理念の内側に潜在的に存在しているので、学校に訪れ、実際にコミュニケーションをとらない限り、実感できないのですね。

Q ☆ですから、今後は授業におけるていねいなコミュニケーション・プログラムを、学校説明会やホームページやマスメディアに積極的に表現していくことがポイントになるでしょう。これからますます目が離せない男子私立中高一貫校です。

☆さて、今日で公立中高一貫校の発表がだいたい終わります。適性検査というのは運不運の振り幅がたいへん大きい不確定な検査ですから、残念ながら潜在的才能のある生徒が入学できないというケースもあるでしょう。女子校はまだまだたくさん受験チャンスがありますが、男子校はほとんどないですね。特に京北のようにすでに受験チャンスを打ち切っても良い学校が、もう一回チャンスを作ろうとうする学校はないようです。

東京私立中学高等学校協会の二次募集状況の情報によると、京北学園は3月8日に入試を補完するようです。今年の合格者は今まで以上にがんばっている生徒が多いので、その中でチャンレンジしてみるのも一つの人生の選択だと思います。

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学び野[03] 空間の媒介性

☆前回「<体験―媒介項―[経験値=体験=知識]―媒介項―[経験値=体験=知識]・・・>の連鎖を『結びつける考え方』」と述べました。子どもたちは、いや私たちおとなもですが、たんに体験しただけでは、ああおもしろかったで終わりかねないのですね。しかし、なんでも体験したものを経験値としてアップしようとすると、それはそれで問題があるのですね。

☆たとえば、私たちは毎日路上で多くの人と出会うわけですが、すれ違うという体験の中ですべての人との交流を経験値としてアップさせていたのでは、そうおいそれと路上を歩くこともできません。つまり、体験をスルーさせてしまうのは人間にとって当たり前のことなのです。

☆むしろ体験を経験値にアップするには、それなりの仕掛けなくしてはできないというのが当然の成り行きなわけです。たとえば中学入試で、受験生が多くの学校を併願し、併願校のほとんどが合格し、最終的に2校のどちらにするか選択判断に迷ったとします。そのとき最終的に決め手になるのは何でしょうか。

☆それは合格体験―進学経験値をつなぐ媒介項としての仕掛け=プログラムの質が決め手になります。合格者は、入試の準備のために説明会など学校を訪れます。そのとき学校は、選択されるための仕掛けを用意しています。つまり生徒獲得プログラムですね。

☆受験生にとっては、学校を知る学びのプロセスに投じられることになります。そのときこの学びのプロセスのおもしろさ・心地よさ・好奇心の喚起性・役立ち感・お得感などなどのインパクトのあったところでの経験値が大きくなるのは当然ですね。

☆さて、この学校獲得プログラムの構成要素ですが、教師の語り・教師との対話などがベースになりますが、それ以外に説明会資料というテキストもあります。そのテキストは文字ベース、つまり連続型テキストばかりではなく図やグラフ、絵などの非連続型テキストも入っています。また体験授業では、身体を動かしたり、音楽で声や耳を刺激したり、クッキングで臭いや味覚を大いにゆさぶったりゆさぶられたりします。

☆しかしこの学校を知る学びのプロセスで重要なものは、これらすべての図としてのプロセスの背景にある地としての空間です。空間の仕掛けが、すべてのプロセスをバックで支援しているのですね。

☆何気ないプロジェクターでのプレゼンも、その設置環境が悪いと、暗くて見にくかったり、眠くなったりして居心地が悪くなります。それはそれで経験値なのですが、選択しない経験値を高めてしまします。

☆テキストも読みにくい読みやすいは、レイアウトやデザインの二次元という空間デザインです。体験授業で、多目的ホールやちょっとしたフリースペースは、基本的に監視システムベースの学校空間の特徴の一つ強制という感覚を開かれた感覚に誘います。またチームで授業体験をするとそこにはアジト空間が広がりますから、親密度が生まれます。授業体験で友達作りができてしまうのですね。

☆麻布学園の文化祭にいくと、部活に参加できます。これが危ない^^)。将棋部などで、先輩と将棋をさすことができるわけですが、そこで先輩に勝ってしまう。ほんとうは負けてくれているわけですが、それはともかく、それで麻布学園の将棋部にいきたいという経験値アップということになるわけです。この話は私のかつての教え子の話ですから、一般化はできませんが。たとえばの話です。

☆体験を経験値にシフトする媒介項のうち空間そして空間は移動しますから時間ですね。学びのプログラムの構成要素というのは実は多様な媒介項のシステムなのです。私がHonda「発見・体験学習」のプログラムをデザインしていたときは、「媒介項」といっても哲学的用語風で受け入れられなかったので、別の言葉で置き換えました。それが「トリガー」という言葉なのですが、すぐに浸透したので、それにしました。学習理論では、グレゴリー・ベイトソンが使う用語ですが。ヴィゴツキーなら「最近接領域」と呼んだのかもしれません。

☆Honda「発見・体験学習」で、やりたかったことで、できなかったことは、時空のアフォーダンスプログラムですね。都市交通では、渋滞や交通事故を回避するためには、移動と空間の媒介項の開発が重要だったのですが・・・。人間の従来の経済活動から時空を都市空間に押し付けるのではなく、空間が語りかける仕掛け、つまり媒介項、つまりトリガーを考案するというのが時空のアフォーダンスプログラムなのですね。もちろん、物理的空間だけではないですね。エンジンという化学的空間が、物理的空間を移動したり、変容したりする人間という脳化学空間に与えるエコロジカルな影響も計算に入れる必要があるのです。つまり排気ガスの問題です。まあ、それはともかく、

①学びの空間

②学びの時間

③学びのテキスト(ツール)

④学びの仲間(年齢・世代・国などのミックス。つまりここでは時間性と空間性がコノテートされている)

⑤①から④を統合する学びの方法(ここでは記号のコノテーションとデノテーションの反転あるいは入れ子状あるいは入れ子状の逆のレイアー構造が生まれる)

☆学びの媒介項の基本カテゴリーは、上記の5つです。学校の場合だと校舎などの設計デザインの時に、学びの空間は計算されています。しかし、家庭や地域、社会では、学びの空間として設計されることは今まではあまりなかったと思います。図書館など点としての学びの空間(物象化されたという意味です)は設計されていても、エコゾフィー的な学びの空間はなかなかありません。

☆仙田満教授は、子どもの学びの環境デザインのリーダーですから、公園や学習施設をたくさん手がけています。イサム・ノグチの公園は、その先がけです。コンテンポラリー・アートは基本的には知性と感性をゆさぶる学びの空間を形成しています。

☆ロンドンやニューヨークという都市空間が新鮮で、何かを問いかけてくるのは、まさにコンテンポラリーアートという学びの挑戦が空間化しているからですね。見ようによっては、東京や京都のような都市空間はコンテンポラリー・アートです。しかし、日本人にとってはすでに日常化してスルーしてしまう空間かもしれません。時空との馴れあいを揺さぶるのが学びのプログラムでもあります。揺さぶらないとあるいは揺さぶられないと体験をスルーしてしまうんですね。

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首都圏 中学受験 2008 [56]

☆2008年の中学受験も終盤を迎えていますが、振り返りはこれから始まります。昨年と比較して応募者数を増やしている学校を中心に見ていきましょう。複数回数の入試チャンスをつくっている学校がほとんですが、設定した試験すべてにおいて昨対比100%を超えている注目すべき学校の1つが戸板です。

☆2005年に戸板を訪れたとき、たいへんな衝撃を受けました。当時の教頭先生は杉岡先生でしたが、品性あるそれでいて気迫のある言葉を使われていたのが印象的でしたね。そして教頭先生のブレインというかプロモーションの仕掛け人が伊藤先生でした。

Photo ☆2年前から杉岡先生が校長に就任されてからは訪問していませんが、伊藤先生をはじめとするブレインといっしょに戦略プロジェクトのリーダーシップを発揮している様子がはっきり思い浮かびます。

☆戸板の先生方とお会いしてから3年が経過しているわけですが、あの当時の創意工夫の継続が生徒募集で成功した大きな理由だと思います。クオリティスコアも高いですから、学校選択者の審美眼も年々磨かれているのでしょう。戸板の人気は、教育の質の評価の重要性を示唆するコトでもあります。

☆いずれもう一度お会いして、戸板のクオリティスクールとしての新戦略をお聞きする機会があればと思っています。

関連記事)

①戸板学園(1)~女子教育の基礎

②戸板学園(2)~生徒が伝える教育ビジョン

③戸板学園(3)~保護者に伝わる教育ビジョン

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学び野[02] 日本の教育の媒介項

☆前回は<体験―媒介項―経験値>の話をしました。この媒介項は、論者によって、コミュニケーションだったり、感性のインパクトだったり、ズレだったりいろいろでした。

☆さて、この<体験―媒介項―経験値>は鎖のようにつながるわけですね。一回の体験で人間は生きていくわけではないのです。だから、<体験―媒介項―経験値―体験―媒介項―経験値―体験―媒介項―経験値・・・>とつながっていくわけです。

☆そしてこの連鎖の中の[経験値―体験]の部分が「知識」になるわけです。つまり経験値=体験=知識です。こういう経験値を抱いて新たな体験をするとき、既存の知識を使うわけです。そして次に媒介項によって、経験値がアップするわけです。アップした経験値でまた体験をするわけですから、知識はまた広く深くなっていくのです。

☆この<体験―媒介項―[経験値=体験=知識]―媒介項―[経験値=体験=知識]・・・>の連鎖を「結びつける考え方」と呼んでいます。

☆ところが、日本の教育は、経験値と体験の空洞化した知識を覚える手法なのです。なぜそうなるかというと媒介項が、強制力だからです。とにかく覚えろという抑圧的コミュニケーションなんですね。京北の川合先生の「ていねいなコミュニケーション」とは真逆なんですね。

☆この日本の教育が強制的な学習観であることを、ベネッセコーポレーションが証明しています。詳しくは「教育のヒント」>日本の教育がクリエイティブ資本を拡大できないワケをご覧ください。

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首都圏 中学受験 2008 [55]

☆昨日5日、筑波大附属駒場中(筑駒)の合格発表がありました。日能研(Nと表記)とSAPIX(Sと表記)の結果はリストにある通りです。2月11日に入学手続説明会や合格者説明会が筑駒と開成で開催されます。これで、両方合格している生徒がどちらの学校に行くかがほぼ決まりますから、繰りあがり合格者が開成の方ででるでしょう。もっとも定員よりどのくらい多めにとっているかによりますが。例年通りだと、でるわけです。そうすると開成―栄光を併願している生徒の間でも動きがでます。

080206ns ☆すると麻布―栄光を併願している生徒にも影響がでるはずです。もっとも麻布は繰りあげ続けることは生徒の心に動揺を与えるので、どこまでも追うことはないですが。ともあれ、これからが中学入試の合格の第二ステージなのですが、2月いっぱいは、いつ繰りあがりの連絡がくるかわからないので、受験生と保護者は期待と不安の毎日になります。これはなかなか大変な期間なのですね。待てば海路の日よりありともいいますが、そう簡単ではありません。精神的な健康を保つよう努力してほしいものです。

☆さて、このリストを見て問題を感じられる方もいるでしょう。それはNとSで、リストの学校の総定員の70%以上を占めているということです。これは、いわゆる寡占とか独占状態で、本当はあまりよくないですね。

☆というのは、両塾とも企業ですから、市場の原理で動いているはずですが、受験といえども教育的な要素を意識しないと避けられないのです。何を言ってるのか?と思われるでしょうが、教育的要素で厄介なのが道徳なのです。

☆あるいは価値観と言ってもよいかもしれません。Nから開成に合格者が増えたとき、湘南エリアから生徒がたくさん通いはじめました。すると下町の雰囲気だった開成に少し違う風が吹き始めたと言われています。それからここ数年はSからの合格者が多いですね。特に開成は高校募集もしています。Nは中学受験しかやっていませんが、Sは高校受験もやっています。おそらく開成の高校入試はSの独壇場でしょう。

☆すると、開成は自分のハビトゥス(文化資本再生システム)の前に、Sのハビトゥスと常に闘争しなければなりません。開成の生徒が通う鉄緑会というハビトゥスとも闘わねばなりません。実際、自前の夏期講習の時間を増やして、塾に行かずに母校で学ぶ仕掛けを創っています。

☆もちろんNのハビトゥスもあるわけですが、Nはもともと人間形成は私学に任せ、知力にできるだけ傾注して子どもたちの支援をしようという自覚がありますから、私学に入るまでの子どもたちの人間形成は、通っている公立小学校と家庭の方針に任せるというシステムです。果たしてどこまでその成果がでているかは測りようがありませんが、そこは市場が決めることでしょう。Sのハビトゥスの性格はよくわかりませんが、それは開成の変化に表われてくるでしょうから、少し様子をみてみましょう。

☆いずれにしても合格者の寡占状態は、無意識のうちに多様な価値観が失われるという影響を私学にもたらしかねません。Nがシェア30%ぐらいでおさえようというのはCSRとしてはなかなかよいバランスだとは思います。

☆もっとも今年Nは開成と桜蔭の合格者のシェアは30%いってませんから、来年はこの両校に関しては、相当興味深い戦略を打ち出してくることでしょう。こういう市場の原理が働かないと、私学の価値の多様性が保てません。そんなこと言っても富裕層というくくりでいけば、結局同質の価値観しか持っていないだろうと言われるかもしれません。だから欧米はリベラルアーツを大事にしているのです。価値の多様性を自己演出できる能力が教養だからです。

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学び野[01] 媒介項って?

☆最近、アスコムの編集者の方々とブレークスルーMTGをしてます。10歳の壁を超える方法論やコンセプトをお母さんに伝えるとしたらというテーマ設定が多いですかね。私立学校の先生方や私の仲間を結びつけて、座談会をしようとか、私学の先生方とコラボ授業しようとか、講演会やろうとか、セミナーやろうとか、新しい企画をたてようとか・・・。思いつくまま。

☆小学生対象、中学生対象、高校生対象、大学生対象は、経験があるけれど、幼稚園生対象のプログラムはまだないので、この年齢層もやってみたいとか。もっともやるのは私ではなく、盟友岡部憲治さんとか仲間たち。わたしはつなげるだけ^^)♪~

☆さて、この間NHKのクローズアップ現代を見ていたら、ある友人から「お~い、今NHK見てるかい。フィンランドの就学前のそれそれ。その授業だよ。いろいろな物用意して、どれが水に浮くか浮かないかやってるだろう。実際にボールに水はって、浮かべてみてるだろう。日本のお受験でやってるのと同じだよ」と。

☆なるほど、日本では富裕層でしかやっていないような授業を、フィンランドでは子どもたちがみな体験できるのですね。しかし、けっこう日常でも体験できることで、それほどすごくないと思う人も多いでしょう。

☆たしかにそうですね。今の子どもたちは体験が足りないというばかばかしい議論しかないのが、日本で、フィンランドは違うんだな。体験の多寡はあまり問題ではないのですよ。アスコムの編集者の方々と、体験は大事だけれど、まさかそれだけで「地アタマ」とか「創造脳」ができるわけではないですよねと議論をいつもしています。

☆京北の川合先生が参入すると、そこにていねいなコミュニケーションが介在しなくちゃねということになるし、共立の渡辺先生がさらに参入すると、そのコミュニケーションが関係性を生むコトでないとねとなります。中村の小林理事長が加わると、知と徳と身のトライアングルの響きがそこになきゃとなるんですね。そしてそして海城の中田先生が入ると、感性をゆさぶるドラマや冒険がなきゃと具体的な授業に発展していきます。そこに岡部さんを連れていけば、マンガやアニメという反教育的メディアをぶつけてズレを生んだ方がよいと。

☆体験はただ通過しているだけではなく、体験自体に耳を傾けたり、身を浸したりして、いろいろ発見したものを結びつける媒介項が必要なんですね。媒介項があれば、体験したものは経験知になるんです。経験知にシフトすると、それは応用がきくんですね。

☆この媒介項の存在は、ヨーロッパの哲学の伝統で、三位一体発想なんです。中村の小林理事長の着想は、これなんですね。中村はカトリック主義?実はそうですよ。ここだけの話です^^)。この媒介項の存在を認めるのは、アメリカではプラグマティズムです。海城中田先生や岡部さんはこの思想に親しんでいますね。共立女子の渡辺先生や京北の川合先生は、むしろこの伝統を超えようとする思想に親しんでいますが、どちらもヨーロッパの伝統を踏まえています。

☆フィンランドの教育哲学はカントやヘーゲルの影響が強いようです。日本の公立学校の教育に足りないものは、この媒介項としての置き換えです。フィンランドの教育では、この媒介項を養う方法論が実践されているのですね。なんて話をアスコムの編集者の方々や白梅学園清修の戸塚先生と議論したりしている今日この頃です。

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首都圏 中学受験 2008 [54]

☆2008年中学入試も後半に入ってきました。それとともに、各塾の合格者数もサイトで公表され始めましたね。日能研とSAPIXのいわゆる塾業界で言われている「難関10校」と「御三家」の合格者数の比較表を作ってみました。一目瞭然、両塾で、これらの学校の定員に占める割合であるシェアは50%をはるかに超えているのです。この意味をつれづれなるままに・・・。

Ns ☆「難関10校」とは、15、6年前に日能研が掲げた戦略の名残です。当時は日能研はまだまだ神奈川で強い塾というイメージでした。東京は、桐杏学院、国立学院(今のENAの前身)、TAP(SAPIXはここから枝分かれ)、何といっても、テスト会の四谷大塚が拮抗していました。

☆ですから、いわゆる「御三家」で比較すると、経営上うまくいかないわけです。かといって、当時日能研からたくさん合格していた麻布や栄光、聖光、フェリス、慶応普通部で比較してどうだと言ってみたどころで、栄光に合格する生徒が麻布に合格しただけで、神奈川エリアで強い塾というローカル塾を脱することができなかったのですね。

☆もともとは、今から22、3年前に麻布が、2月1日・2日両日入試を1日のみにしたのが、日能研を首都圏全域に進出させる大きな誘因となりました。もともと慶応普通部、栄光に入学させる塾だったのですが、麻布―栄光という併願ラインが組めたわけですから。このとき二代目の今の高木代表が、跡目相続^^;をしたわけです。同時に大型コンピュータ戦略も始めたわけです。ビジネスチャンスに機微だったと思います。当然コンピュータ戦略は情報戦略でもありますから、情報センターも設立。ここから中学受験のマーケットをいかに日能研流儀(日本を救う教育拠点私学をいかに応援するか、それが結果的に輝く目を持つこどもたちを救うことになるという信念)に仕上げていくか社内全体が大きなベクトルに向かっていくことになりました。

☆そのためにも神奈川エリアの塾から首都圏そして全国全域の塾に拡大しなければならなかったのですね。高木代表以前は、日能研は合格販売株式会社という異名を自ら語っていたわけですが、それでは、教育をサポートする役割を担えないのですね。そこでコンピュータのDB作成によって、テスト測定学と入試情報(当時は噂情報が中学受験のマーケットを怪しいものにしていましたから)を普遍化していく戦略を実行していきました。

☆全国の日能研教室を使って、全国学力調査テストもとっくにやっていましたよ。そのレポートは毎年立派なもので、臆面もなく私立学校に送りつけていました。アカデミックに私学の門をたたき、門前払いもくらいましたね。しかし、当時の情報センター所長は、メディアを使って、私学の使命や市場開放性を筆圧で攻めました。ほとんどデマゴーグ^^)でしたが、効き目というか影響力はありました。麻布の数年後開成も両日入試をやめます。ただし、開成は麻布との関係でそうするかどうか決断したのであって、日能研の情報センターに知恵などは借りていないという慎重な作戦で動きました。だから、結果的に時期が遅れました。

☆しかし、それが当時の情報センター所長と教務次長ともちろん今の高木代表のねらいだったのでしょう。当時の日能研にとっては、時間が必要だったのです。開成―栄光の併願ラインがすぐにできると、麻布の合格者が開成受験にシフトしてバランスが崩れて、首都圏進出の足がかりを失うことになるのですから。

☆首都圏では神奈川の日能研から麻布の日能研へとまずはイメージシフトし、生徒を確保しつつ、首都圏の日能研にチェンジしていこうという戦略のためには、開成が両日入試をやめることがポイントでした。ただし、開成がその動きにでるのは、市場の原理からいって明らかだったのです。神奈川の優秀生が麻布―栄光―浅野ラインで堰きとめられて開成にこなくなるのが学内で問題になるのは想定しやすかったですから。

☆だから、その時期を少しずらして欲しかったのです。開成というレベルの学校は、田舎塾の言うことなんかに耳を傾けるはずはないですから、煽れば時期をずらしてくるはずだと予想したのでしょう。

☆この時間稼ぎの間に、開成に合格する秘策を練りました。実戦レベルでは、24年ぐらい前の塾間の市場競争で有名な(?)津田沼戦争で力をつけた日能研津田沼校が中心に開成合格者を出すノウハウをつけていきました。教務のシンクタンクでは、カリキュラムの大改訂を行い、「授業―テスト―評価―面談」サイクルと「4年―五年―六年の序・破・急急」というダイナミックプログラムを開発していきました。

☆そして、開成が両日入試を2月1日にシフトしたときから数年もたたないうちに実行したのが「600作戦」です。2月1日校の中から、御三家ではまだ勝てないので、「難関10校」というデファクト・スタンダードをつくってしまおうという戦略です。当時開成合格者数は25名までは達成していましたが、倍増しなくては首都圏進出のインパクトはないと考えていました。

☆しかしながら、開成だけではだめだったのです。全社が取り組める求心力あるかつ効果的なプランが必要だったのです。日能研の教室長は、基本的に1人ひとりの生徒の受験戦略のサポートをします。ですから、開成だけのためには動かないのです。今も合格がなかなか決まらない生徒のケアと朝の応援に奔走しています。彼らには偏差値は関係ないのです。外から見ていると、不思議でしょう。しかし、それが逆説的なんだけれど、日能研の伝統です。おそらくあれだけの生徒数をかかえているのに合格率はどこの塾にも負けないですね。それだけ、私立中高一貫校全体を教育拠点だと信じているわけです。そこが日能研の強みであり弱みでもあるのかもしれませんが。

☆ともあれ、そこで、「難関10校」に600人合格という目標を掲げました。10校総定員数のシェア25%をまずは超えることが目標ということになったのです。これは初回からは達成できませんでしたが、まずは麻布の合格者を減らさずに、開成の合格者を50名ぴったり、つまり予定通り倍増することはできました。ちなみに私はそのときの開成プロジェクトチームのメンバーの一人でした・・・。

☆しかし、この「600作戦」は両刃の剣です。パラドックスやジレンマがあります。シェアを30%ぐらいにしておかないと、日能研は成立しないのですね。今年の結果で、開成と桜蔭に関してはSAPIXに相当やられましたが、全体としては当時の戦略が良い形で、受け継がれています。それに、来年は、日能研もさすがに黙っていないでしょう。

☆でも大事なことは、日能研にとって、「難関10校」だけが私立中高一貫校ではないということです。子ども1人ひとりにとってクオリティスクールはどこか、子どもと保護者といっしょに考え、今も続く中学受験で、子どもたちを支えています。それは外から見ていただけでは、なかなか理解し難い支援行為だと思います。この支援行為を純粋に取り出すと、世界の痛みも癒すことができるかもしれません。中学受験の文化の中で生まれたその部分の普遍化が貴重なリソースだと思うのは、教育のパラドックスかもしれませんが、このパラドックスの解を出さない限り、日本の教育の未来は見えてこないと感じるのは、私だけでしょうか。

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08中学入試問題とPISA[05] 桜蔭の国語は推論がベース

0807 ☆今年の桜蔭も記述が中心でした。昨年と比較すると難易度は変わらないのですが、リテラシー能力のカテゴリーに少し変化がありました。OECD・PISAの指標に照合して昨年と今年の能力カテゴリーを比較してみました。

☆知識といっても漢字の書き取りですが、これは全く変化がありません。昨年は「情報の取り出し」「テキストの解釈」「熟考と評価」の問いのバランスがよかったのですが、今年は「テキストの解釈」に偏っています。

☆もっとも、「テキストの解釈」は文脈を推理しながらイメージや意味を生み出していくので、「情報の取り出し」のときに使う論理と「熟考と評価」の時に使うイマジネーションを少し使いますから、結果的にバランスは崩れていないということかもしれません。むしろはっきりしたことは、「テキストの解釈」という文脈から推理する思考スタイルが、桜蔭では重要だということです。「モザイクトレーニングから置き換えトレーニングへ」が桜蔭の読解リテラシーで要求されていることなのです。

☆ふだんから文章の要約をするとき、文章中の言葉をつなぎ合せるモザイクトレーニングではなく、さらに別の言葉で置き換えてみるトレーニングも必要だということですね。

0807_2 ☆さて、難易度の比較をレベル別に比較したグラフも作りました。「批判的思考力」を要するレベル5の問題が多くなっていますね。創造的思考を要するレベル6の問題とは、次のような今年の最終問題です。

「おじいちゃん」は、「ひとりの人間のこの世の役割とかは、人間にはわからん」という箇所もふくめて、「知らんということはつよいことや」と言っていますが、そこから、「おじいちゃん」がどのように考えているとわかりますか。200字以内で説明しなさい。

08_5☆この問題は周りの人たちの死に直面しながら、そこから逆に生きるということを考えるという問題で、たんに文章を解釈するだけではうまく解答が導き出せないないですね。「熟考と評価」という自分なりの考えやイメージを引き出しつつ、文章の意味を推理する必要があります。だからレベルは6なのです。昨年の合格者の平均点をPISAメソッドでシミュレーションすると、58.4%で、今年は60.9%になります。最初に述べたように、全体としての難易度に変化はありません。

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08中学入試問題とPISA[04] 開成の国語は論理と創造と②

☆今年の開成の国語の入試の結果が、同学園のサイトで公表されています。前回「OECD・PISAのレベル指標で合格者の平均をシミュレートすると、採点許容も考慮(漢字と記述の配点差が大きすぎるため)すると41.5点(85点満点)ぐらいでしょうか。昨年より難しかったということになるのでしょうか。」と書きました。

☆公表によると、合格者の平均点は46.3、受験生全体の平均は39.3だそうです。昨年の合格者の平均点は58.8、全体は50.2ですから、たしかに今年の方が難しかったようです。

☆「採点許容も考慮(漢字と記述の配点差が大きすぎるため)すると」と言いましたが、機械的にOECD・PISAでシミュレートすると合格者の平均は47.7なんですね。

☆OECD・PISAの基準と中学入試のレベルには、相当関係がありますね。ますます、PISAの枠組みを活用していきたいと思います。

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08中学入試問題とPISA[03] 開成の国語は論理と創造と

☆今年の開成の国語の入試問題で出題された素材文としてのテキストは、15、6年前まで長文1題構成と短い文章2題構成が2年おきぐらいに交代して出題されていたころの2題構成に戻ったという感じです。

☆特に今年のテキストは、昨年「ALWAYS続・三丁目の夕日」がブレイクしたからでしょうか、時代は大正時代を背景にした里見順の「わが胸の底のここには」の小説があつかわれているのですが、まだまだ昭和30年代にも残っていた、教師と悪戯生徒たちと正義感あふれる生徒の純粋な葛藤がテーマです。読んでいてあまりの懐かしさと互いに思いやる子弟愛が逆説的にすれ違うジレンマに思わず涙腺がゆるんでしまいました。受験生の中にそんな感受性を思わず作動させた子がいたらまずいなぁと思いましたが、そんなヤワな子は開成受験生にはいないかと思いなおしました。この小説は4000字弱でした。

☆もう1題は、永平寺のお坊さんのエッセイで、1600字ぐらいですから、合わせて5600字。ここ最近7000字ぐらいの文字数をテキストとして出題していたのに、何かカリキュラム変更でもあったのでしょうか。

08_3 ☆テキストの文字数は、15、6年前に戻ったのですが、問いの構造はここ数年の流れです。すべて記述と論述です。85点満点で、4つが漢字の書き取り、残りの7問が記述・論述です。OECD・PISAのカテゴリーで分けると、知識の割合が多くなりますが、配点が漢字と記述・論述では違うので、合格者の平均点をシミュレートするには、そこは考慮しなければなりません。

☆それにしても、

「・・・あなたが、人の人生や経験を知ってこのように頭を下げたい気持ちになったときのことを思い出して書いてください。どんな人に対して、どのような気持ちになったのか、説明しながら120字以内で書くこと。身近な人に限らず、本で読んだり人から聞いたりして知った人のことを題材にしてもかまいません。」

☆昨年の夏、開成のH先生は、独特の宗教教育を実践している一燈園という学校で、ほかの私学の先生と研究授業を行っています。新聞でも話題になりました。ハーバード大学のハワード・ガードナー教授も、創造性と知恵の両方を統合するTrusteeshipなるものの研究をしていますが、要は倫理なき先進性ではなく倫理ある創造性―ガードナー教授は“Good Creativity”とも言い代えていますが―、を入試の段階で発掘しよというのでしょうか。

08_4 ☆それはともかく、OECD・PISAのレベル指標で合格者の平均をシミュレートすると、採点許容も考慮(漢字と記述の配点差が大きすぎるため)すると41.5点(85点満点)ぐらいでしょうか。昨年より難しかったということになるのでしょうか。もうすぐ合格発表(いま13:04です)が行われますね。行われているのかもしれません。いずれにしても、開成の場合、試験結果が開成のサイトで発表されますから、あとで照らし合わせてみましょう。

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首都圏 中学受験 2008 [53]

☆本日3日は、雪の中学入試となりましたが、多くの学校が予定通り入試を開始したようです。筑波大駒場、浅野、海城、逗子開成、学習院女子など滞りなく行ったという話ですから、同じエリアの沿線の学校も同様でしょう。とにかく雪道で事故など起きないことを願っています。

☆さて、首都圏中学受験の応募者総数は、2008年2月2日で、304,647人で、昨対比92.8%です。ここから増える応募者は、新しい受験生はほとんどいないと言ってよいでしょうから、やはり受験生の数は、49000人ぐらいが妥当ではないでしょうか。すくなくとも52,500人とか53,000人という、読売や毎日新聞が報道したような数にはならないのではないでしょうか。

☆もちろん中学受験の市場が冷えるからと、51,500人ぐらいの数字を塾が持っているどこの情報センターでも公式数字として発表すると予想されます。しかし、これは市場の原理ではないですね。むしろ市場の原理を阻害する操作性が感じられます。

☆もし、中学受験の市場を活性化させようとするのなら、大学進学実績や偏差値を優先順位の高い選択指標にしていてはダメダメでしょう。だいいちこの指標の信ぴょう性は、大学改革や大学全入時代、海外頭脳流出の時代にあって、時代遅れです。市場は時代に敏感ですから、古い指標ではどうにもなりません。

☆本来私学は、授業ベースの質の教育の競争なのです。それを無視するヤカラが、自分たちのやってきた土建屋的発想で私学を操作しようというのが、おかしいですね。どっかの週刊誌で、パネラーとして吹いている風でしたが、ああいいう人物を、すごい人だと崇める私学の先生方もいるので、そういう私学はとりあえず信じないことにしています。塾としても迷惑だというのに。原始的資本の論理だけで吠えるヤカラには本当のところ困っている塾のオーナーもいるはずです。

☆ともあれ、面白い人だね、ああいうのもあってよいと笑い飛ばす私学人は、したたかで痛快です。それもまた市場の原理ですから^^)。シンガポールの人たちが、戦争を忘れるわけにはいかないが、コミュニケーションはとっていくよと同じ論理なのでしょう。

☆やはり、授業やカリキュラム、プログラム、教師の創造的コミュニケーション、学びの空間を評価して学校選択の意思決定をするというのがこれからの時代の王道です。その意味でも、独自の視点で学校の授業の取材をしたフィールドワークの傑作「名門中学・最高の授業」 鈴木隆祐著(学研新書)は逸品です。

☆一方、受験情報誌のライターや各模擬試験センターのスタッフの弱いところは、自らカリキュラムもテキストもテストも編集したことがない人が多いし、学びの空間をデザインしながら学習プログラムを創出したことがない人がほとんどだということです。要するに売れりゃいいとだけ思っている、CSもESもCSRも意識しようと思っていない方々です。

☆そんな中で、ある情報センターのメンバーが強かったのは、86年ごろに立ち上げた当時の所長が、ある大手塾の教務部長の経験があったことですね。その薫陶を直接受けたスタッフが、実に大活躍してきました。それは教育や授業、カリキュラムの本質を見る目をトレーニングされていたからでしょう。所長の方は、もうとっくの昔にその情報センターを辞めてしまいましたが、まだそのメンバーの幾人かは、その塾に残っています。土建屋風、起業家風の経営陣に負けないで、本質的指標で情報を編集して発信し続けることを期待しています。私学の教育の質の競争が成立するかはどうかは、彼らの双肩にかかっています^^~♪。

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08中学入試問題とPISA[02] 麻布の国語の新しさ 

☆今年の麻布の国語の入試問題では、いつものように素材文としてのテキストは8000字程度の物語が出題されました。問いもおもに二人の少女の心情の変化を、レトリック(比喩などの表現)の解読を通して、丁寧に追っていき、心情の大きな変化に表われる少女たちの成長について考える問題でした。そして、その成長が具体的にどういう変化なのか、それからその変化のきかっけになるメディア=媒介項(テキストの中では鏡)のロールプレイは何なのかについて論述する問題でした。つまり、問いの構造自体は麻布の顔そのものだったわけです。

☆しかし、テキストが少し新しい感じがしましたね。安東みきえさんの著書「夕暮れのマグノリア」の中の一つの章「循環バス」が選択されていたわけですが、安東さんが断層世代であるので、アニメやマンガの影響もうけているのでしょう、たいへん読みやすい文章だったというのは、従来とは違うところかもしれません。いやいやここが危ないのです。ドラえもんのように、どこでもドアで、日常から非日常にワープする極端な場面がないので、逆に気づきにくい物語の構造になっています。

☆死喩と比喩が表裏一体になっているので、比喩が隠れているのが見えにくいのです。たとえば、循環バス自体が、いじめの悪循環の比喩なんですが、そう読み取らなくても、物語は読み進めてしまうのですね。あのテキストは、昨年の5月に出版されていますから、やはり毎年5月前後に出版される本を活用する可能性があるのです。つまり表現やテーマが時代に沿うものが出題され続けるというのは、麻布の1つの見識ですね。この見識はまさに不易流行。麻布が私学の系譜のルーツでありながら、常に新しいのにはそういうワケがあるのでしょう。

08 ☆さて、PISAの指標に従って分析した結果を見てみましょう。PISAの読解リテラシーの思考のレベルは5で止まっています。学習指導要領は3で止まりますから、国際標準と合わないわけですが、麻布の国語の問題はすでにPISAを超えてしまっています。これは前回ご紹介した雙葉も同様です。

08_2 ☆また、情報の取り出しのような問題は少なく、文脈や物語の構造から推理していく「テキストの解釈」の問いが圧倒的に多いわけです。そして、テキストから離れてテーマの背景を創造的に思考し論述する「熟考と評価」の問題が圧巻なのです。PISAの指標で合格者の平均点を推測してみると、33.4点(60点満点)ぐらいになります。もちろん、実際のデータではなく、あくまで予測値です。

Azabusoci ☆それにしても社会の最終問題は、いつもながら脱帽ですね。今の立法府である国会の時限立法などの議論なき議論にもの申す問いかけですね。国会議員のみなさんに解いてもらいたい問題です。PISAの指標で言えば、この社会の問いも、レベル6で、カテゴリーは「熟考と評価」になります。

Kenji *PISAの指標や基準については、国際教育研究家岡部憲治さんの「世界標準の読解力 OECD・PISAメソッドに学べ」がよくできています。白日社から出版されていますが、編集者鳴瀬さんのお話では、大学の先生が購入されているケースが多くなってきたということです。あるエクセレントスクールの私立学校も10冊いっぺんに購入されたようです。全国学力テストや公立中高一貫校の適性検査の作成にも役立ちます。岡部さんも私もいくつかの自治体の学力テストや適性検査に直接間接かかわってきたので、無責任なノウハウ書ではありません。「私立学校の入試問題の分析」、「公立中高一貫校の適性検査の分析」、「私立学校の学習プログラム編集・運営」、「国立中学の学習プログラム編集・運営」、「自治体のカリキュラム編集支援」、「センター模試や私立中学の学力診断テストの編集・評価分析」という現場経験から生まれ出た本です。テストの作成者の意図どころか、仕掛けを見破る奥義でもあります^^)。

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08中学入試問題とPISA[01] 雙葉の傾向完全に変わる?

☆昨年の雙葉の国語の入試問題から詩が消えましたが、今年もそうでした。どうやら詩の雙葉ではなくなったようです。しかし、基本線はかわっていません。素材文として詩は出題していませんが、比喩が表している内容を記述するレトリック問題はたくさん出題されています。

☆独立した知識はなくなりましたが、文脈から推測する知識問題もたくさん出題されています。しかし、次のような知識から文脈を作り出す、非連続の連続性をつくる問題も出題されています。

◆次の各グループのカタカナを漢字に直し、それを用いて短文を作りなさい。

①フンパツ カンゲキ ソフ

②ハイユウ ゼッサン チョメイ

③ハソン ユダン シャザイ

④ロウホウ カクテイ コウホ

08 ☆OECD/PISAの読解リテラシーのカテゴリーで雙葉の国語の問題を分析すると、テキストの解釈の問題が50%です。文章の中に直接は書かれていないけれど、文脈から推測して解答を記述する問題が多いわけです。「映像と比べて、本を読むことの魅力はどこにあると思いますか。100字以上150字以内で述べなさい」というような完全に自分の文脈を作り出す問題も多いですね。これはカテゴリーでいうと「熟考・評価」になります。

08_2 ☆各カテゴリーのレベルもハードルの高い問題が多くなっていますから、合格者の全体の平均正答率は55%ぐらいでしょう。差がつかないので、他教科の得点差が決め手になっている可能性があります。学校当局は今までとは違う資質の生徒を求めているのでしょうか。雙葉学内で、何が起きているのでしょう。

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首都圏 中学受験 2008 [52]

☆東急線と田園都市線は、クオリティスクールの拠点だし、千葉・東京からも横浜からも縦横無尽というか波状というか電車網が密につながっていく計画が実行され、今も新たな計画が生まれています。

☆この地域に男子私立中高一貫校の武相があります。1人ひとりの才能を開花させる創造的なコミュニケーションをとれる教師と才能を触発する学びの空間が、閑静な住宅街の丘の上にあるのですね。

☆武相の生徒募集はきめ細かく、1人ひとりの潜在的な才能を見出していきますから、受験したら誰でも合格できるというわけではありません。もちろん厳しくてハードルが高くてということはありません。きちんと武相をはじめとする私立中学に入学するための基礎準備を真面目におこなっていれば問題はないはずです。

☆その準備を事前に用意ができるように常にサポートしてくれるのが武相の生徒募集のユニークな手法です。一期一会を大事にするし、その方法論まで伝授するわけですから、自分の才能を活かしたいという気持ちを尊重してもらえます。

☆今回も武相のサイトは、たいへん画期的です。1回目の入試問題を公開し、心と知性の構えの準備を支援してくれています。また、名目倍率ではなく、実質倍率も公開してくれています。武相の複数回の入試にまたがって出願している生徒が、一回目に合格すれば、二回目は受験しないわけですから、受験者はその分減ります。すると実際の倍率も下がるわけです。その場合、精神的には少しゆとりをもって臨めます。受験当日というのは非日常の高ストレス環境です。その環境を和らげ、少しでも実力を出して欲しいという生徒の成長を見守る武相の先生方の眼差しがイメージできます。

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首都圏 中学受験 2008 [51]

Hp ☆この時期になると、ほのかな香とあたかさを感じる東京女子学園の梅を思い出します。今年は22年間やってきた入試応援をしていないから、受験生を握手で応援できないけれど、かってにブログで未来を創る学校ですてきな学園生活を送れるように祈っています。

☆さて、東京女子学園の理事長・校長實吉先生の学内の日々進化なりという、毎日が改革という静かな情熱はまさに梅の存在そのものですね。「子供たちは、自身が生きる時代を選択できません。そこで、今生きている時代とこれから生きていく時代を自分のものとし、その時代時代をより善く生きるために、自分の責任において事柄を選択することができる力をそれぞれが身につけてもらう。このことこそ、本学園が果たさなければならない教育的課題と信じます。」という実吉先生の信念は、ハーバード大学のハワード・ガードナー教授の教育理論と共通するものがありますね。

☆ニューヨークのクオリティスクールの精神に通じるということでもあります。協働することをベースにしますが、甘えの構造では困ります。個人主義では当然ないのですが、自由と倫理のバランスをとりながら革新的に生きていける女性の輩出を理想としているのでしょう。この教養ルーツは實吉先生の麻布の青春時代にあるのでしょうね。

☆名門校は名門校を創る!今日の東京女子学園は、≪私学の系譜≫の本流にあるクオリティスクールです。昨日、そしてたった今(11:11)行われている入試の応募者は昨対比100%を超えてしまっているほどです。

☆しかし、今日の午後入試(今は11:18です。まだ出願できます。詳しくは東京女子学園のサイトをご覧ください)と明日以降の入試はまだ昨対比を100%超えていません。といっても倍率は高いので、驚くかもしれませんが、まずは電話をしてみてください。そこから未来は拓けるはずです。あきらめないで、がんばりましょう。

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首都圏 中学受験 2008 [50]

☆昨日2月1日、東京・神奈川エリアで中学入試が始まりました。中学受験生が挑戦する試験のチャンスは300弱です。このエリアの私立中高一貫校の数も多いのですが、入試を午前と午後設定している学校も多いからです。

☆チャンスは多いほどよいわけです。市場の原理を私学は活用しているわけですね。もちろん、これはTrusteeshipに支えられた市場の原理で、経済的利益追求の競争ではなく教育の質の競争です。

☆それにしてもすごいのは、2月1日に入試をやって、その日のうちに合格発表をやる学校の数の多さです。約80%が合格発表をしてしまうのです。

☆ですから、併願戦略を入試前にきっちり立てておかないと、実際にはあっという間に合否が決まっていくので、混乱するし、パニック状況が生まれます。ですが、そんなときこそ、目の前の状況から少し視線をズラし、6年後、10年後、12年後に思いをはせましょう。

☆たとえば、大学進学実績や偏差値にこだわって、併願校を変えられないでフリーズしているとき、はたして、次のような記事の私学はどう思われますか。毎日新聞(1月30日15時2分配信)の記事です。

埼玉県入間市の私立狭山ケ丘高校(小川義男校長、生徒1074人)が、受験料を負担して一部生徒に本人の志望しない有名私大に出願させていることがわかった。在校生が毎日新聞に証言した。これまで同校は「経済的に苦しい生徒の受験料を一部負担している」と合格者の水増し目的を否定していたが、この生徒は「経済的な苦労はない。合格者数を増やすための出願としか思えない」と話している。

☆私はこの問題は私学の経営の倫理の問題ですから、興味はありません。なぜなら、それぞれの学校の経営者の倫理観も市場の原理で淘汰されるだけだからです。かわいそうなのは大学進学実績があまりに選択指標の中で唯一絶対のもののように、マスコミも選択者も、なんといっても自治体や政府も共同幻想をつくってしまい、責任を塾に転嫁しているほどですから、学校も見識を喪失してしまうときがあるということです。

☆だから、これはこの私立学校だけの問題ではないのです。私がクオリティスクールやエクセレントスクールにこだわるのはこの点なのです。この共同幻想を破壊的に創造できる学びの環境こそ、クリエイティブ人材を輩出できます。もはや国や企業だけに依存するのではなく、自分で判断し発想し、起業していく時代です。お国のため、企業のためにクオリティライフを犠牲にする時代じゃないし、賄賂をもらって嘘栄の生活がクオリティライフだと錯覚してまかり通る世の中でもないのです。

Photo ☆もしも併願の変更をすべきかどうか迷ったら、私のクオリティスコアを参照してください。昨年編集した「07年私立中高一貫校クオリティスコアの公開」が役に立つかもしれません。もちろん独断と偏見ですから、ご自分でいろいろ調べたりしてください。そんな時間がないという方は、直接気になる学校に電話で相談してみるのがよいと思います。

☆また、エリートスクールを中心に併願受験し、複数合格して、最終選択をするときに迷われた場合、独自の視点で学校の授業の取材をしたフィールドワークの傑作「名門中学・最高の授業」 鈴木隆祐著(学研新書)をお読みください。今週出版されたばかりの新刊書です。おそらく私立学校を社会学的かつ現代思想的かつリベラルアーツ的視点できっちりまとめられた本は今までにないでしょう。私立学校にとって讃えられるべき本です。鈴木さんは「名門高校人脈」(光文社新書)など数々のベストセラーを世に問うています。

Photo_2 ☆私のクオリティスコアの考えもちょっぴり紹介してくれていますし、ぜひお読みください。そういう私もまだ手に入れていないのですが・・・^^)。といっても刷り上がりのホヤホヤを編集者の方が出版前に差し上げられませんがとチラッと見せてくれはしましたが、それはともかく私もネットで申し込んだので、はやく届かないものか待ち遠しいですね。

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首都圏 中学受験 2008 [49]

☆今日の読売新聞毎日新聞の中学受験に関する記事はおかしいのではないかなと思いますが・・・。

大手進学塾「四谷大塚」によると、首都圏(東京都、神奈川、埼玉、千葉県)の私・国立中294校のうち、1日だけで205校が入試を実施。08年の首都圏の受験者数は過去最高の5万2500人(予想値)に上り、ゆとり教育による「公立不信」が背景にあるという。(2月1日16時38分配信毎日新聞)

☆2008年2月1日現在、日能研の倍率速報の「サマリー」によると、今年の首都圏の中学受験応募者数は296,877人で昨対比90.5%です。昨日現在の段階で昨対比90%ですから、昨年を上回るというのはどういうことでしょう。受験者数と応募者数はもちろん違いますが、現段階で上回るというのは、なんか釈然としません。

☆もしも実態は上回らなかったら、次の発言はどうなるのでしょう。やはり毎日新聞の記事です。

首都圏の多くの私立・国立中学校で1日、入試が行われ、中学受験はピークを迎えた。東京都杉並区内の小学校では6年生の半数が受験のため欠席。教室は閑散としていた。副校長は「加熱しすぎもいかがなものかと思うが……」と首をひねっていた。

☆「加熱しすぎ」とはいかなる計算でしょうか?読売新聞にもこうあります。

都心部の公立小学校では、この日、受験のために小6児童の7割が欠席するところもあり、過熱する中学受験ブームの“影”も浮き彫りにしている。

☆すごい主観的なようで通俗的記事ですね。過熱しているかどうかもまだ定かではないうえに、中学受験ブームの“影”と表現していますね。7割が欠席というのは、公立中学が危ういと消費者が判断した市場の原理の結果とみなすこともできるはずです。その場合、むしろ公立中学の教育行政の“影”の部分が浮き彫りになっているということではないでしょうか。

☆それに毎日新聞にこうあります。

難関校の私立開成中学校(荒川区西日暮里)では、定員300人に対し約3.6倍の1055人が受験。

☆今年の受験生が増えた例として使っているわけではないと言われればそれまでですが、短い記事の中で、受験生が増えたぞーというテーマの中で引用されているのだから、開成も増えているのかと読み間違う読者もいるでしょう。ところが、開成の今年の応募者は1089人で、3.6倍。昨年の応募者は1157人で、3.9倍。記事によると、今年の受験生は応募者を下回っているぐらいです。とても昨年より受験生が増えているという感じではないですね。

☆厳しいことは厳しいのだけれど、昨年よりもさらに増えて中学受験は過熱という表現はいかがなものでしょうか。まして、中学受験が“影”とは。コントラクトとコベナントの違い、道徳と倫理の違い、操作と市場の違い、妥当性と正当性の違いなどなどなどを論議できなくなっている、つまり表現や言論の自由を自ら奪い取る行為は、新聞としては問題があるような気がしますが、どうせそんなの関係ないって言われるのがオチでしょうね。

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首都圏 中学受験 2008 [48]

☆本日2月1日、東京・神奈川エリアで、中学入試が始まりました。2008年1月31日現在、日能研の倍率速報の「サマリー」によると、今年の首都圏の中学受験応募者数は295,510人で昨対比90%です。受験結果の成り行きで、今後応募者数が増えても昨対比94%ぐらいになるのでしょうか。

☆しかしながら、受験生数そのものは、昨年の53,000人とまではいかなくても、49,000人ぐらいにはなるでしょうから、定員総数が44,895人よりは依然多いわけです。受験生にとって、厳しい受験であることに変わりはありません。特に男子は、例年そうなのですが、女子に比べて厳しいですから、家庭で全力でサポートする日々が続くことになるでしょう。

☆「がんばれ!中学受験生」と同時に「おかあさん、おとうさんもがんばれ」というのが中学受験最前線です。 6年後、10年後、20年後を見据えて、1人ひとりの子どもが、クオリティライフを送れるトリガーとしての学びの居場所を見つけられることを祈っています。

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