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世界を変える学校[04] 海城学園②

世界を変える学校[03] 海城学園①】のつづきです。

☆今回も「海城中 社会科 卒業論文集 第14集 2007年度」で、中田先生が書かれている「序」を読んでみましょう。

さて、昨年の12月上旬、一昨年の(2006年)OECD(経済協力開発機構)が実施した第三回PISA(学習到達度調査)の結果が発表されました。残念ながら、日本は「読解力」、「数学」、「科学」の全ての分野で前回よりも順位を落としてしまいました。このうち「読解力」については、発表時の「PISAショック」が走った3年前の順位の14位からさらに一段落ちる15位でした。どうして、このような結果に終わってしまったのか。その後様々な分析が出されましたが、その中で確かなこととして見えてきたことは次の二点です。①得点者分布を見たとき、日本は得点下位の層が成績上位の国に比べ厚くなっている②設問別得点率を見たとき、例えば「読解力」を問う問題であれば、OECDが設定する難易度レベル最難のレベル5に当たる「批評的思考力(クリティカル・シンキングの能力)」を測る設問の得点率が日本の場合特に低い。(この点に関しては私も触れたエッセイがあります。→「PISA2006結果から[02]10歳の壁を乗り越えるために」)①については取り敢えず措き、ここでは②の傾向について言及したいと思います。

☆この後をすぐに読みたくなるでしょうが、ちょっとお待ちください。この箇所に、はやくも海城の教師がいかに「世界を変える学校」たらしめる視点を持っているかが表れています。

☆意外にも、私立学校の教師の中には、OECD/PISAの問題を見て、なんだ易しいじゃないか、これでは大学入試には役にたたないと吐き捨てるように言う方もいるのですね。そういう考え方の先生は、中田先生の指摘されている①の得点にのみ興味と関心があるのだと思います。②のような観点はなかなか持てないようです。

☆ところが、中田先生は、考え方のレベルを把握されているんですね。おそらく生徒たちと対話しながら、この生徒は偏差値や得点力がどのくらいだというだけではなく、どこまで考えられるのか、表現できるのかを把握されているのです。だから、ここを突破すれば、思考や表現を次のステージにジャンプできるなという実感を持てるのです。

☆そのような観点は、一般の日本の教師の場合だと奥義や秘儀ですし、体験によって無意識のうちに身に付いた、いわば芸です。ところが中田先生は、学内の先生方と議論し、そこをプログラム化し、見える化するわけです。「卒業論文集」のプログラムもその一つですね。思考や表現の能力をアップさせるための細かいステージをしりつくし、共有しているから、海城のすべての生徒が論文編集に取り組むことができるし、14年も学校全体で継承できるのです。

☆どこの学校でも、私立学校の場合は特に、「世界を変える教師」の一人や二人はいるでしょう。しかし、それではダメなのです。すべての教師が一丸となって、取り組まねばなりません。それには方法論以上に、1人ひとりの生徒の思考や表現の能力の状態を見極め、1人ひとりに適切なアドバイスができる必要があります。これを本当の評価というのでしょう。

☆そのモデルがOECD/PISAなのです。どんな問題か興味はありますが、それ以前に問題というのは問いかけです。それぞれの生徒の思考や表現の能力を高めるための問いかけはいかにして可能なのかを探求しているのがPISAプログラムです。その真意を見抜ける教師集団が形成されているのが海城学園なのですね。

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