学び野[15]ポスト2.0モダンの媒介性①
☆2008年1月22日(火)、東工大の大岡山キャンパス・講堂 で、気鋭の若手ポストモダニスト5人が、国家を語るトークイベントが行われました。その5人とは、
東浩紀(批評家、東京工業大学世界文明センター特任教授)
北田暁大(東京大学大学院情報学環 准教授)
萱野稔人(津田塾大学国際関係学科准教授)
白井聡(日本学術振興会特別研究員、多摩美術大学・神奈川大学非常勤講師)
中島岳志 (北海道大学公共政策大学院・准教授)
☆いずれも1970年代生まれの方々です。バブルとバブルの崩壊、ベルリンの壁の崩壊、ウィンドウズのPCの席捲、ITバブルの崩壊、サリン事件、ポスト京都会議、9.11などさまざまな地殻変動期に生まれ育った学者ですね。
☆この地殻変動をどのようにとらえるか、思想としてのポストモダンは終わったのか。社会生活、特にモバイルを象徴とする新しいメディアにはポストモダニズムは根付いているのか。根付くとしたらどんな新しいコミュニケーションが生まれているのかなどについて、真摯に考えている方々です。
☆私も行きたかったのですが、残念ながら他のミーティングがあっていけませんでした。しかし、本当に概略ですが、3月1日の日経新聞の文化欄にそのときの様子が載っていました。多くのポストモダニズトは、フーコ解説、デリダ解説、ドゥルーズ解説で終わります。
☆そんな中でこの5人、特に東さんは、彼らの思想を踏まえた上で、批判的に吟味しながら、全く独自の切り口で、ポストモダンを読み解こうとしていますね。というか彼だけがポスト2.0モダンを読み解こうとしています。従来のポスト・モダンは疑似ポスト・モダンで、結局モダニズムの最前線に位置するだけで、パラダイムが変わっているわけではないのです。
☆教育改革だ、経済改革だ、金融改革だ、何だかんだと改革が叫ばれてきたし、叫ばれていますが、基本はモダニズムです。官僚モダニズムから資本主義的モダニズムに移行しているので、だいぶ変わっているように見えますが、政府や官僚の思考形態がポストモダニズムになっているわけではないのです。
☆しかしながら、アキバ文化にみられるように、草の根や生活、特に中高生の生活には、ポスト2.0モダニズムが生まれて浸透しつつある。このことについて、いち早く気づいたのは宮台真司さんでしょう。そしてその流れをくみながら、宮台さんとは違うメディア論を展開しているのが、東さんですね。モダニズムから疑似ポストモダニズムへ、官僚モダニズムから資本主義的モダニズムへ、という流れはコミュニケーションがツリー構造コード群からネットワーク型コード群にシフトしたのだけれど、このネットワークは所詮マトリクスに過ぎず(セミラティスでも良いんですけれど)、疑似リゾーム組織なんですね。
☆ここに気付いている社会学者も多いのだけれど、じゃあリゾーム組織ってどうよってなると、東さんしか探究・分析をしていないんですね。おそらく世界的にも東さんだけでは。
☆基本的には欧米もBRICsもモダニズムで行けるんですね。徹底的にオープンな資本主義にしていく。そうすることで市民的モダニズムが顕在化してくる。それでよいのです。その状態をポストモダンとフーコやデリダは呼んだのかもしれない。
☆でもガタリはポストモダンではなかったんですね。もっとスピノザ的だし、東さん的です。日経新聞では、フェリックス・ガタリについては言及されていませんでした。おそらく、実際には語られていたと思いますが。
☆いずれにしても疑似ポストモダンでさえもまだまだです。特に教育の世界はパラダイム転換は止まっています。ところが私立中高一貫校の中には、すでにはじめからニュー・モダンという≪私学の系譜≫に属している学校がありますね。
☆どんなに学習指導要領が変わろうとも、文科省や教育委員会の思考様式が官僚もしくは資本主義的モダニズムだと、体験>経験値という結果に終わります。フィンランドはその点市民的モダニズムですね。ポストモダ二ズムでは決してありません。中心から出発するツリー構造の思考様式を最大限に育てている国ですから。
☆そうそう疑似ポストモダニズムだって体験>経験値です。ここが疑似たるゆえんだし、ポストモダンって何だろう?現代思想は終わったのかという閉塞状況は、まさにそれを証明しています。
☆でも市民的モダニズムは体験<経験値です。ところでポスト2.0モダニズムはというと、体験≠経験値です。体験と経験値の断絶ですね。東さんの著書「動物化するポストモダン」や「ゲーム的リアリズムの誕生」はそんなことを示唆しているように私には思えてならないのです。
☆≪私学の系譜≫に属する学校は、その点体験から異次元の経験値へとワープするクリエイティブな何かを持っていると思ってます。新しい体験を逆照射する知性を育成するのではないでしょうか。
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