学び野[18]村治佳織さんの媒介性
☆2008年3月8日、女子聖学院チャペルで、村治佳織さんのギターリサイタルが行われました。村治さんは女子聖学院のOGです。2年に一度この時期に、PTA主催、翠耀会(同窓会)協賛のもと開催されていて、もう5回目だそうです。
☆なぜ村治佳織さんが媒介項なのかというと、村治さんの女子聖学院での体験とヨーロッパ修行の体験が、見事に村治さんの経験値を極限まで高めているからなのは言うまでもありませんが、女子聖学院の生徒、保護者、教師、OG、そしてシェアさせていただく私たちにとっても村治体験は、希望と得難いひと時を経験値に高めることができるからです。
☆村治さんの演奏は、ただすてきな曲を演奏して終わるというものではないのですね。音楽的知性のみならず、学びのプログラムがちゃんとあるのです。プログラムはコンセプトとストーリーと脱空間的知性(想像力といったほうがわかりやすいかもしれません)、そしてスキルの極限性が融合されていて、村治体験<経験値という「体験」を女子聖学院全体に浸透させるのです。この浸透力はPTAを通して、学内全体に広がるし、同窓会を通して歴史を形成します。
☆今回のプログラムのコンセプトはキリスト教のルーツでしょうか。村治さんは演奏とトークという対位法的プログラムの運営を自ら演出されますが、最後の方で、今年はヨーロッパを拠点に活躍するチャンスが多いと語ってました。ゲバントハウスとの共演もあるのでしょうが、やはりスペインが中心なのでしょうか。
☆そしてこんなことをさらりと言ってました。キリスト教に中学時代から触れることができたのがよかったと。ヨーロッパの音楽を理解したり文化を理解したり聴衆とのコミュニケーションを深めたりしていくには、キリスト教の文化を肌身で感じておく体験が重要だったのでしょう。女子聖学院でのキリスト教体験は、村治さんにとっては経験値として高められています。
☆プログラムのストーリーは第一部と第二部の対位法です。第一部では白いドレス、第二部では赤いドレスでギターのタイプも変えてやはり対位法のレトリックのアイデアですね。
☆曲目は第一部はいろいろありますがバッハのシャコンヌを中心とする欧米のキリスト教の思い出ですね。白はどちらかというと洗練をイメージする色彩でしょうか。シャコンヌはもともとバイオリンの名曲。弓を使わないギターで演奏するとまた趣が違うんですが、もともとシャコンヌは舞曲ですから、実はギターに合うんですね。
☆第二部は赤の色彩。スペインの情熱と哀愁の旋律でチャペルはいっぱいになりました。不思議ですね。スペインはカトリックなのに、女子聖学院はプロテスタント。ここにも対位法があります。村治さんが女子聖学院でキリスト教に触れられてよかったというのは、こういうヨーロッパの伝統的音楽と精神性に触れられたからでしょう。女子聖学院のキリスト教はキリスト教の中でも革新的で先進的なのですが、それは新技術を生むという意味でではなくキリスト教の原点に回帰せよという意味で革新的なのです。
☆だから今回の村治さんのコンセプトはキリスト教のルーツなのです。そしてそれはスペインなんですね。スペインのカトリックは、村治さん同様世界をさまよいます。中世においてキリスト教改革と異端の改宗に挑んだドミニコ会。ルネサンスの反宗教改革の旗手イエズス会。この両修道会を生んだのはスペイン。テーマは原点回帰です。
☆第二部はそれでよいのですが、第一部はどのようにそのコンセプトが反映しているのでしょう。それはシャコンヌですね。大航海時代に生まれた舞曲です。スペインからヨーロッパに広まったと言われています。ここで結びつくでしょう。
☆ヴィヴァルディとA.ヨークのサンバーストは?太陽の都の象徴です。太陽の都と言えば、カンパネラ。彼はドミニコ会士ですね。ロンドンデリーは?アイルランドの民謡です。アイルランドはカトリックですね。でも不思議とプロテスタントの礼拝でよく歌われます。
☆村治さんは自分の演奏に乗ってスペインの旅を頭の中でしてくださいねと聴衆に語りかけていましたが、この発想はデュシャンやジョン・ケージの発想です。古き伝統をコンテンポラリーアートの手法でプログラムを編集しているのですね。世界を変える試みです。
☆村治さんにとって、女子聖学院は媒介項だったのでしょう。しかし、今では女子聖学院にとって、村治さんはなくてはならない媒介項です。そして、言うまでもなく、体験<経験値のその高まりは、村治さん自身は世界一流のスキルとタレント、品格(これは小倉校長先生が村治さんを紹介するときに使っていたキーワードです)を身につけているということであり、女子聖学院の生徒さんをはじめ、皆さんにとっては、村治さんの影響です。多くの人が体験前と後では、精神の変化を感じていることでしょう。
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