09年中学入試に向けて[08] 世界に通用する大学に進める中高一貫校④
☆読売ウィークリー(2008年4月20日号)のデータによって、世界に通用する大学に進める中高一貫校について、一覧表を作っていますが、今回は埼玉県の私立中高一貫校に県立高校を加えたものにしました。
☆首都圏とはいえ、東京都とはずいぶん違いますね。埼玉エリアの私立中高一貫校が、東大、早慶に進学させることを第一の目標にせざるを得ない理由がこの一覧表から見えてきます。県立高校に男子校と女子校が存続しているのですから、雰囲気は県立の方が私学的かもしれません。
☆もっともそれは埼玉のエリア内の状況で、県立浦和が東京の開成や麻布と比較してどうかといえば、やはり公立の名門校であり、私学の名門校とは違いますね。
☆そのことは県立浦和のホームページを見れば明らかです。サイトでは浦和高校新世紀構想の根本的な発想についてかなり詳しく発信されています。それによると、
浦和高校が県民から期待されているのは、第1に生徒の進路希望の実現です。従って中高一貫校や大学附属高校・私立高校と肩を並べる進路実績を挙げなければなりません。
☆発想の第1目標が、大学進学実績です。ただし、一覧表を見れば明らかなように、表では早稲田大学の実績が集計中なので、トップになっていませんが、かりに慶応と同じ実績だとしても、東大・早大・慶大の合格実績の卒業生数に対する割合は、埼玉エリアナンバーワンになります。早稲田大学の実績の方が多いはずですから、これは間違いありません。ということは進路実績で肩を並べる私学というのは、埼玉エリアの私学のことを意味しているわけではないのですね。だからこそ、次のようなビジョンが謳われるのです。
現在の日本の中等教育は、受験という目的を達するための手段という側面が強いのが現実です。その結果、長期的視点での生徒の成長を考えた、本来高校がもっているべきバランスのとれた人間形成(全人教育)は軽んじられています。また、こうした教育環境が生徒たちの人格形成にマイナスの影響を与えているのではないかという心配もあります。進路実績の向上と全人教育の実現-このふたつは両立しえないと思われがちです。実は、浦和高校ではこの二つは相反するものではなく、相互補完的な、互いを高め合う一体のものとして110年間機能してきました。・・・「浦和高校新世紀構想」は、浦和高校のよき伝統を継承しつつ生徒の進路希望を実現する機能をより強化するため、考え出されました。
☆全人教育と進路指導の両立。文武の両立ということです。そしてこの教育の質で、東京の私学と競争するよということでしょう。そのために、新世紀構想の3本柱を掲げています。
1.科目の選択を充実させる-単位制による画期的な新カリキュラム
進路実績を向上させるための具体的方策が「単位制による新カリキュラム」の採用です。単位制によって、基礎から先端までの多くの科目を少人数制で授業を行うことができます。これによって、進路実現に向けた学習機能を大幅に強化しました。現在の興味と将来の必要という選択の観点も生徒に示し、受験にのみ特化させないようにしています。2.学習指導・進路指導を強化する-新しい学習・進路指導体制
現役での進路実現へ向けて、3年間の長期的観点に立ったプログラム(「3年間のストーリー」)を考えました。常に自己実現への情熱を喚起し、夢の実現へのステップを一歩一歩着実に登って行くような充実した高校生活を、生徒自らの手で作り上げていけるよう工夫されています。またその過程で、依存からの脱却を目指します。3.学びの場を大学に、そして世界に広げる-多様な学習機会の提供
高校在学中に大学の講義に出席し、高校では得られないより高度な知的刺激を受けることを可能としました。また、海外姉妹校(英国)との長期交換留学制度により、浦和高校をステップとして生徒が海外の大学へ進学できる制度を立ち上げました。生徒に大学受験を超える長期的な目標を意識させることが、毎日の学習活動に前向きに取り組む原動力となっています。
☆新カリキュラムとは、各教科にさらに深化させた教科を選択できるようにしています。ある意味フィンランドの総合制学習のシステムに似ているかもしれません。しかし、教科間を横断するカリキュラムではありません。深いプログラムではあるけれど、広いプログラムではなさそうです。
☆新しい学習・進路指導体制とは、埼玉大学の講義を聴講できるということですね。これはアメリカのAPというプログラムに似ています。もっとも今では東大の講義を聞くチャンスも広く開かれているので、これも東京の私学に溝をあけることはできません。
☆多様な学習機会の提供の中で最強のものは、イギリスのパブリックスクールであるホイットギフトスクールと姉妹校提携をし、特別な連携をすることで、IBのディプロマを取得し、ケンブリッジ大学など海外の大学へ進学するコースがあることです。1年間の留学までは構想し実行している私立学校はありますが、そのまま海外の大学へというシステムづくりはなかなかできません。ただし、これとて、私学に溝をあけることはできません。公立という教育システムの枠内で、ものすごいことを企てていることに間違いはありません。
☆たしかに画期的です。しかし、私学の場合、やろうと思えばIBコースを自らの学校につくってしまえるのです。実際に加藤学園暁秀や横浜山手女子は導入していますね。麻布や武蔵もイギリスのパブリックスクールに長期留学ぐらいまでは計画し実行しています。
☆単位制のカリキュラムを作ったのは、おそらくこの長期留学をもっと柔軟にするためでもあるでしょう。教育行政の枠組みの中で、ものすごい創意工夫をしているわけで、ほかの公立高校や東京・神奈川エリアの私学を除く私立学校が肩を並べるには、想像を絶する努力が必要ですね。
☆埼玉エリアの私立中高一貫校の覚悟は相当なものでなければなりません。エリートスクールになることで満足せずに、エクセレントスクール構想を打ち立てて欲しいものです。
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