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世界を変える学校[12] 八雲学園②

☆八雲学園の文集「まつぼっくり」には、国語科の先生方も投稿されています。これが実におもしろいんですね。表現は中学生も読みやすいように工夫されていますが、その中身はなかなか高度です。

☆たとえば、「“ヨム”こと」という表題のエッセイが綴られていますが、すでにこの表題からあれっという気持ちを呼び覚まされますね。生徒さんたちも、「読むこと」ではなく「“ヨム”こと」のレトリック上の差異を感じることでしょう。そして中身を読むとさらにガツンとやられるでしょう。

本を読む時にどんなことを考えながら読んでいるだろう。国語の授業では、作者や登場人物の心情を中心に読んでいる。これは文章を読解する上で、とても大切なことであり、中学生・高校生のうちに身につけるべきことである。では、授業以外に読む時はどうだろう。・・・新たな読み方とは、「小説を読む」のではなく、「テクストをヨム」・・・。

☆なんとなんとワクワクするではないですか。先生は山口昌男さんのテクストヨミのメソッドを少し紹介していますが、これもすてきですね。それにしても生徒さんたちは、いつも授業でやっていることが当たり前と思っているし、それを行っているのは先生じゃないですか。それがそうじゃないなんて!と一瞬パラドックス。でもこれをジャンプしていまうのでしょう。ここに八雲学園の才能開発の秘密があったんです。

☆「読むこと」はモダニズム的読み方なんだと思うんですが、「“ヨム”こと」はモダニズムとはちょっと違う読み方を意味しているようですね。山口昌男さんがポストモダニズムの旗手であるかどうかはわかりませんが、若い現代思想家たちに影響を与えてきたことは間違いないでしょう。大学教授になる前に麻布学園で社会を教えていたのですが、その講義はめちゃくちゃおもしろく迷講義だったようです。おもしろいと感じることができる生徒がいるということが私学の興味深いところです。「“ヨム”こと」を推奨するとは、八雲学園もこのような≪私学の系譜≫に属していることを示唆しているということでしょう。

☆「テクストをヨム」ということであれば、ロラン・バルト的世界を思い浮かべます。そうそうバルトの作品をベースにテクストをヨンでいる前田愛さんのことも思い浮かべますね。テクスト論的にはウンベルト・エーコも思い浮かべるなぁ。

☆10年ぐらい前までは中学入試では池上嘉彦さんの言語論がよく素材文として扱われてきました。池上さんの文章から7,000字ぐらいを活用して開成が入試問題を出したのはもう14、5年ほど前だったかな、ともあれ大騒ぎをして、池上嘉彦さんにスペシャルインタビューを申し込んだことを思い出しました。当時の進学情報誌の「合格レーダー」に掲載したのは懐かしいですね。

☆池上さんは、バルトやエーコ、リーチなどの記号論、テキスト論、語用論など幅広く言語の世界を旅していましたから、本当にいろいろ学びました。論理的な思考を鍛えることも大事だけれど、そんな問題集は世の中にいっぱいあるでしょう。想像力を豊かにする本は山ほどあるけれど、テクストとしての問題集はないよ。挑戦してみてはとニッコリほほ笑まれた表情を今でもはっきり覚えていますね。

☆八雲学園の先生は、池上さんと同じものの見方をしているのですね。「テクストをヨム」といのは、社会学でも重要な柱です。とくにコミュニケーション分析の手法の一つエスノメソドロジーなんかでは、重要です。コミュニケーションにひそむ抑圧部分に気づきそれを排除する技術として「テクストをヨム」ことは大事です。八雲学園の先生方のコミュニケーションがやわらかいのは、こういう手法が日常行われているからでしょう。

☆それから「テクストをヨム」ことのもう1つのポイントは、OECD/PISAの読解リテラシーです。この手法は現代思想や言語学、社会学とは違って、かなり理解しやすくなっていますが、背景にはこのような学問的な成果が横たわっています。つまり、八雲学園の国語科は世界標準のモノサシに耐えられる発想があるといういことを意味しています。もちろん世界標準以上です。いずれそれはスコア化してみますね。

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