これから活躍する教育ジャーナリスト
☆大学合格実績や偏差値という量の競争から授業という教育の質の競争にパライムシフトすると叫ばれてから久しく時がたっています。1998年、1999年、バブル崩壊後の経済の空白の負の影響が私立中高一貫校にも及んだ時期に、各学校が共同して合同説明会を開始し、私立学校の教育の質を表現するようになりました。私も私立学校の先生方の授業こそ教育の質だという勉強会の助っ人(おせっかい)として活動し始めたのもそのころからでした。
☆共立女子の渡辺先生や鴎友学園女子の吉野先生、開成学園の橋本先生に講演をお願いし、私学の授業を中心とするセミナーを開催していました。座学形式のセミナーの次は、京北学園の川合先生と共立女子の渡辺先生、中村の小林先生とCALという授業の勉強会を結成し、ワークショップ型の勉強会も開催しました。この活動は今も生きていて、「The授業リンク」と名を改めて年4回開催することになりました。ますますパワーアップするわけですね。
☆その流れの中で、私はHondaさんとコラボして、Honda「発見・体験学習」プログラムのデザインと運営チームのコンサルを手がけるチャンスをもらいました。年間15校以上の学校と6年間一貫のカリキュラムの中に、生徒たちの3T(Talent,Technology,Tolerance)を開発するプログラムをどのように位置付けるか勉強させていただきました。創造的コミュニケーションスタイル、創造的チーム、改革者型リーダーの作り方を先生方と何より生徒さんたちと形にできました。そうそう六甲や麻布出身のOBや早稲田大学、慶応大学、東大の学生がアドバイザーになってくれましたが、当時の彼らとの議論は実に印象的かつ生産的でしたね。
☆そして98年にセミナーで先生方とお会いして以来ずっとあった思いが少し形になりました。そのテーマは、大学進学実績や偏差値という量の競争ではなく、教育の質の競争の指標をつくろうというもので、学校選択指標として結実。クオリティ・スクールの探し方といった方がわかりやすいかもしれませんね。
☆これらの活動をホームページやブログで公開し、クオリティ・スクールの紹介をがんがんさせていただきました。助っ人なのかおせっかいなのかわかりませんが、多くの方に(賛否両論はありますが)ご覧頂きました。もちろん今もご覧頂いています。心から感謝しております。
☆そしていよいよCALの目標の一つであったクオリティ・スクールとしての日本の私立中高一貫校の教育を世界に発信しようという段に入ろうとしているのが、今日です。その準備として世界標準の教育の指標を岡部憲治氏と探究しました。その結実は岡部さんが「世界標準の読解力 OECD・PISAメソッドに学べ」(白日社)という本にまとめあげました。私は「世界標準の学力を身につけられる中高一貫校」というささやかなコラムを「『授業』で選ぶ中高一貫校」(鈴木隆祐著 学研)に寄稿しています。
☆クオリティ・スクールの考え方はクリエイティブ・スクールとしてあるいは12歳の学校選択という形で、前職のNTS教育研究所やその親会社にも残せたと思います。その後どうなっているかはわからないのですが・・・。
☆98年以降の私立学校の先生方とのコラボは、鈴木隆祐氏のような現代思想の素養を有している新しい若いジャーナリストの目に留まりました。2006年以降若い編集者とも会ってブレストするきっかけを鈴木氏には多く作ってもらいました。
☆そして、確実に着実に、大学進学実績だけではない新しい学校選択指標が問われるようになっていると感じています。鈴木氏独自の「授業取材」を通してみる教育の質の競争などの具体的な素材、情報、データから私立中高一貫校の教育を表現し直すときが到来したと確信しています。鈴木氏や岡部氏や編集者仲間は、教育という枠組み内だけの言語で語らないのですね。広く政治や経済、思想、社会学、文化という素養や見識で横断的に語るわけです。
☆戦後の日本の教育は、民主主義及び人権の確立のため、いったんは経済や政治から独立した領域を確保する必要があったのですが、89年のベルリンの壁崩壊以降、むしろ教育は経済や政治、平和に直接影響を与える学びのクローバリゼーションが要請されるようになりました。教育という枠内、そしてその進路として受験という枠内だけで教育を表現する時代は終わりを告げました。
☆しかし、相変わらず、そのようなタコつぼ内で表現する教育ジャーナリストや受験情報発信者が存在します。まだまだそれで飯が食えるマーケットだからですね。ですから彼らの役割は終わったのだけれど、マーケットが許容しているわけで、それはそれでよいのです。それにそうでない表現がマーケットに登場してこなかったのですから、消費者も選択しようがなかったのですね。
☆今後はやっと新しい教育ジャーナリストの表現が、消費者の目に触れ、選択されるようになるでしょう。そのとき教育ジャーナリストの質も顧みられるようになるでしょう。宣伝マンとしての教育評論家から思想や経済の批評家としての教育ジャーナリストへ選択嗜好性が転換すると思います。
☆こうして、やっと、中学受験のメディアの情報の中身・切り口・テイストが変わります。これで日本の教育についてやっと本質的にかつ複眼的に議論ができる環境になるでしょう。このような本質を能書きだ、それより金儲けだと言っているような塾は、これからはダメだということになりますね。日本の教育システムの欠陥があり続ける以上、塾は必要なのですが、だからといって教育の本質を否定するような教養のない経営者にひれ伏す中高一貫校があるとしたら、それも考えもの。本当の学校選択ができるようにするには、そこのところを教育ジャーナリストが鋭く批評する必要があるでしょう。しかし、今までは学校から広告をとりながら情報を流してきたので、中学受験の情報には偏りがでていたことも否めません。だから、本格的な教育ジャーナリストの出現は大歓迎だし、こういうジャーナリストがどんどん輩出される環境を作らねばなりません。私立中高一貫校の情報の発信のし方も中身も必然的に変わるわけですね。
☆それには私立中高一貫校自身も、目先の生徒数や偏差値をあげるために、塾と付き合うような態度は断固はねのけるべきですね。あくまでも世界標準の学力を身に付ける生徒のサポートをして私立学校に進学させる塾とのゆるやかなつながりを重視すべきです。それが消費者の中学入試マーケットにおける良質の選択嗜好性を育てることにつながるはずです。
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