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学び野[34]なぜ松田先生の授業がターニングポイントなのか⑥

☆松田先生の授業の大きなねらいは、生徒の居場所づくりです。ジグソー法によるプログラムは、互いの脳内の思いや考えていることを音声というテキストに表現し合います。こうなってくると実はここでポイントになるのは生徒の読解リテラシーです。

☆読解リテラシーと居場所づくりがどう関係するのか?それは大ありであり、このことについて気づかないと生徒の居場所づくりは不発に終わるのです。「居場所づくり」とは松田先生以外にもよく使われるキーワードですが、言語構造の差異があり過ぎます。

☆物理的な落ち着く場所という意味でも使うでしょうが、松田先生はそれだけを意味しているのではありません。良好な人間関係作りを意味する場合もあるでしょうが、松田先生はそれだけを意味しているわけではありません。茂木健一郎さんなら脳がいろいろ考えて集中している状態を居場所ができている状態というでしょうか。松田先生はもちろんそれも意味していますが、それだけではありません。

☆何を言っているのかと思われるでしょうが、松田先生の考える「居場所づくり」を了解するには、実は国際教育研究家の岡部憲治さんのPISAの読解リテラシーの考え方が補助線となります。ちょうど岡部さんが松田先生のジグソー法(The読解リテラシーで行った分だけの分析ですが)を読解リテラシーの思考のレベルに合わせて批評しています。詳しくはそちらをご覧ください。

☆ご覧頂いたという前提で、話を進めていきますね。さて、松田先生のジグソー法ですが、岡部さんも分析しているように、レベル6まで考えるプログラムとして成立するのですね。今回はある種デモンストレーションですからプログラムとしてはレベル4の論理的思考までが想定されていますが、チームによってはそれを飛び越えレベル6まで到達しているところもあったでしょう。

☆私の属していたチームは、おそらくレベル6まで到達しましたね(自画自賛 ^^;)。興味のある社会的事件としては、アメリカのサブプライムローン問題の背景に見え隠れするアメリカの世界戦略、ミャンマーのサイクロンとそれに対する政府の人権を無視するような対応、中国四川省の大地震から見える政治経済問題、佐世保以来の少年少女の事件といったものを互いに確認し、問題の共通点と違いの整理や分類を行いました。しかし、最終的には一見結びつかないこれらの問題の背景にディスコミュニケーションや情報の格差、貧富の格差、強者弱者格差などの問題が権力問題につながっているという議論になりました。

☆論理的に話すだけではなく、批判的視点が加わっているし、横断的複眼的な視点は創造的な思考を生み出しています。レベル6に到達しているわけです。

☆それはともかく、この議論の最中に、生徒たちがそれぞれキャラを出しはじめます。まとめ役だとか記録するが役割だとか批判する役割だとか・・・。これははじめは表面的なのですが、だんだんと思考のレベルを促進させる役割なのか、阻害する役割なのか、停滞させる役割なのか、内的なキャラが浮き彫りになってきます。

☆この内的なキャラはさらに、結局倫理観や価値観や感じ方に結びついていきます。つまりキャラクターですね。同じレベル4や5、6でもこのキャラクターによって中身は大きく違ってきます。キャラクターが空集合の場合、キャラは上滑りをし浮遊感と空虚感で充満します。

☆逆もあります。キャラの言動が、キャラクターを生み出していくというケースですね。ここらへんはあまりに多様な動きでとらえにくいのですが、ここをとらえようとして松田先生が対話を仕掛けるのですね。このとき居場所が広がります。キャラとキャラクターが離れたり結びついたりしながら、他の参加者のキャラとキャラクターの相関とさらに結びついたとき、思考のレベルの上昇と人間関係のつながりが広がるのです。その瞬間が「居場所」です。この瞬間の連続性こそが「居場所づくり」なのではないでしょうか。

☆逆に言えば、思考のレベルをここまででよいと限定したり、人間関係を役割分担的に限定したりすると、そこには居場所への抑圧が生まれます。エディプス・コンプレックスというのもその一つの形態ですね。「居場所づくり」はこのような得体の知れない抑圧を見える化し、それに対応する内的な知性の塊そのものです。この対応の仕方にしてもキャラクターは違います。回避したり、迂回したり、粉砕したり、乗り超えたり、握手したり・・・といろいろです。

☆ただし、明大明治のような私学では、教育理念が共有されているので、キャラクターは明大明治のアイデンティティとして、生徒たちは受け入れられるのですね。だからキャラとキャラクターの関係は、もしかしたら教育困難校とか進路多様校と、これまた抑圧的に呼ばれてしまっている学校に通っている生徒よりとらえやすいかもしれません。ジグソー法は、その生徒がとりまく環境まで明らかにしてしまう可能性があります。

☆今回参加したメンバーのほとんどが教師でしたから、ゆるやかな理念共同体としてキャラクターがはじめから共通していた可能性があります。それゆえスーッとプログラムにはいれたのかも知れません。

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