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09年中学入試に向けて[11]中学受験マーケットの動き

<「第一ゼミナール」と「Z会」が提携>(asahi.com 2008年6月20日)によると、

学習塾「第一ゼミナール」を関西で展開するウィザス(大阪市)は20日、「Z会」を運営する通信教育大手の増進会出版社(静岡県長泉町)と資本・業務提携した。増進会がウィザスの発行済み株式の6%を取得。教室と通信で培った互いのノウハウを生かし、インターネットを使った事業の充実を図る。

☆Z会はすでに、学研と業務提携を結んでいるし、市進とも資本・業務提携している。通信教育最大手のベネッセコーポレーションは首都圏の「お茶の水ゼミナール」や「東京個別指導学院」などを買収している。

☆河合塾と日能研。東進と四谷大塚、早稲田アカデミー。資本や業務提携は進んでいく方向は明らかである。

☆私立中学受験だけから眺めていると、中学受験のマーケットは質的にも量的にも安定しているようにみえるが、幼児教育から大学受験、ベネッセのように全国学力テストの範囲まで手を伸ばしている教育事業体や塾・予備校のように似て非なる企業が競合しているわけだから、マーケットは複雑だし、この市場は、悪貨は良貨を駆逐することになりかねない。

☆日能研本部や河合塾、ベネッセのように子どもの文化とその質について研究し続ける企業体の体力や意地がどこまで続くかにかかっているし、学研は元来の書籍の文化を生かせるかにもかかっている。経営の倫理は経営の論理に勝てるのだろうか。

☆市場の原理は、質を磨き上げる原理でもあるが、それは同じコンセプト、同じ目的が共有された中での競争原理が働けばの話である。

☆受験市場を公立学校と私立学校という2種類の教育システムがぶつかるだけならば、問題はあまり発生しない。官僚近代型教育システムと≪私学の系譜≫型教育システムがぶつかり合っているだけだからである。

☆しかし、この両者にエージェントとして教育事業体とか塾・予備校が媒介しているのが受験マーケットである。幼児教育を専門としているエージェント、中学受験を専門としているエージェントがあった時代は、エージェント間での競争は、不確定要素がいっぱいあり、消費者の選択眼が必要だった。しかし、どこも幼児教育から大学受験までトータルに持ち始めると、不確定要素がだんだんなくなり、予見可能性と計算合理性で選択が可能になる。

☆このような状況になると、教育市場は公立学校というマスの論理で動くようになる。マスの論理とは選択と自由の論理ではなく、ルサンチマンと相互監視である。オープンという名の利益隠蔽の共依存関係が生まれる可能性がる。

☆そんなバカな話があるものかとお叱りを受けそうであるが、通信教育事業体が塾や予備校とつながるというのである。しかもインターネットで。テストの一元管理化が始まるのは火を見るより明らかである。すでにソフトバンク系列の企業が、サイバー大学やサイバー高校を運営して半ば成功している。

☆もし首都圏で、四谷大塚の模擬試験、日能研(運用などはNTS)の模擬試験、首都圏模試が統合して模擬試験を行ったりしたらどうだろう。そんなことはありえないと言われるかもしれない。しかし、インターネットで模擬試験が参入してきたら、背に腹はかえられないというのが企業である。

☆テスト会が幾つかあるからこそ、計算不可能性があり、選択判断に自由が残されているのだが、テスト会が一本化されたら、もはや自由はない。

☆テストの内容や評価が絶対的なクオリティを持っているのならもはやあきらめるしかないが、まずそんなことはあり得ない。しかし、一本化されたらそれをチェックするシナジー効果が生まれない。悪法も法であるというルールに従うしかない。

☆このような事態にならない方法、あるいはなったとしても回避できる方法は何かないだろうか。あるにはあるが、ハードルは高い。≪私学の系譜≫型の考え方・ものの見方が市民全体に広がる必要があるからである。マスには嫌われ者の倫理の知性(監視のための道徳ではない。他者のために自分が何ができるのか考え実行する知性である。)が求められるのだ。マスと市民の差異。それが問題だ・・・。

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