私学の経済ポジショニング[10]私学経営研修会に参加して<04>
☆「私学の経済ポジショニング[09]私学経営研修会に参加して<03>」のつづき。≪私学の系譜≫の第三世代で戦後教育基本法の成立にかかわった人々を、もう少し詳しく見ると、河井道、安倍能成、前田多門、天野貞祐、森戸辰男、南原繁、田中耕太郎、矢内原忠雄となる。みな内村鑑三及び新渡戸稲造の弟子たちである。
☆前田多門は草創期の東京通信工業に出資し、初代社長を務めているが、この東京通信工業こそ後のソニーである。そして、ソニー第2代社長井深大の義父が前田多門。精神科医の神谷美恵子は長女。美恵子も父同様、新渡戸稲造の影響を受けている。
☆ニーチェやベルジャーエフの著作を翻訳するなど高名な氷上英廣の義父は南原繁。そして南原繁の孫が今の麻布の氷上校長だ。≪私学の系譜≫は脈々と続いているではないか。
☆第四世代以降≪私学の系譜≫を受け継ぐ人材は、大塚久雄、丸山真男、氷上英廣(ちなみに、大塚、丸山、氷上は南原繁の弟子)、廣松渉、川勝平太、浅田彰、大澤真幸、宮台真司、内藤朝雄、東浩紀、北田暁大・・・。必ずしも私立学校出身ではないが、彼らの立ち位置は、大量生産、大量消費、大量移動の官僚近代化路線とは違う。
☆彼らは加藤弘之のダーヴィニズム的発想の社会観や人間像をよしとしない。むしろ加藤が捨てた啓蒙思想を方法論的にあるいは論理的仮説として再構築して、社会観や人間像を組み立てている。
☆そして、こうして≪私学の系譜≫が脈々と続いている一方で、明治維新以降の官僚近代化路線もまたいまだに続いている。日本の社会の構造も、やっと変わろうとしているにもかかわらずである。
☆社会の構造を、こんなにも単純化することは危険ではあるが、公立学校と私立学校の存在の地平は、かくも明確な歴史性があるということは念のため確認しておきたかった。この歴史性こそ≪私学の系譜≫としての私学の存在理由なのではないだろうか。
☆こうして見ていった時、中学受験のマーケットは、この私学の存在理由をサポートするのか、≪私学の系譜≫に圧力をかけ、官僚近代化路線に与するように強制的働きかけをするのか。中学受験マーケットに対する影響力を無視できない塾の存在理由が問われなければならない。塾が群雄割拠のうちは、学校選択はある意味計算できない保護者の選択判断によることができたわけだが、塾の再編及び統合が急な今日、偏差値による学校選択の計算が限りなく可能になる傾向が見え隠れする。
☆いずれにしても官僚近代化路線と≪私学の系譜≫路線の問題は、日本固有の問題ではなく、グローバリゼーションそのものが内包している矛盾そのものだろうから、中学受験のマーケットにグローバリゼーションをいかに結びつけるかがポイントになるだろう。
☆両者のうちのどちらかが選択されるという偏向主義的な教育環境にしないためにというあくまでも消極的解決策に過ぎないのだが・・・。現状ではそれしか策がない。
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