世界を変える学校[38]東京女子学園のクリエイティビティ
☆ 「中学の英語授業にニンテンドーDS活用(ITmedia News 2008年06月30日 10時24分 更新)」によると、
東京女子学園は教室以外で任天堂のゲーム機を使うことを全面禁止しているが、教室では「ニンテンドーDS」が、英語を教える最新ツールになった。中学校教員の大久保素子さんは5月から、毎週の授業でDSと教材ソフトを使い、単語、筆記、聴き取りを教えている。「スーパーマリオ」などのゲームが長年禁止されていただけに、任天堂のゲーム機が歓迎されるとは生徒は思っていなかったという。「生徒たちは自宅でゲームで遊ぶためにこれを使っていたので、学校で使っていいと言われて最初は驚いた」と大久保さん。
☆おもしろくなければ授業でないという英語の東京女子学園らしい取り組み。今や、eラーニング以外の、電子機器を利用した「学習」を行なっている人の中では、「ニンテンドーDS」を使っている人が20.1%で最も多く、学習分野としては、なんといっても「語学」だと言われている。こんなおもしろいツールを学校で活用しない手はない。
☆しかし、一般的には活用するには3つの壁がある。
1)ゲーム機器を教育に持ち込めるか。
2)ゲーム機器の有害情報との結び付きを阻止できるか。
3)ゲーム機器は暗記を促進するが、思考力を促進できるか。
☆つまり1)教育の権威の壁、2)教育の倫理の壁、3)学びの理論の壁ということ。ゲーム機器を教育に持ち込むことは、市場の原理を授業の中に持ち込むことになる。だから教育の権威にこだわる学校の場合は、「DS」の活用は難しい。しかし、東京女子学園は、国際舞台で役立つ英語教育や海外研修プログラムを長年構築してきた。グローバリゼーションがいかに権威という抑圧を嫌うかについては、どこよりもよく理解している。哲学者カントも、永久平和は、軍事力や政治力よりもむしろ市場経済の力によることが大だと言っている。
☆もちろん、市場の原理は、そこに参加しているメンバーの教養が問われる。もし儲かればそれでよいというだけでは、市場の原理は、マズローの理屈で言えば、生理的欲求を満たすだけで事は済む。しかし、それだけでは、市場の原理は結果的には衰退する。市場の原理は倫理が背景にあってはじめて成り立つのである。市場そのものは資本主義以前から存在するのであり、市場と資本主義を混同してはいけない。
☆それから、従来の学習ソフトは、どうしても暗記や知識の整理が中心。e-ラーンニングは双方向的なコミュニケーションができるから、徐々に定着してきているが、ゲームの場合、まだまだハードの能力の方が追い付いていない。ところが、「DS」は、画面が2つあり、インプットとアウトプットのサイクルを楽しめる。これはコミュニケーションの出発点であり、自問自答のサイクルでもある。
☆この機能を十分に生かした学習ソフトの開発が、今進化しつつある。ところがだ。学校の授業そのものが、一方通行的講義スタイルのものばかりだったら、どうだろう。双方向のツールそのものが必要ないということになる。ここに従来の学びと新しい学びの葛藤がある。この新しい学びの潮流は、実はIT革命と89年のベルリンの壁崩壊、つまり冷戦終焉とともに始まった。従来の学びにこだわる保守主義は、世界の平和と格差問題解決の壁になっていることに気づかない絶望的日本の教育の現状でもある。
☆辰巳教頭によると、21社が取材しに訪れたという。すごいことだ。ただし、マスメディアであるならば、東京女子学園の今回の挑戦が、いじめなどを増幅する抑圧や権威を崩すスーパーフラットなアート的発想であることを見抜かねばならない。また、同時に新しければそれでよいのではなく、リベラルアーツとしての私学の伝統がベースにあることも評価せねばならない。そして、なんといっても新しい学びの開発=学びのイノベーションに挑み、それが平和や貧困問題解決につながることに気づかねばならない。
☆革新と倫理と創造。これが今回の東京女子学園の挑戦が拓いたコトなのである。
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