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私学の経済ポジショニング[22]OECD専門家セミナーと白梅学園清修⑧

私学の経済ポジショニング[21]OECD専門家セミナーと白梅学園清修⑦のつづき。ジャネット・ルーニー氏が語った形成的アセスメントの6つの要素のうちの「1)相互作用を促進する教室文化の確立とアセスメントツールの使用」の3つ目のサブテーマ「③単に活動を計画するというより、むしろ生徒の『学習』の計画を立てること」について。

☆たとえば、今日は数学の三平方の定理を勉強しようという学習活動のスケジュールを立てるだけでは、子どもたちの思考のプロセスはわからない。プロセスがわからなければ、どこでどんな感じ方をしているかわからない。感じ方がわからなければ、どこでどんなストレスを抱えているかわからない。

☆そこで、白梅学園清修は生徒手帳をアセスメントツールとしても活用している。六穴の生徒手帳「STUDENT BOOK」は、カバーは自由で、個性的だが、中身は白梅学園清修の教育が不易流行として存在している。不易の部分は、クオリティ・ライフをいかに作っていくかという生徒と教師のコミュニケーションの場であるというところ。流行の部分とは、六穴だから、ページを差し替えることが可能というところ。

☆「STUDENT BOOK」を毎日使うことによって、関数的な概念が鍛えられる。BOOKそのものは、方程式だが、中身は変数である。係数は、自分なりのデザインを選択したカバーである。この手帳のページのデザインや、それぞれのカバーデザインについては、かつて以下のページで紹介したので、参照してくだされば幸いである。

参照①)白梅学園清修の人気の秘密

参照②)白梅学園清修の見えないカリキュラム

☆さて、形成的アセスメントの話に戻ろう。このSTUDENT BOOKに、生徒は家庭学習を何時間するとか、家の手伝いとして何を行うのかとか、何時間寝るのか、体調はどうかというのを書き込む。生徒自身の振り返りとして実に有効だが、同時に、毎日教師もこのページを共有し、メッセージを投げかける。自由記述のところには、生徒の思いが書き込まれ、教師は共感する。

☆人間関係について悩む生徒もいるだろう。そのとき教師は共感し、メンターとしうてメッセージを投げかける。このコミュニケーションが「学習」の計画を立てることなのである。つまりあなたはこういうレベルだねと決め付けるのではなく、どうしたらよいのかいっしょに教師が考える。そしてメッセージを投げる。このメッセージこそが形成的アセスメントである。

☆そのメッセージをどう受けとめ、どう考え、どう感じ、何をすべきなのか。生徒自身が考えるきっかけになる。もしきっかけにならなければ、それは教師のメッセージに問題があるのかもしれない。生徒と教師の信頼関係に何か課題があるのかもしれない。mentor(よき助言者)のつもりがtormentor(苦しめる人)になっているのかもしれない。

☆ある生徒にとってはmentorとしてのメッセージだが、他の生徒にとってはtormentorとしてのメッセージになっているかもしれない。

☆この試行錯誤がなければ、本当は「単に活動を計画するというより、むしろ生徒の『学習』の計画を立てること」などできないのだ。そんなことを実行している学校がたくさんあるだろうか。この問いにポジティブな回答が用意されていないのが日本の教育の実態だろう。白梅学園清修の試みが全国から注目されているのは、ここなのだ。

☆そして、忘れてはならないのは、tormentorになるリスクヘッジをどうするかである。どんなに配慮しても教師はtormentorになってしまう場合がある。ならないように研修はするが、なってしまう時もある。ならないようにするには、勉強だけ教えていればよいのだが、それではタフでタレント豊かな人間作りはできない。問題は許容と寛容なのだ。この信頼関係のマネジメントを、生徒・保護者・教師の間に貫徹できるリーダーシップの存在が肝要である。

☆今のところ柴田副校長がそれを担っているが、おそらくエンパワーメントを研修の中で実行しているであろう。これがハビトゥス(文化資本の再生)であり≪私学の系譜≫づくりである。そこらへんは、いずれまたご紹介したい。

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