☆私学の経済ポジショニング[17]OECD専門家セミナーと白梅学園清修③のつづき。ジャネット・ルーニー氏は、「形成的アセスメントとは、学習ニーズを確認し、授業を適切に合わせていくための、生徒の学力進捗状況と理解の頻繁かつ対話型(インタラクティブ)のアセスメントである」と定義している。この定義を6つの要素に分け、さらにそれぞれの要素をいくつかのサブテーマに分けて具体的に説明するという構成で話された。
☆そして有本教授は、柴田副校長に白梅学園清修の教育実践報告をしてもらうことによって、形成的アセスメントの現実化のヒントを参加者と分かち合おうと仕掛けた。
☆そういうわけで、参加者の一人としてその理論と実践の重ね合わせを考えてみようとしているのだが、やはりちょっと筆者の力量では難しいところが山ほどある。ここは専門家に任せた方がよいのだろうが、だれかがやるまでは、続けてみよう。確約はできないが・・・。
☆さて、「1)相互作用を促進する教室文化の確立とアセスメントツールの使用」という第一の要素のサブテーマ「①生徒が教室で安心して自信を持てると感じるように手助けすること。」について考えているところだった。つづけよう。
☆柴田副校長は、報告の中で、各教室に設置してある電子ボードを使った授業についてスライドを見せながら説明していた。生徒が教室で安心できるというのは、実は世界標準の水準を超えた授業が保障されているということなのである。
☆この電子ボードは、事前に教材を準備して取り込んでおかねばならない。一般には、授業をやりながら黒板や白板に書き込んでいくのだが、清修の場合、その時間はカットされる。電子ボードに必要事項はすぐに投影されるからだ。カットされた時間で、生徒たちは議論ができるし、発表もできる。黒板に教師が書き込んだ情報をノートに写すインプット型授業ではなく、生徒も議論し、発表するアウトプット型。あるいは聞く授業ではなく、考える授業ということになる。相互作用を促進する教室文化の仕掛けが、電子ボードによって実現されているのである。
☆現象的にはなんてすばらしいシーンなのだと思うことだろう。そしてどこの学校でも真似したいと思うかもしれないが、それができないのだ。柴田副校長は、何気なく教師採用のそのほとんどが新卒であることを強調される。教職員全員の集合写真を投影されたが、なるほど若い。この若さが重要である。
☆電子ボードは、すべての教室に設置されている。すべての授業で使わねばならない。つまり、ICTの活用に抵抗を感じる教師は採用されないということを意味している。何せ生徒の方はICTを活用するのは当たり前で、情報倫理の議論を自らする世代である。ICTを使わずして倫理を語ることはできない時代なのである。
☆しかし、ICTは環境支配型のツールでもある。柴田副校長はそれを逆手にとったのである。新卒の教師はやはりキャリアが浅い。熟練した教師の技術というものを一から学んでいたのでは、新設中学の白梅学園清修の授業の水準が維持できない。これを解決するためには、脱技術しかないが、そのためのツールとしてICTは優れている。
☆天才数学教師の戸塚先生がすでに蓄積してある教材データベースがある。教務部長高添先生が創ってきた英語の教材データベースがある。これを若手教師は活用することができる。
☆しかし、授業の前日は、そのデータベースをそのまま活用するのではなく、アレンジをする作業に膨大な時間を費やすことになる。柴田副校長の目論見は大いにあたったのである。
☆データベースとして知の共有を日々できるし、新たな知を生み出すことができるからだ。しかもこの新しい知を生み出す理由がなかなか良い。なぜアレンジするかというと、それは生徒の理解の状況に応じて変化させる必要があるからだ。
☆なぜ生徒の理解の状況を把握できるのか、それは頻繁に生徒と対話する機会があるからであり、電子ボードによるアウトプット型ツールによって、授業の中でその都度新たな生徒の理解の変化を実感できるからである。
☆発表するときの生徒の表情や声質、論理、言語・・・。生徒の変化に気づくチャンスは無限である。そしてそれを聞いている仲間である生徒たちの様子。シナジー効果を生んでいるのかいないのか、瞬時に理解できる。電子ボードは、投影されつつ、そこに書き込むことができる。教材のビファー・アフターが取り込まれ、振り返りに活用できる。
☆なおかつ、アナログの添削問題を生徒は解くから、教材(デジタル)とある意味テスト(アナログ)が連動する。豊かな形成的アセスメントが電子ボードを活用するプロセスの中で育まれているのである。新卒の教師にとって、清修の1年は、通常の学校勤務の5年分の質を生み出す時間に相当するだろう。したがって、3年も勤めれば、ベテランの域に到達する。
☆戸塚先生、畔上先生にお会いするたびに、1年めのお二人と比べて、なんて頼りがいのあるタフな教師になっているのかその変貌ぶりに驚愕する。お二人の先生のこの飛躍は、デジタルな教材つくり以上にアナログな対話の手法に秘密がある。それはまた別の箇所で触れようと思う。
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