☆橋下知事の発言は、良し悪しは別として、大阪府の職員にどよめきを与える。大阪府の自治体組織という村落共同体の中で十分に生活ができたのに、何も風(いや風邪のウイルス?)を吹き込まなくてもよいではないかという不安が生まれるのだろう。世界に開かれるチャンスなのに、橋下知事の圧力をはね返そうと自治体メンバーも必死。不安は抑圧から生まれるのだが、橋下知事の抑圧は、悪玉か善玉か、それは歴史が決めるといったところか。
☆さて、今回の全国学力テストの結果公表についても、橋下知事の世界開きの発言は興味深い。≪【風】学力テスト 公表是非にご意見を(9月2日15時31分配信 産経新聞)≫によると、
「結果が出ないから教育委員会が甘えていられる。市町村ごとの点数を公表すべきだ」。2年連続の全国学力テストの結果低迷を受け、大阪府の橋下徹知事が怒っている。
☆とある。これに対し、府教委は知事の提案をはねのけた。理由は、同紙によると、
文部科学省が「市町村名や学校名を明らかにした公表は行わない」と通知しているためだ。府教委小中学校課の担当者は「データを預かっているだけの府教委が開示を決める立場にはない」としており、他の都道府県教委も市町村ごとの公表は行っていない。
☆なんて合法的な答弁だろう。簡単にいえば、決まりですからということ。なぜ数学を学ぶの?と生徒から質問があったら、教師は、将来役に立つし、決まりだからと回答するケースが多い。こういう対話が行われる教室を、Dale Parnell氏(Why Do I Have to Learn This ?の著書。クリントン政権時代の教育のブレインか)なら凍てついた教室と呼ぶだろう。
☆まさに凍てついた府教委ということか。橋下知事の熱い発言が解氷することができるだろうか?しかしながら、すでに今回の全国学力テストマクロ分析は、国立教育政策研究所ホームページで公開されている。
☆まず橋下知事がこれを見れば、大阪府の教育をどういう方向に改革するかおよその検討がつくはず。多忙なのだから、この概略をまとめたレポートを見て、詳細は府教育と相談すればよいのではないか。やはり北風より太陽の方がよいのではということだ。もっとも星新一のパロディーでは、今の世の中北風が勝つことになっているが。
☆それはさておき、ざっとマクロ分析を見てみよう。大阪府全体の調査レポートを見ればよい。すると小学校時の読解リテラシーの差が、中学校時の読解リテラシーと数学的リテラシーの両方の差に影響しているのではないかという直観的な見方ができる。学者は、その信頼性や正当性を証明できないというだろう。そりゃそうだ。生徒も違うし、問題も違うわけだから。だからこういう判断は学者に聞くと、政策判断が鈍る。
☆体験的なものの見方が有効な時もある。もちろん仮説にすぎないから検証はしなくてはならない。大阪府の小学6年生の国語A全体の正答率は大阪府は62.7%(全国65.4%。以下カッコ内は全国の正答率)、国語Bは67.1%(74.1%)。これに対し算数は、A問題は71.2%(72.2%)、B問題は49.9%(51.6%)で、国語ほど大騒ぎするほどの差ではなさそうだ。
☆小学6年生の弱みはどこだろう。1つひとつの問いの正答率も全国と比較されているから、目を通して見るとよい。すると、文章の工夫(レトリック表現)の理解の問題は、67.6%(74.1%)であることが目につく。また、心情について説明記述する問題も、40.3%(45.0%)で差が目立つ。
☆両方とも、直接的な表現ではなく間接的な表現に置き換えられている仕掛けに気づき、そのうえで推論しなければならない問題だ。言葉で言葉を置き換える問題で、柔軟性、多角的なものの見方、表現力などの基礎が必要だ。
☆大阪府の中学3年生の弱みはどこだろう。まずは国語。A問題は70.5%(73.6%)。B問題は53.0%(58.1%)で、小学生時代と比較しても差が改善されていないと仮定できる。数学のA問題は、60.5%(63.1%)。B問題は65.9%(71.1%)で、差が広がっているではないか。
☆一問一答見ていくと、国語のB問題で顕著なのは、書きかえる問題が20.6%(26.5%)の開きがある。80字から120字以内の記述問題は48.6%(60.5%)、70字から100字以内の記述は45.1%(53.7%)である。記述問題はなんとかしなくてはならないということではないか。数学のA問題では、グラフの読み取り問題が65.9%(71.1%)。B問題では、問題解決の数学的説明問題が43.6%(50.9%)であった。
☆こうしてみると、小学時代の読解リテラシーの育成プログラムの改善が喫緊の課題ではないかということになる。論理的文章をベースにした文学的文章のレトリックとかメタファーを読み説明記述する教材やプログラムの開発ということ。
☆これは大いに楽しんで子どもたちが取り組めるプログラムになるので、モチベーションもアップするはず。そうしておかないと将来橋下知事のような論理とレトリックを理解できる未来の市民が育たない。大阪教育氷河期の雪解けを望むならば、まずはできるとことから。公表問題も解決しなければならないが、いまここでの生徒たちの成長をとめることはできない。
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