09年中学入試に向けて[50]海城の内生的進化②
☆前回「09年中学入試に向けて[49]海城の内生的進化」で、海城の社会の中学入試問題を解いてみることをおすすめしました。海城学園に向けて受験準備をすると、批判的かつ創造的思考力を養うことになるからです。その典型例として、今年の問題のファイナル・クエスチョンをご紹介しましょう。
高度経済成長期以降、なぜ人びとは妖怪たちを信じなくなったのでしょうか。科学的な立場から事物を考えはじめたこと以外の理由を本文と資料4&5を参考にして200字以内で説明しなさい。そのとき、高度経済成長期に、妖怪の話を受け継いでいく家族のあり方と人間の生活する環境にどのような変化があったのかを明らかにして答えなさい。
☆資料の1つは、小松和彦氏の「妖怪学新考」をアレンジしたものが提供されています。もう1つは、核家族世帯数が多くなっている推移表です。自然に対する見えないものに対する感情や核家族の増加によって、世代間のコミュニケーションが減少し、そこから物語を喪失していくことなどを推理すればよいのですが、これは論理だけではなくモダニズムに対する批判的視点が必要ですね。
☆それから大事なヒントが問いの中にあります。「科学的な立場から事物を考えはじめたこと以外の理由を」というのがそれです。ということは科学的なものの見方の変化が関係していることはヒントとしてさりげなく提供されているということです。
☆つまり人間のものの見方の変化が、家族の形態の変化や自然開発の変化に投影されているということです。このことに気づくには創造的思考力が少し必要ですね。
☆それにしても、このようなファイナル・クエスチョンが出ている全体の問題に改めて目配りすると、すごい問題だなということがわかります。「ゲゲゲの鬼太郎」から始まる文章は、鳥取県と島根県の地政学の問題なんですね。妖怪が見える視点から見えなくなる視点への移行は日本海側から太平洋側に政治経済文化の中心が移行する江戸からモダニズムへというパラダイムシフトの話なんですね。
☆民俗学者小松和彦氏の登場、ゲゲゲの鬼太郎の登場ということは、島根にしばらく暮らし、日本海側から太平洋側の急速なモダニズム変容を憂いて、民俗学的視点で日本の原風景を文学作品に変換していった小泉八雲の発想が見え隠れしています。
☆八雲問題は、夏目漱石とのかかわりが象徴的にあります。日本の近代社会及び近代的自我の問題ですね。八雲は柳田国男のようにその土地の民話や神話などから日本の文化的な背景を掘り起こし、怪談を書き起こしましたが、この怪談話、テスト問題では妖怪になっていますが、目に見えないものに対する畏敬の念を切り離す近代的自我の構造について語っていたのです。
☆この切り離しが、大きな物語を喪失し、自分の興味と関心にしか目がいかない動物化するポストモダンな現在の人間像につながります。目に見えないものや大きな物語がなんであるかは批判的思考でその正当性や信頼性をチェックしなければならないのですが、ともあれその感覚を喪失しないような学びのプログラムを開発しているのが海城学園なのです。そして学校の顔である入試問題に、ちゃんとそこが反映しているというのがすごいのです。
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