09年中学入試に向けて[87]明大明治中の組織と授業
☆2008年、明大明治は、お茶の水から調布に移転し、共学校になった。たいていの場合、伝統的な学校であれ、新校舎を建て、共学校になった場合は、草創期の勢いがある。
☆しかし、明大明治はやがて迎える100周年という伝統を優先したようだ。共学校でありながら、中学に入学した女子生徒は全体の30%であった。男子校として募集してもなんら遜色のない生徒が集まったにもかかわらず、あえて共学にしたのに、結果的に男子生徒が多いのだ。
☆良し悪しは別として、明大明治は組織としては、経営の論理を優先したということだろう。名門校としてすでに成熟期に入っているわけだから、経営の論理を追求し、教育の論理は何も変える必要はないのだという信念があると思う。学校選択者はそちらを望んだということになろう。
☆たしかに、これはこれでよい。父親としては、母校に自分の娘を入れられるのだから、ある意味幸せである。組織論的にはそれでよい。しかし、時代は変化しているのである。教育の倫理から言えば、組織と授業が連動して時代の精神を読みながらチェンジすべきところはすべきという考え方もある。
☆しかし、残念ながら空間設計のコンセプトや男女観からは工業社会が支えてきたモダニズムをそれほど乗り越えようという意志は伝わってこない。工業社会から知識社会に変容している時代をどのようにサバイバルしていくのかという視点は、潜在的にはあるのかもしれないが、外には表れていない。
☆≪私学の系譜≫としての明治大学は、フランス思想の延長上にあるような気がするのは、もはや昔の話なのかもしれない。フランスと言えば、フランス革命を思い出すが、むしろナポレオン的な発想なのかもしれない。帝国とか皇帝とかそういう発想がベースにあるのだろうか。釈然としない。
☆しかし、組織はともあれ、各先生方の授業は生き生きしている。その様子は、教育ジャーナリスト鈴木隆祐氏が「名門中学 最高の授業」(学研新書)の中で明快に論じている。そこでは何人かの教師の授業が描かれているが、私の尊敬する社会科の松田孝志先生の授業も臨場感たっぷり描かれている。
☆この間、ある会で松田先生に会った折、いろいろな授業の資料をいただいた。その中に生徒による松田先生の授業と自分たちの授業参加の振り返りのデータがあった。30項目それぞれにスコアを付けて評価するものだが、その結果が掲載されていた。
☆それを私なりに加工して、評価スコアの高い順に出してみた。ベスト10は次の通り。
1 担当者の授業の説明が分かりやすい。
2 教科の学習にやる気がある。
3 黒板を使っての説明が分かりやすい。
4 授業での説明が理解できる。
5 発表やコメントの意味が理解できる。
6 プリントを用いての説明が分かりやすい。
7 授業中ほぼ集中して参加している。
8 社会で起きている出来事に対して興味を持てるようになった。
9 新聞・テレビニュースを読む・見るようになった。
10発表やコメントについて、考えながら聴いている。
☆やはり「最高の授業」だ。授業が分かりやすいだからモチベーションがアップするという結果になっている。そして、社会で起きている出来事に興味を持てるようになったというのだから。おまけに考えながら他者の話を聴くというのだ。理解度、意欲、好奇心、批判的思考というキーワードがみなそろっている。
☆こういう授業、つまりコミュニケーションが成り立っている授業は生徒にとって最も大事な居場所である。しかしニクラス・ルーマンではないが、教育とは常にパラドクスなのだ。良質のコミュニケーションが必ずしも雰囲気の良い組織によって作り出されるわけではない。むしろ抑圧型組織と授業というコミュニケーションの相克が、良質の授業というものを生み出すトリガーになるのかもしれない。
☆絶対王制とフランス革命の両方を体験しているフランス。EUのリーダーであるフランス。そのような文化のミームを持っているとしたら、そういうパラドクスの謎もわかるような気がする。結果的には成熟期において授業という内生的成長のある明大明治は安泰だろう。
☆それにこれもまたパラドクスであるが、経営の論理が、明大明治をチェンジせざるを得ない次なる時代が100周年を迎えるころにやってくるはずだ。早稲田、慶応、ICU、MARCHの附属中学や高校がひしめいている多摩エリアであるからこそ、それ以外の隣接の私立中高一貫校が、進学実績において国公立大学を着々と目指す力をつけているのである。
☆おそらく少子化対策のため、名古屋や埼玉のように、小学校や中学校を開設する私立学校も出てくるだろう。明治大学に進学できるだけでは、学校の成長サイクルとしては停滞期に入らざるを得ないのは、市場の原理から予見できる。そのとき組織は、あるいは経営の論理は、授業の質という教育の倫理の重要性に気づく。
☆しかしどうだろう。他校では松田先生のような授業にチャレンジし、力をつけている若手の教師がフンバッテいる。早急にリスク回避を考えるのも優れた経営の論理だと思うのだが、まっ、余計なおせっかいに過ぎないかぁ・・・。
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