09年中学入試に向けて[117] 私学人の覚悟[03] 實吉ビジョン
☆「09年中学入試に向けて[105] 私学人の覚悟[02] 東京女子学園 實吉校長」のつづき。今年8月中堅現職研修で、實吉幹夫校長は、「私学人として思うこと」と題して講演を行っている。東京女子学園の理事長・校長であると同時に、私学全体のベクトルを示す東京私立中学高等学校協会副会長という立場でも語られた。
☆實吉校長は、私学関係の研修で、いつも奈辺を見定めるかのように遠くを眺めながら、確認することがある。それは「私立学校の取りえる道」という覚悟である。
☆その道は3つあると語る。
①栄光ある永い伝統を守り得るだけ守ったところで、学校としての使命を果たし終えたとして、健学の精神・理念に殉じて死していくか。
②社会のニーズに応えるとして、時代の後を追い、先進校と言われる学校の実践・成果を見て、模倣を繰り返しながら生き延びるか。
③時代に即応した、あるいは時代を先取りして、学校の新しい在り方を模索し、むしろ時代と教育をリードしていく理念を構築し、実践していくことによって支持を得るか。
☆このまっすぐで明快なビジョンには、いつも驚愕するのだが、ご自身の東京女子学園はもちろん第三の道を歩いているという表明でもあるだろう。
☆實吉ビジョンは、私立学校側のカテゴリー分けであるが、私はクオリティスコアという指標で学校選択者側の私立学校のビジョンの分類をしている。この分類は、實吉ビジョンのカテゴリーと重なる部分がある。
☆エクセレントスクール、クオリティスクール、エリートスクール、トラディショナルスクールと分けているのだが、實吉ビジョンの第一の道は、トラディショナルスクールにあてはまる。ただ、「殉じて死していく」という判断までは私の指標の中にはないが・・・。
☆第二の道はエリートスクールに相当するが、私の場合は、先進校の模倣といった場合、大学進学実績を出すことに偏っている学校に限定し過ぎているかもしれない。
☆第三の道はエクセレントスクールとクオリティスクールに相当する。私が第三の道を2つにさらに分けているのは、学校選択者の目から見た場合、現状では偏差値スコアも無視できないからだ。クオリティスコアも偏差値スコアも高い学校をエクセレントスクールとし、クオリティスコアは高いが偏差値スコアがそれほどでもないという学校をクオリティスクールとした。
☆ここが私学が創る市場と受験市場の差異であり、この差異を無化できるかどうかが、私学市場と受験市場の交渉ポリティクス(偏差値をとっぱらい、第三の道を歩んでいる学校をすべてクオリティスクールとし、エクセレントスクールという名称をなくす交渉)になる。
☆前者は倫理的市場だし、後者は利益主義市場である。もっとも實吉校長をはじめ、東京私立中高協会の役員の方々は、ステークホルダー戦略をとっている。排除や相克の闘争はしかけない。相手が文科省であろうと自治体であろうと塾であろうと、教育という魂で構造的カップリングを果たし、相乗効果を生みだすシナジー構造を創ろうとしている。
☆そうでなければ、日本の社会は元気が出ないのであり、私学人の覚悟というものは、相手が利益主義であろうと官僚主義であろうと、筋金入りの寛容さで受けとめ、説得のための議論をあきらめない。
☆ともあれ、利益主義市場では、市民を幸せにする社会づくりはできないのである。市民が幸せになる社会づくりの道は、實吉ビジョン第三の道にかかっているのではないか。
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