09年中学入試に向けて[128] 首都圏中学受験志望者動向予想 11
「09年中学入試に向けて[127] 首都圏中学受験志望者動向予想 10」のつづき。
☆女子美大付属は、微増というところか。美術を通して学ぶ私立中高一貫校だが、やはり美術が好きな生徒が志望しているはずであるからだ。10年後の日本社会は、おそらくデザインの時代であることは間違いないだろう。自動車や家電の生産量を誇るのではなく、人間のライフスタイルにぴったり合い、幸せをサポートしてくれる要素はデザインである。
☆個別にデザインしていくオーダーメイドになれば、それだけ価格は上がる。しかし、それは持ち家の設計に近い価値を有するはず。デザインによる生活革命以外に、大量生産・大量消費・大量移動の20世紀型産業構造をチェンジできない。
☆ユニクロの宣伝はその匂いがする。ただし、商品自体はまだまだ安ければよいというのはあるかもしれない。しかし、次のステージはこのGAPをどうにかするだろう。
☆もっとも、そんなことを考えて、女子美大付属を選択する生徒はいないだろうが、必要がデザインを変えるから、将来への期待はどうしても持ってしまう。
☆白梅学園清修は、きっちり募集定員を集めるだろう。良質私学市場と受験市場が重ならないのがこの学校の特徴である。特にどちらかを重視しているのではなく、開かれているのだけれど、教育の質に興味を持っている学校選択者に人気があるというのが現状である。だから、偏差値の高低にかかわらず、ファンが選ぶ学校である。とはいえ、高低の幅は高めで小さくなっていることも確かだ。入りたいという意志だけでは難しくなっている。
☆ともあれ、情熱と知性の両方が熱く高い。そして愛がある。子どもはいつも良い顔ばかりしていない。なんらかのストレスをかかえて、ついものや人にあたることもあるし、わけもわからずすねることもある。そんなときに静かに燃える情熱が先生方の内面にともる。知的な戦略コミュニケーションが起動する。あらゆる生徒の反応は、教師への呼びかけだ。無視することはできない。だが、話しかけてほしいタイミングは生徒が握っている。今話しかけてほしいとか今は話しかけないででも放っておかないでと、生徒は目で表情で態度で行動で感情で思考で、とにかくさまざまな自分の心身のメディアで発信してくる。
☆そのような子どもをわがままだとか彼らを受け入れるのは過保護だと今までは言われてきた。しかし、それは間違いであることが、現代社会では気づき始めている。生徒たちの「自由・平等・博愛」をサポートすることが、この現代社会の得体の知れない危険や未来の不確実性の中でサバイブできる信頼の絆である。
☆白梅学園清修はまだまだその教育の質が知られていない、今では数少ない秘密の花園である。かつて中村や女子聖学院がそうだったように。
☆白百合学園、巣鴨は変わらないだろう。本当は豊かなリソースがあるのだが、まだ十分にそれを活用していない。これから化ける潜在的可能性はあるのだが、いつ覚醒するのかは見えていない。
☆逗子開成は、ある意味オートポイエーシス(自己組織)化した。次なる手があるのだろうが、神奈川エリアの男子校が追いついていないから、相対的に十分に良く見える。しかし、これが神奈川エリアの男子校がもう一歩前に進めない理由なのだと思うのは私だけか。その中で果敢に独自路線を進んでいるのが武相。ただ目に見えない質にこだわった教育だけになかなか気づいてもらえない。
☆聖学院はグーンと伸びる。生徒募集も大学進学実績も教育の質も。英語教育が言語能力育成というすべての教科のベースになるプログラムに成長しているし、海外大学とも提携し、進路先がグローバルになってきている。実際帰国生や英語をすでに相当学んでいる生徒も多く入学するようになっている。
☆それに校舎がアーティスティクだ。そこで6年間過ごしているだけで、デザイナーや建築家のアイデアや発想の種がつくられるという。かんたんに言うとロゴスに集約され、ロゴスから派生する知で満ちている。卒業時には、入学時の偏差値からずいぶん伸びたなあと生徒自身が実感できる男子校でもある。
☆成蹊、聖光、成城は、例年通りか、やや減少か。次なるイノベーションに期待したい。
☆成城学園は隔年現象で増えるというだけではなく、もともと質の高い教育を実践してきているので、少しエンターテイメント性のあるところを見える化すれば、生徒は集まるだろう。
☆聖心女子学院は、募集の数は年々増える。何せ2013年には中学の生徒募集を停止するのだから、今がチャンスなのだ。
☆聖セシリアは、神奈川エリアでは、聖園女学院と同様、人気を集めているカトリック学校。自分を見つめ、タフな精神をつくり、そして世のためになる生き方を身につけるプログラムが見える化されている珍しいカトリックの女子校である。一般にカトリックの女子校は、キリスト教の行事に合わせた伝統的なプログラムベースの教育。キリストの道行に従って、気づきを深めていくのである。しかし、もともと信者でない生徒が多いから、ともすれば押し付けられているように感じる生徒もいるのも確かだ。
☆確かに神の目線に合わせてやるのだから、ちょっと抗いがたい。そんな中で聖セシリアと聖園女学院は、生徒の目線に合わせながら柔軟にプログラムを変更している。両校とも外国人神父やシスターによるカトリック校ではなく、日本人によって苦労して創設されたカトリック学校だから、そういう創意工夫ができるのかもしれない。
☆清泉女学院は、伝統的なカトリック学校。憧れのキリスト教学校的雰囲気に満ちているが、そろそろイノベーションも必要なのかもしれない。
☆聖ドミニコ学園は、松方コレクションの松方家や岩崎家、正田家に縁が深いし、ヨーロッパの保守的革命家の系譜にも縁が深く、そのリソースの膨大な豊かさは計り知れない。もちろん心のリソースのことだが。小学校の人気が高く、中高の基盤は小学校に拠っているために、中学受験ではその真価が全く見えない。岩崎家の別邸跡地にひっそりと建っているのだ。そのことを知っている人が、控え目に受験する学校。知る人ぞ知る800年の歴史的価値を背景に持った学校だ。
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