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BenesseのVIEW21の紙背

Benesseの戦略が明快に見える VIEW21(12月号)」のつづき。

☆前回「44ページから48ページの「CEPの取り組み」のレポートとそれ以外のページの次元が違うことを理解しているだろうか?」と問うてみたが、このCEPの取り組みのページ数は、全体のおよそ8%を占めている。

☆日本全体で、小学校卒業生が私立中高一貫校に進学する割合にだいたい一致するパーセントである。Benesseとしては、92%の公立学校のサポートもしなければならないが、同時に8%前後の私立中高一貫校のサポートもしなければならない。

☆このサポートの仕方の方法論やビジョンが全く異なるということに気づいているのがさすがである。

☆両者の違いを知っているというということは、両者のシステムの違いを知っているということである。違いを知っているからこそ、構造的カップリングが可能なのである。

☆ところが、文科省は公立学校しか見ない。まぁ、これは官僚というのは役割がはっきりしているから、当然だ。しかし、東京大学の教育学部までそれではどうだろうと思うのだが、たぶん私学の研究はしていないだろう。

☆しかし、東大でも私学の研究を、結果的にしていたときがあったのである。それは南原繁、矢内原忠雄が、東大総長の時代。この時代は、内村鑑三、新渡戸稲造という私学人の思想ベースに、教育基本法を、南原繁グループが作っていた時だ。しかし、南原繁は政治学者だし、矢内原忠雄は経済学者である。

☆麻布の氷上校長は、南原繁の孫だし、氷上校長の社会科の授業に影響を受けたのは宮台真司氏である。宮台氏は社会学者である。この内村鑑三、新渡戸稲造の流れは、教育をトータルな構造で考えている。

☆つまり東大教育学部は、教育を教師によるインストラクションととらえているし、法学部や経済学部は、教育を生徒によるコンストラクションを、教師が支援することだとしている。

☆これは文科省と経産省・財務省・金融庁の関係に似ているが、いずれにしても、東大内における教育の葛藤が、明治以来連綿として続いている。

☆89年ベルリンの壁が崩壊してから、東西の交流というより、生活そのものの大移動は、経済や文化のみならず、教育にも大きな影響を与えた。ユネスコの動き、ハーバード大学の動き、MITの動きは実に鮮やかだったし、ITや脳科学の時代は、学びの方法を大きく変えた。

☆日本の教育は、その動きを見聞してはいた。だから中途半端に総合学習を導入した。3Rから3Xへという学びのシフトをなんとか導入しようとしたが、そのほとんどが体験主義で停滞した。目の前で、移民の子供たちが困っている現状を見ることができなかったわけだから、しかたがないといえばしかたがないが、そういう枠組みなのが日本の政治経済なのだ・・・。

☆それはともかく、先進諸国はグローバルな学びのシフトを実現するために、データが必要だった。そのためにOECD/PISAの準備が進められたのである。それが現実化して、相当時間がたってからやっと、日本は全国学力テストを導入した。しかし、学びのシフトをどうデザインするかということが本位ではなく、学力低下を回避するためにというのが日本の教育行政である。

☆東大に福武ホールを寄付しているBenesseだからこそなのだろうが、この東大や官僚内の教育ビジョン&システムの葛藤を明瞭に認識している。だから、両システムをカップリングしようとしているのである。

☆これは言うは易く、行うは難しであるが、Benesseの戦略は2つあるだろう。新しい風を外からもってきてそれを葛藤解消の処方箋とするやり方と内部から理解を深めるやり方である。前者は破壊的イノベーションの手法だし、後者は創造的破壊イノベーションの手法だ。

☆「VIEW21(12月号)」の「CEPの取組レポート」は前者の進捗状況を公開している。しかし、後者はどうなのだろう。それは、実は12月24日から(27日まで)本格的に始まるのだ。私立中高一貫校の教師が集まる研修会を実施することになっているのがそれだ。

☆そこに参加する先生方から、風の便りで、その研修会について聞き及んだところ、独断と偏見で予想するに、MITラボのシーモア・パパート教授の学びの理論そのものの実用版である。教授は、教え方はペダゴジーという用語で理論づけられてきたが、学びの方法を表現する用語はないまま、理論づけられてきた。前者はインストラクショニズムで、後者はコンストラクショニズムだが、後者の考え方を表現する用語がないままだから、実際には不十分なコンストラクショニズムが語られてきた。やはり用語が必要だと語っている。

☆数学を表すマスマティクスと根はいっしょだが、数学の領域を超えた意味で、コンストラクショニズムの学びの理論を「マセティクス」と表現したいと。発想自体は、ギリシャのアカデメイアの思想になぞっているが、テクノロジーとしては、数学、IT、アートを駆使している。要するに「最先端リベラルアーツ」だ。

☆CEPの取り組みと新教員研修プログラムは、まさにこの「最先端リベラルアーツ」なのである。

☆さて、教育はなんだかんだといって受験市場と結びついている。受験に役立つもの優先である。したがって、Benesseも92%はそこを堅持している。しかし、8%は学びの市場、いやいや「最先端リベラルアーツ」市場である。

☆私自身、「最先端学習」という言葉で、学校の先生方とゆるやかなネットワークをつくってきたこともあったし、Honda「発見・体験学習」というプログラムも作ってきた。しかし、結果的には、受験市場の中であえぐ生徒たちの心を癒す心理学系のプログラムや受験市場そのものに、ゲリラ的に応戦することしかできなかったし、今もそうだ。

☆だから、日本の教育産業で唯一、Benesseだけが、両市場を巻き込むことができる条件を持っていることは、羨ましい。そういう意味で、ぜひがんばってほしいものである。

☆もっとも、このカップリングが完成したら、受験市場は炎上する。そう簡単ではあるまい。しかし、これによって祭りが生まれる。受験市場に荷担する学校とそうでない学校とがはっきりもする。教育業界の経済的活性化は間違いなく起こる。金融危機を乗り越える大きなきっかけになるのは必至だ。

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