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09年首都圏中学入試[87] 今年のサンデーショックは神の計画か?

☆今年の中学入試は、たしかにサンデーショックで、当事者の間では相当な緊張も走ったし、実際生徒獲得にさまざまな影響が出た。しかし、そのわりにマスメディアは、中学入試についてそれほどカマビスシク取り上げなかったような気がする。

☆それもそのはずだ。世の中は世界同時的大不況。これを乗り越える話題一色になった。そしてオバマ大統領の誕生。日本の小学校卒業生の人口の3%が受験する首都圏中学入試の話題は、まったく眼中にないというのが世間。当然ではある。

☆そうはいっても、いつものサンデーショックではなく、10年前の経済不況の時と同様の私学危機が重なっているのも確かで、中学入試の出来事としてのサンデーショックという嵐が過ぎるのを待っていればよいという状況ではない。

☆今や世界の動きは、言うまでもなく、日本の政財界に影響を与える。ということは、将来そこに入っていく人材を育成する教育のあり方にもその影響が及ぶのも周知の事実である。

☆しかも、2009年とは、ベルリンの壁崩壊後20年であり、ユーロ稼動して10年、リンカーン生誕200年、ダーウィン生誕200年である。世界経済や国家のあり方の見直しの時期であり、政治と教育の見直しの時期でもある。そういうエポックの時に、サンデーショックなのである。

☆サンデーショックの震源地は、プロテスタント校である。やはりこれは神の計画?なのだろうか。中学入試の時期に世に出た本に「資料で読み解く南原繁と戦後教育改革」(山口周三著 東信堂 2009年1月)がある。

☆なぜこの時期だったのだろうか?教育基本法が改正されるときではなく・・・。南原繁が戦後教育の改革に乗り出した時に、活躍したメンバーは、内村鑑三と新渡戸稲造の門下生たちなのである。もちろん南原繁もそうだ。つまり私学人の活躍がベースにある。

☆戦前までの富国強兵・優勝劣敗思想の正当化理論は、実はダーウィンの進化論にあった。東大初総理加藤弘之が、それまでの啓蒙思想を捨て、社会進化論に転向し、優勝劣敗思想を確立した。この物質主義的国家構築に私学人は精神の革命をもって劣勢ではあったが闘い続けてきた。

☆その中心的な私学人が、麻布の創設者江原素六、同志社の創設者新島譲、慶応の創設者福沢諭吉である。この私学の精神を受け継ぐ大きなグループが内村鑑三、新渡戸稲造。

☆こう語るのは、麻布の校長氷上先生。氷上先生は、南原繁のお孫さんであり、氏の精神革命への意志を継いでいる。私も先生から幾度かお話を聞き、思想や精神の側面から≪私学の系譜≫をまとめねばと思ってはいる(拙著「名門中学の作り方」では少し触れている)。が力不足。

☆今回の山口周三氏の本も、その執筆の過程で、氷上先生とのやりとりがあってできあがったようだ。戦後、内村鑑三・新渡戸稲造人脈の活躍で、富国強兵は前面にはでなくなったが、油断するとすぐにも鎌首をもたげてくる。新自由主義という市場至上主義のベースはやはり「優勝劣敗」思想で、いつでもその準備はできているよといわんばかり。もっとも今回の世界同時不況は、その欠陥が表面化し、その見直しがおこなわれているわけだ。

☆そういう意味で、今年のサンデーショックは、大学進学実績や偏差値に傾斜しないようにという警鐘だったのかもしれない。つまり、内村鑑三の精神をそのまま引き継ぐ鴎友学園女子の校長清水先生が語るように、受験市場ではなく私学市場を保守し、私学の精神を持続可能にすることが、明治以降の近代国家建設のもう1つの大事な側面である精神革命の水脈を枯らさないことになるという≪通奏低音の響き≫だったのかもしれない。

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