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09年首都圏中学入試[95] 今年のサンデーショックの時代精神④

☆今年の中学入試も落ち着きをみせた2月15日、村上春樹さんのニュースが世界に広まった。エルサレム賞を受賞し、その授賞式でのスピーチが話題になったのである。

☆ガザ地区の戦闘のために、エルサレム賞受賞自体を辞退するべきだとか、授賞式に出席すべきでないとか、批判的な議論が周りでなされていたが、村上さんはあえて、だからこそ出席し、語らねばならないと決意したということである。

☆エルサレム賞をもらう側が、授ける側に議論をしかけるという態度決定をしたのである。

☆村上さんはある一つのことだけを語りにきたのだと言う。それは、「高くて、固い壁があり、それにぶつかって壊れる卵があるとしたら、私は常に卵側に立つ」ということ、この1点。47NEWS編集部がスピーチを全訳しているので、詳しくはそちらをご覧いただきたいが、一部をここでも引用したい。

私たちは、国籍、人種を超越した人間であり、個々の存在なのです。「システム」と言われる堅固な壁に直面している壊れやすい卵なのです。 どこからみても、勝ち目はみえてきません。壁はあまりに高く、強固で、冷たい存在です。もし、私たちに勝利への希望がみえることがあるとしたら、私たち自身や他者の独自性やかけがえのなさを、さらに魂を互いに交わらせることで得ることのできる温かみを強く信じることから生じるものでなければならないでしょう。このことを考えてみてください。私たちは皆、実際の、生きた精神を持っているのです。「システム」はそういったものではありません。「システム」がわれわれを食い物にすることを許してはいけません。「システム」に自己増殖を許してはなりません。「システム」が私たちをつくったのではなく、私たちが「システム」をつくったのです。 これが、私がお話ししたいすべてです。

☆これは、すごい覚悟だと思う。たとえ卵のように壊れやすい個人であっても、システムが理不尽に稼働した場合は、その壁に立ち向かうというのを、壁あるいはシステムに見立てて、イスラエルの政権に挑んだのであるから。

☆ここで重要な点は、システムの理不尽さを判断する個人の準拠がどこにあるかである。それは他者の独自性やかけがえのなさを、魂を互いに通わせながら構築することだと村上さんは言っているのである。

☆システムにも準拠がある。しかし、それは独善的になりがちだ。それを批判的にもの申すことができるかどうか、それは各人の生き様だが、卵の立場に立つことは、システムという≪官学の系譜≫に対峙する≪私学の系譜≫に立つことでもあろう。

☆がしかし、イスラエルにとって村上さんは外部である。村上さんは日本という内部では卵になりきることができるだろうか?私立学校でも独自性をもったかけがえのない教師や生徒がいる。しかし、そこにはシステムがあり、それを保守する組織がある。内部には常に≪官学の系譜≫と≪私学の系譜≫が同居するという矛盾とジレンマがあるだろう。

☆このジレンマに、村上さんは言うまでもなく気づいている。私たちが「システム」をつくったのだからと語っているぐらいだからだ。外部で卵の立場に立つのは実は意外とたやすいのかもしれないが、内部で卵であり続けるのは困難を極めるだろう。村上さんのスピーチはイスラエルに対してだけではなく自国にも向けられていたのである。日本市民よみんな卵になりなさいと。

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