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09東大合格発表の季節[04]

☆東大の合格者数で学校のランキングを見ていると、おもしろいのは公立と私立どっちが多いということよりも、≪官学の系譜≫と≪私学の系譜≫が互いにどういう影響を与える可能性があるのかということである。言い換えれば、量の問題より質の問題のほうが興味深いということか。

☆開成は官僚の内側から変えていこうという改良主義的プラグマティズムの価値観を持った生徒が多いだろうし、灘の場合は、道徳感情論的な市場のパラダイムを認識しつつもかなりリバタリアンなんだろう。真っ赤な服にロン毛で、ショパンの幻想ポロネーズを弾いていた在校生に会ったことがあるが、灘の中では珍しくもなんともない。だいたい教師が学校にやってくる前に生徒たちは早々と登校していたりするし、クラブ活動も先生がいるかいないかはあまり気にしない。文化祭もトガッテいるし・・・。

☆しかも灘は、昔から6つのカリキュラムというか学校があると言われている。一つの学年を担当した教師は6年間ずっと持ちあがるのである。だから6つのキャラ立ちが顕著なのである。

☆3番目は麻布で、この学園も相当自由であるが、わりと古典的自由主義だと思う。啓蒙的な構造があるのではないだろうか。そうは言ってもかなり自由だが・・・。それにしてもアダム・スミスの道徳感情論はベースにあるだろうなぁ。

☆4位からは、栄光学園(55人)、聖光学院(46人)、ラ・サール(鹿児島:46人)と続く。いずれもカトリック男子校だ。プロテスタントと違いバランス感覚と土着の文化を融合できる寛容性をもった宗教だ。ある意味いいとこ取りしながら進める宗教である。

☆戦後教育は、南原繁率いる内村鑑三・新渡戸稲造門下生が活躍したが、相乗効果を生んだいい関係を作りながらも対峙したのがカトリック人脈だ。合格者たちは、そんなことは知る由もないだろうが、開成や灘のような政財界出身者が学校設立にかかわったところと麻布のようにもとはプロテスタント校で内村鑑三・新渡戸稲造に影響を与えた江原素六が作ったところとそこと対峙したカトリック校の出身者が、東大に多数合格するというのは、≪私学の系譜≫の役割をつないでいると読み取ることもできよう。

☆何をバカなことを言っているのだろうと思う人が多いだろうが、生きる価値基準が中高時代に作られているということは意外やあるのである。

☆それぞれの国民にアンケート調査をして各国の価値観データを集めるなどということがよくあるが、それよりもどういう建学の精神の学校を選んでそこで学んだかというデータ収集のほうが、的確なような気がするが。

☆いずれにしても、開成、灘、麻布、栄光、聖光、ラ・サールの合格者合計数は、東大合格者の総数の15%を占める。官僚近代とは違うもう一つの近代化を形成する精神に影響を与えてきたハビトゥスを身体化させた東大生が15%いる可能性があるということだ。

☆そんなこと関係ないという動物化したポストモダニストは多いとは思うが、私学のミッションは、建学の精神のロゴス化とその心的構造の明確化だとするならば、当たらずといえども遠からずではないだろうか。

☆だから数少ないプロテスタント男子校である聖学院や新渡戸稲造の精神を引き継ぐ普連土や恵泉、内村鑑三の精神を継承する鴎友学園女子がそれぞれ10人ずつでも東大合格者を出すことは重要なように思える。量の問題ではなく質の問題として。

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