09年首都圏中学入試[103] 今年のサンデーショックの時代精神⑧
☆昨年の3月、「ローティの教育論 ネオ・プラグマティズムからの提言」(柳沼良太著 八千代出版 2008年3月)が出版された。出版されてちょうど1年経った今、本書の意味が開かれたと思う。大事な時代精神を表現している書だと思う。
☆ただ、新学習指導要領の移行措置に入った今、それを批判的に考える視点を与えてくれるかというと、実は逆に柳沼氏の文言というか言説からは正当化論として誤解される部分もあるかもしれない。
☆しかし、基本的には文脈学習や学際知など壁を壊すローティの見識が一貫して論考されていて、≪官学の系譜≫を批判し、新しい学びの世界を創造する視点が満載されている。そういう意味では≪私学の系譜≫の正当性・信頼性・妥当性を証明してくれている。
☆リチャード・ローティの思想は、東浩紀氏や北田暁大氏によって、動物化するポストモダンや官僚的な国家体制をチェンジする知性の一つとして紹介されているが、それを教育論そのものに導いたことは柳沼氏の功績だと思う。これによって、現代思想的な見識が公立高校の教育をサポートする教育学の世界に入ってくることになったからだ。
☆従来は、この見識は公立学校の現場では無用の長物だと思われていた。そこをチェンジするトリガーになってほしいものだ。
☆さて、なぜリチャード・ローティなのか。それは南原繁が戦後の教育を、プロテスタンティズムをベースに、内村鑑三や新渡戸稲造の門下生と共に再構築していたとき、ローティはシカゴ大学の学生でありながら、同じような思想的息吹を吸って、シンクロしていたからだ。互いに知ることもなかっただろうに・・・。
☆南原繁の思想は「カトリシズムとプロテスタンティズム」の論考にあるように、アリストテレス―トマス・アキナス―カトリックではなく、それにプラトン―カントープロテスタントを対峙させていた。その思想的基盤にあって、戦後教育基本法成立に向けてリーダーシップを発揮していたのである。
☆ちょうどその時、シカゴ大学ではアリストテレス的現実論が支配的で、ローティは違和感を感じ、プラトン的立場に身を置いて研究生活にはいることになる。プラトンーソクラテス―カント―ヘーゲル―デューイという思想的遍歴を歩みながらも、基本はシカゴ大学入学当初から歩みはじめた路線は変わらなかったのではないだろうか。
☆ここで注意しなければならないのは、カトリックは官学の系譜でプロテスタントは私学の系譜とはならないことである。両方とも私学の系譜である。そこは複眼的だし弁証法的だ。
☆もう少し言うと、南原繁が批判的対象としたトマス・アキナスは、教会側ではなく、修道院側だということなのだ。今となってはこの区別はつかないだろうが、中世13世紀当時は、教会の危機を改良・改革するためにドミニコ会は結成されたわけで、そういう意味ではローティと同じ改良主義的左派でありリベラル・アイロニストだった可能性がある。
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