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09年首都圏中学入試[116] 桐光学園の次の一手

桐光学園は創立30年目で成熟期に入った急成長の学校で、今年の生徒獲得においても、大学合格実績に関しても、安定した成果を出しているが、大学入試結果の詳細を見ると、東大理Ⅲをはじめとする医学部進学が増えるなど、さらなる内的変化もみられる。

☆それにしても、3月10日現在で、国公立大学の合格者は84名、早慶・上智・MARCH・理科大は744名である。中学に入学してから6年間、生徒たちがいかに充実した学びの環境にあったかがよくわかる。

☆このような桐光学園の内生的進化は、いかにして可能なのか。それはあまりにも多くの仕掛けがあって、語りつくせないが、教師1人ひとりの旺盛なアカデミックな探究心に尽きる。

☆とにかく生徒といっしょになって、学ぶことを楽しめるのが何よりだ。しかも伊奈校長自らがその姿を示している。指揮者になりたい、宇宙開発やロケットの研究をしたい、教師になりたいという夢を1つひとつ実現してきた生き様はよきロールモデルである。

☆このアカデミックな探究心がなぜ内生的進化を生み出すのかというと、教える科目が違っても、生徒1人ひとりの学びの過程を参与的に観察し、適切なサポートをする教授・授業・評価の科学的な方法論を追究できるからである。

☆しかし、ここでたいへんおもしろいのは、教師全員がそれぞれの専門分野の「言説」で、その方法論を語っているのに、互いに通じているという事実なのである。フランス思想ベースで論理的だけれど不合理を前提にしている思想を語る教師、能の道と生徒の学びのプロセスを重ね合わせて語れる教師、物理学をベースに科学的楽観主義ベースの方法論を語る教師などが一堂に会して議論が成り立っているのである。

☆これは、すでに互いの専門の違いを共約するもう一つ次元の高い(メタ的な)―今のところは目に見えないが―知ができあがっているからだ。この桐光学園のメタ的な言語は、おそらく他校にはない。なぜなら、多くの学校は既成の教育学言説に規定され、無意識の壁に囲まれているからだ。特にそのような教育言説を構築した教育心理学はその壁を心地よいシェルターに変えている可能性もある。

☆桐光学園の教師は、その危うさを看破し、古い教育言説にからめとられないようにしているのだ。これはまさに科学的コミュニケーションの実現。独自のメタ的な言語は、ここまでくれば普遍性を持ち始める。アカデミックな探究心があればこそである。

☆おそらくこの教師の姿勢が、生徒たち自身にも影響し、1人ひとり独自のそれでいて一般化した勉強方法を身につけられるようになっているのだろう。

☆そして何よりこのような多次元の言説(システム)を可能にしている組織づくりに欠かせない存在が教頭である。どんなによいシステムも、経営の論理とぶつかることは世の常である。教育システムと経営のバランスを生み出せる学校組織でなければ持続可能性は生まれない。

☆桐光の教頭の役割は、先生方からは「教師にはなりたいが、教頭にはなりたくない」と言われるほど重責であり、伊奈校長からは「校長よりおもしろい仕事が教頭の仕事だ」と言われるほど信頼されている。そういう伊奈校長もまた長い間名教頭を務めていたのであった。

P.S.

光は直接見ているのに見えない。影などで光の存在に気づくことはできるが。しかも科学の世界では絶対尺度。アインシュタインの相対性理論は、もともとは絶対性理論だったらしい・・・。桐光学園のメタ尺度は、まさに光という明るさでもあるのだろう。その象徴的活動が、14名の桐光学園教師によって行われている。「Lumiosite' 写真展」がそれだ。会場は、新百合ヶ丘駅近くの新百合21ビル 市民ギャラリー。3月20日まで。

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