伸びる学校[011] 獨協中学のビジョン④
☆前回「伸びる学校[010] 獨協中学のビジョン③」まで、戦後獨協学園のビジョンを定めてきた天野貞祐のものの見方や考え方が脱構築されながらも、生徒に継承されている論文などを見てきた。
☆そして、今回教頭笠井先生から、貴重な資料を送っていただくことによって、ますます連綿と続く天野イズムがあることが確認できた。
☆1971年、図書委員会は86歳になる獨協名誉校長天野貞祐先生に高校生対象の講演を依頼した。テーマは「人間論」。その内容が「若い人達へ」と題されて、写真にあるように冊子にまとめられた。
☆71年といえば、私は中2だから、当時の高校生と同時代の空気を吸っている。だから、天野貞祐の話もあの時代にかえって想像できるし、高校生徒のラフな質疑応答もなんだか懐かしい。もちろん私は獨協出身じゃないが。
☆それにしても、よくもまあわかりやすく、カントの批判思想をカントの用語を使わずに説明しているものだと感心した。それから他の「忘れえぬ人々」も読み合わせることで、内村鑑三の考え方もきちんと伝えているなぁと驚愕。
☆さすがは、戦後教育を作った吉田茂と南原繁のクリスチャン人脈グループで活躍した天野貞祐だなとこれまた驚いた。戦後の改革精神と獨協学園の教育ビジョンがシンクロしているのである。
☆講演で、今、人は妨げから自由になろうとしているが、案外その妨げは外にあると思っている人が多い。実は自分の中にあるんだよ。その内なる妨げから自由になることが自由じゃないかいというようなことを語っている。
☆「忘れえぬ人々」で、内村鑑三を回想しているが、内村鑑三は柏木の聖人といわれていたけれど、そうは見えない。むしろ主我的な生き様だ。ただし、それはその主我が生みだす妨げを超える主我だ。だから宗教的詩人といったキャラクターだみたいなことを書いている。
☆熱烈な内村鑑三門下生ではなかったがゆえに、客観的に内村鑑三の生き様を観察し、内村の自由を抽出できたのだと思う。そしてその自由について、わかりやすく母校の後輩に語っているのだ。
☆講演会後の質疑応答というより、簡単な議論も興味深い。「先生、幸福のためには、他者を犠牲にしてもよいと思いますか?」と質問すれば、「君はどう思うんだ」と聞き返している。この問答は結局エゴという内面の妨げから自分がどう自由になるかということだ。
☆この講演会の中身は、大学の意義や学問の意義、男子校の意義、徳の意義、歴史の意義、東西文化比較論など、当時のそして今も解決していない重要なテーマが圧縮されていて、色あせていない。この継続性こそ≪私学の系譜≫であるが、それにしても前回紹介した2人の生徒の論文の内容も、天野貞祐の「人間論」にシンクロしている。時代を超えて。
☆天皇夫妻のご成婚50年。横浜開港150周年。ダーウィン生誕200年。ベルリンの壁崩壊から20年。今年は、日本の近代化を問い返すターニングポイントでもある。天野貞祐をはじめとする戦後私学人の生き様を調べることは、意外にも戦後に建てようとしていた大きなビジョンを忘れてきたことに気づくトリガーになるかもしれない。
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