共立女子とクーデンホーフ・カレルギー
◇今年はNATO60周年。ヨーロッパは新たな局面を迎えている。再びヨーロッパ合衆国とは何かが問い返される時でもある。
◇そのような中で、EUの父クーデンホーフ・カレルギーが、共立女子と理念を共有しているという貴重な論文(渡辺眞人教頭)が、共立女子のPTA中学広報部「沈丁花」09年3月13日号に掲載された。学内資料という範囲を超え、人類共通の資料でもあるので、ここでも紹介したい。
校訓の由来 教頭 渡辺 眞人
◆創設のころ
共立女子中学校の母体である共立女子学園は、明治十九年(一八八六)に教育界の先覚者三四名によって誕生した共立女子職業学校から始まる。
当時学校といえば官学が主流で、私学は極めて少なく、四年制の義務教育の小学校も就学率はかなり低く、特に女子教育は不振であった。共立女子職業学校はこのように女子教育が低調で、小学校卒業後に進学する学校がない時期に、「質実勤勉で実際に役立つ婦人」の育成を目標に、実学の尊重や女性の自立を目指し、創設されたのである。
◆誠実と勤勉
私学には創立者の教育方針が建学の精神として、また伝統として継承されている。共立女子学園の校訓は「誠実・勤勉・友愛」であるが、誠実と勤勉は明治以来、百年以上にわたる学園の教育方針として受け継がれている。 「誠実・勤勉」がいつ、誰によって提唱されたかは明らかでないが、明治四三年(一九一〇)頃には共立女子職業学校の校訓として定着していたと思われる。「誠実・勤勉」の文献上の初出は『共立女子職業学校二十五年史』に収録されている当時の校舎の写真に見られる。三階建の校舎が新築されたのは明治四三年であるが、講堂の正面に南摩綱紀講師の筆による「誠実勤勉」の文字が額として掲げられている。
また、共立女子職業学校の校歌は明治四四年(一九一一)三月の二十五周年記念式典の時に仮の校歌として発表され、後に正式な校歌となったが、その歌詞の中にも見られる。
一
誰か虚栄の夢に酔ふ
ただ活動に人は生く
日々に技芸の奥分けて
内に一家をゆたかにし
外帝国の産を増す
是ぞ尊き我か使命二
夫れ天覧の恩命に
深き叡慮の程を見よ
かの誠実と勤勉の
教を胸の銘として
倦まず弛まずいざ共に
共に果さむこの使命
校歌は技芸教育を行い、将来は家庭と国家の繁栄に役立つ人材を養成することを目的とし、その実現には誠実と勤勉が大切であると説いている。
◆五つの徳(五訓徳)
昭和の時代に入って、学園創立者の一人であり、第六代校長に就任した鳩山春子は、「誠実・勤勉」はいかなる意味を持ち、またこのほかに何が必要なのかを考えた。そして共立女子学園のみならず、社会に向けての倫理運動として、五つの徳を呼びかけた。昭和七年(一九三二)に執筆した「五つの徳と義務精神の普及」の原稿には、五つの徳である「誠実・勤勉・家庭・貞操・義務」の意味と関係が述べられている。
昭和三一年(一九五六)には待望の中学新校舎(二号館)が完成した。玄関ホール壁面には先ほど述べた、五訓徳を象徴するレリーフが飾られた。朝倉響子による「五人の少女像」である。建築自体が生徒の感受性に大きな影響を与えることを考え、最も目につきやすい場所に、心理的に何か役立つものをという配慮から壁面に薄肉の彫刻が取り付けられ、以来平成十八年(二〇〇六)に現校舎に移転するまで、生徒に親しまれた。
◆友愛
三つ目の校訓「友愛」については、少々説明が必要である。
『パン・ヨーロッパ』という書を著し、欧州連合(EU)の父といわれたのは、クーデンホーフ・カレルギー伯爵である。鳩山春子の長男鳩山一郎は、軽井沢別荘の隣人であった早稲田大学市村教授から、カレルギーの英訳本の “Totalitarian State Against Man”を贈呈された。
鳩山一郎はこの書を訳し、『自由と人生』という題で出版し、伯爵の「友愛革命」という考え方に大いに共鳴し、「友愛青年同士会」を結成した。現在は文部科学省の所管で、財団法人「日本友愛青年協会」として存在している。この関係で、鳩山家と親交を持った伯爵は、昭和四二年(一九六七)十月に一郎の妻である共立女子学園理事長の鳩山薫のもとを訪れた。そして、大学生に対して共立講堂で「婦人と平和」の題で講演を行った。
余談ではあるが、伯爵の母親は日本人である。ゲランの香水「ミツコ」は当時のフランス社交界にいたクーデンホーフ光子(旧姓青山)の名に感化された、クロード=ファレールの小説『戦場』のヒロインからつけたとされている。
『自由と人生』の最後の章に、友愛革命というものがあり、そこには、我々の生活していくこれからの世の中というものは、こうあるべきだと書かれている。そこには、世界の平和は、家庭、地域、社会など、人間的なつながりの基盤を大切にすることから始まるなど、前述した「五訓徳」に共通する部分もある。また日本人になじんだ考え方も多く、共鳴できるのかもしれない。
昭和四七年(一九七二)に理事長である鳩山薫は校訓にこれを加え「誠実・勤勉・友愛」とし現在に至っている。
ちょうどこの年は、中学校創立二十五周年にあたり、盛大に記念式典が行われ、記念文化祭は「友愛」をテーマに実施された。生徒歌・応援歌が選定されたのもこのときであり、記念品には校長鳩山薫の筆跡「愛」を焼き込んだ額皿が配布された。
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