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受験市場とドラゴン桜

☆受験市場なるものが、明治維新以来の優勝劣敗思想ベースの近代官僚国家システムが必然的に生み出したのかどうかはわからないが、見える部分では、塾という担い手が市場を運営していることは確かだ。

☆この受験市場の性格をうまく表現している文学(だと思う^^)が「ドラゴン桜」だろう。偏差値なんてぶっとばせ、受験テクニックとそれを伝授する講師をそろえればなんとかなるという確信は、私学教育市場そのものからは生まれてこない。

☆しかもここには、学歴主義や能力主義(メリトクラシー)を覆そうという挑戦的な戦略を遂行しながら、東大に入らなければ、おまえら一生負け組だぞと恫喝している桜木健二の存在がある。

☆実にこの矛盾は興味深い。しかし、これは実は受験市場の矛盾ではないのである。塾は教育を基本的に批判はしない。目の前の小学校や中学校、高校、大学に合格させるのが生業だからだ。

☆しかし、偏差値なんて乗り越えよといいつう高偏差値の東大などのエリート校を容認してしまう表現を許してしまうのは、進路先のエリート校のもともと持つ矛盾なのである。

☆東大は確かに、初代の綜理加藤弘之によって、福沢諭吉や江原素六のような私学人の啓蒙的あるいはキリスト教的思想を排除し、「優勝劣敗思想」をエンジンにする思想がベースだが、戦後教育基本法の成立を果たした南原繁グループもまた東大である。

☆公立学校の多くは加藤タイプで、私立学校の多くは南原タイプである。しかし、行きつく先は東大なのである。

☆この矛盾を解決するには、日本の大学の階層構造が崩れなければならない。しかし、それはすぐにはどうしようもない。

☆結局、どこに所属するかというような「肩書人間」ではなく、自分自身の言動が世界に通じるという自信が持てる「本性人間」であることがポイントになるのだろう。

☆それにしても「サンデー毎日(2009年9月6日号)」は、受験市場のドラゴン桜的な枠組みを見事にアンケートで表現している。

☆「保護者は志望校を選ぶ際に何を重視しているか」というアンケートに塾関係者は「大学合格実績」「偏差値」を真っ先に挙げている。学歴社会やメリトクラシーの社会を容認している。

☆一方、その勝ち組負け組競争の中で伸びる子、つまり勝ち組になる子を育てる保護者の特徴はとなると、「子どもとコミュニケーションがよくとれている」「しつけ・生活習慣・食事の管理をしっかりしている」「塾を信頼し、聞く耳を持っている」「子どものことをよく見て、適性や能力を把握している」という特徴が上位に並ぶ。

☆しかし、このコミュニケーションは、決して優勝劣敗型の抑圧的なコミュニケーションではない。むしろ創造的コミュニケーションだ。

☆保護者だけではなく、教師もこのようなコミュニケーションをとっている学校は、伸びる生徒がたくさん生まれている。

☆優勝劣敗型社会においてもフラットな市民社会型社会においても、創造的コミュニケーションがポイントだということになるのか。

☆ということは創造的コミュニケーションを続けている限り、優勝劣敗型社会に綻びが生じる可能性があるということではないか。優勝劣敗型社会では、抑圧的コミュニケーションで充分だったはずである。パワハラの糾弾などなかったはずだ。しかし、現実は違う。優勝劣敗型社会に内包されている矛盾とは、抑圧的コミュニケーションと創造的コミュニケーションの葛藤だったということか。

☆しかし、権力というものがある限り、抑圧的コミュニケーションはなくならない。常に振り子のように揺れ動くのだろう。ただ、昨今の世界同時不況や世界同時政権交代の動きは、21世紀に創造的コミュニケーションを求めていることは確かなようだ。

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