第2私学危機を乗り越える新しい生徒獲得の方法
☆今、日本の企業が苦しんでいる。自動車であれ携帯電話であれパソコンであれ新聞・雑誌・広告であれ、日本のお家芸ものづくり産業の発想から抜けきれないからだと言われている。
☆つまり、どんなに優れたマシーンをつくろうと、どんなに優れた文化コンテンツをつくろうと、それが売れるシステムづくりに力を入れてこなかったからだろうと。
☆簡単に言えば、良いものを作れば、以心伝心売れるのだと考えてきたところが問題。
☆この発想は、実は私立学校の教育にも似たところがある。クオリティを高めていれば、生徒は集まるのだと。だが、どこから集まるのかというと受験市場からだ。
☆どんなに良い教育を実践していても、この受験市場にはなかなか響かない。よって、生徒は集まらない。
☆今はなくなっているトモヱ学園。しかし、今もその良質の教育は語り継がれているが、それは受験市場によって語り継がれているのではない。黒柳徹子さんの書いたベストセラー「窓ぎわのトットちゃん」によってだ。
☆もし、トモヱ学園が活躍していた時期に、黒柳徹子さんのような存在があったら、おそらく今も学園は健在だっただろう。
☆黒柳徹子さんは、受験市場とは無縁である。製造業もそうだが、どうやらマーケティングのコンセプトが狭いのかもしれない。自動車をパソコンを購入するターゲットの絞り方が一義的なのではないかという意味である。
☆ロングテール論と言われてしまえばそれまでだが、ニーズを掘り起こすというより、すでにニーズを持っている顧客がものを買わなくなっているのが現状だから、ターゲットの背景にある別のネットワークの好奇心を生みだす表現を開発することが重要なのではないか。
☆私立学校ももしかしたらそうなのかもしれない。今行われている学校説明会や合同説明会は、真正面から受験のことに絞って表現が行われている。学校選択のニーズがある受験生や保護者が、その表現では、選択のアクションを起こしにくい飽和状態に達しているような気がする。
☆じゃあ他のネットワークに動員をかける方法とは何なのか?それは以外にも教科書会社にあるのではないか。検閲の問題や文科省の直轄教材領域の感があるから、私立学校はなかなか教科書会社と協働するようなイベントは打たない。
☆しかし、教科書こそ小学校で受験生が最も身近に手にしているものだし、受験市場というよりは教育市場、教育市場というよりは文化コンテツの基礎を植え込む文化市場でもある。ここにはたしかに「窓ぎわのトットちゃん」の居場所があるのだ。
☆もちろん、微妙な領域ではあるが、そこに詰まっている知のノウハウは、広く深い蓄積がある。
☆このことに気づいたのは、ある教科書会社の編集者とある私立学校のキャリアデザインのプロジェクトを構築している先生との出会いに立ち会ったときだ。ジレンマ教材やコールバーク、ハーバーマスなどの背景を持ちながらも、わかりやすい教科書を編集していることがわかった。
☆教科書の編集者は、エリクソンなどの発達心理学的な要素やコールバークの理論などをどのように教科書に中立的に活用できるのか悩んでいたし、私立学校の先生は、そういう理論をキャリアデザインや自己実現プログラムの中に教科書を活用して埋め込むことができるとは思ってもみなかったという新しい発見をした。
☆ある意味両者の出会いは化学反応を生んだといえる。どのようなプロジェクトとして発展していくのか今後楽しみである。
☆そうそうすでに構造的にはこの新しい生徒獲得の方法を生み出している私立学校がある。その学校は教科書会社というネットワークではなく、大学の新進気鋭の教授陣とのネットワークと協働関係を形成しようとしているのではあるが。
☆ポストモダンの波乱の時代において、98年・99年が私立中高一貫校の生徒獲得戦略の第1の試練の時だったとすると、あれから10年過ぎて、2010年は第2の危機を迎えている。
☆しかしながら、第1の私学危機のときに多様な入試改革や説明会のチャンスが生まれたように、第2の私学危機においても新しい方法が生まれるだろう。その兆しが少しずつ見え隠れしている。
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