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受験市場から教育多層市場へ [05]

受験市場から教育多層市場へ [04]のつづき。

☆「教育と医学№679(2010年1月)」(慶應義塾大学出版会)の特集は「子どもの感受性を磨く」。丸野俊一教授(九州大学)は、感性についてこう定義している。

感性とは、“自然・モノ・人との関わりの中で磨かれ・拓かれる極めて創造的なもの”である。

☆感性、あるいは感受性は創造性とかかわっているようだ。東大の中田基昭名誉教授は、

感受性は、思考や認識といった、我々の能動的で知的な活動の次元で生じることではないため、意識して意図的に作り上げたり操作できるものではない・・・・・・感受性は、教育や養育の領域において、重要な関心事でありながらも、これまできちんとした研究がなされてこなかっただけでなく、その内実は非常に曖昧なままにとどまざるをえなかった。

☆つまり創造性育成の学習指導要領がなかったのは、そういうわけなのだ。しかし、中田先生は、東大教育学部の中でも、現象学的方法論で授業を分析し、20世紀末から、感受性を無視した一方通行的な講義形式の授業に間接的に警鐘を鳴らしてきた。東大教育学部の中では、主流ではなかったのではないだろうか。憶測にすぎないが・・・。ともあれ、同誌の「表情の感受性」という論文の中で、さらにこうも語っている。

感受性は、一般にそう思われているのとは異なり、感情的に他者との一体感に浸れることではないことや、他者の感情の動きに敏感になることではない・・・・・・。

☆一体感に浸れるとか、感情の動きに敏感になるというのは、他者の感情や思いが、他者の内面にかくあるだろうという認識的な想定を重ねていることで、感受性の働らきとは違うということだろう。認識は限定的にしか理解できないから、一体感でもなく、敏感でもなく、押しつけがましかったり、抑圧的だったりするわけだ。

☆中田先生は、生徒の表情の写真3枚(教師と対面しているだろう写真・考えている表情の写真・満面に笑みをたたえている表情の写真)を例にあげて、こう結論する。

感受性が、今回の場合には、面(おもて)としての表情が外界の世界に向かいつつ、その照り返しであることを感受するといったことが、我々の日常生活のささやかな場面ではっきされているはず・・・・・・。

☆内面に表れたなんらかのものを表情として映し出しているというわけではない。それは外界の世界と身体による双方向的な対話の表れであるというのだろう。

☆この認識による抑圧的なコミュニケーションではなく、身体的な感覚器官による対話をみのがさないのが授業で重要であるということだろうが、これこそクリエイティブ・コミュニケーションのシステムである。

☆ただし、内面と外界を分化するのが認識の特徴ではなく、それは認識の1つの理論であり、認識それ自体も内面と外界の壁をぶっこわし、その空間と時間と歴史性などなど多様な条件の関係性ととらえる認識論もあり、認識と感性を二分するのは、どうだろう。そこは議論を進めるとよいが、それが官学の限界である。

☆認識と感受性を統合するのが芸術的判断であるとするカント的な考えにいかないのが、なぜか日本の教育学の歴史だからだ。

☆認識だけではなく感受性の重要性を提唱するのはよい。しかし、感受性と創造性をショートさせるのではなく、その差異を明確にするのがようやく次のステージ。そして、いかに関係性といっても、その条件をすべて分析することができるわけではないから、その条件を文脈として言語化する認識論にはやはり限界があること。感受性はすでに暗黙知として身体自然的に反応できているはずだが、自然の条件が環境問題のように刻々変化ししているわけだから、身体自然的に反応できなくなっている今日的問題もある。

☆条件の探究をしつづけつつ、認識と感受性と創造性の関係性を明かにしていくことは教育において無視できない。そういう意味では、同誌に掲載されている福田正治教授(富山大学)の感情階層説は興味深い。

☆脳科学者のアントニオ・R・ダマシオ教授のように、感情を情動と高等感情に分類しさらに4階層構造を想定している。

☆これによって、知的感情と社会的感情の部分で認識や倫理に結び付く可能性が予想される。教育と医学のインタフェースが、創造性を育むプログラムとその議論を巻き起こす可能性に期待したいが、この期待に応えることができるのは、受験市場ではあるまい。学習指導要領に拘束されている教育市場でもあるまい。学習指導要領に間接的に拘束されているのは大学の教育学部もそうなのだ。

☆だから、期待できるのは教育学部以外の学部による大学市場と私立中高一貫校による私学市場以外に今のところないということになるのではあるまいか・・・。

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