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伸びる学校[064] かえつ有明の成長つづく<04>

伸びる学校[062] かえつ有明の成長つづく<03>のつづき。

☆かえつ有明の興味深いサイエンス科プログラムは進化し続けている。そのため、ときどきサイエンス科にかかわっている先生方にインタビューの機会をもらい、その進化を追跡している。

☆今春からサイエンス科は、国語と科学の融合の時代からジャンプして、あらゆる教科及びイベントを結び付ける(あるいはエスコートする)思考方法としてクリティカルシンキング(以降CT)をメインアイデアとした。

☆今日では日本でも、CTは、企業などでは当たり前とされているが、日本の学校教育ではまだまだ導入は遅れている。文科省も新学習指導要領デザインの舞台裏では、CT導入に積極的だ。

☆しかしながら、サイエンス科の主任山田英雄先生は、日本の文化的な特徴として、CTの捉え方がガラパゴス的だと語る。

☆たしかにそうだ。企業でCTを導入していると言っても、PDCAの一環で、自己の仕事の作業効率を上げたり売り上げ目標達成のための反省だったりで、根本的な生き方そのものを批判的に考えようというものではない。

☆山田先生は、そういう意味では教育市場と産業市場を明快に分ける見識を持っている。だから、企業で行っているCT養成プログラムをリサーチして、教育に焼き直しているようでは日本の教育に未来はないと思っている。

☆むしろ逆にならねばならないという気概をお持ちだ。だから、CTプログラム、つまりサイエンス科プログラムをつくる際に、学的背景を徹底的に広げ深め、その中からエッセンスを抽出してプログラムをデザインされる。

☆できあがったプログラムは、見る人がみたらその学的背景がにじみ出ているのがわかるが、そのような素養や学びを経験していない人がみたら、興味深いプログラムであることが伝わる程度だろう。しかし、現実的なプログラムとしては、それでよいのだ。

☆ただし、プログラムをデザインする側は、それでは運営することができなくなる。形骸化するのだ。だから、サイエンス科を担当する先生方は、日々探究し続ける。

☆山田先生が、米国の大学院で研究してきたご自身の認知科学や認知心理学の成果と今なお探究し続けている知見を先生方にシェアするミーティングを毎週行っているのは、そういう理由なのだろう。

☆私などは、俗っぽいから、すぐに効果を聞きたがる。山田先生に、CTは実際の大学入試問題を解くのにどれほど役に立つのかと質問してみた。

☆するとよいところに気づきましたねとばかり、入試問題を実際に示して説明してくださった。東大と慶應、早稲田の英語の入試問題で、具体例を見せてくれただけではなく、作問される大学の先生方の研究成果から、選ばれる文章がすでにパラグラフライティングというCTを現実化したテキストから選ばれる傾向にあることを指摘された。

☆従来の受験英語のスキルで解けないことはないが、大学自体の学びや探究方法が認知科学(たとえばブルームのような)に即してデザインされるようになっているのだから、その視点で問題も作られているはずである。だったらその視点を学んだほうが大学入試にストレートに役に立つのは当たり前だし、大学に入ってからも学びや探究はやりやすいはずだという。

☆実際にかえつ有明に入学してくる帰国生の多くはパラグラフライティングやパラグラフリーディング、そしてCTのトレーニングを小学校から受けてきているから、サイエンス科でもよき影響を与えているし、大学入試の結果もぐっと引き上げるシナジー効果を生んでいるそうである。

☆今の高3の帰国生の中にはすでに上智や学習院に進学が決まっている生徒もいるそうだ。そして後に続けと一般生も踏ん張っているそうである。

☆高い志の教育理念は、精神的スローガンではなく、生徒自身の生きる基準である。その基準をベースにクリティカルシンキングをしながら生きていく。目の前に表れた大学入試の問題も人生の難問も、一見立ちはだかるのは、すべては差異がショートし、ジレンマが生まれているからだ。多くはその違いを見る目を持っていない。だから壁を越えられない。壁を超えるにはクリティカルシンキングが稼働しなければならない。だからCTを養うのである。

☆本物の中等教育は、大学受験勉強のスキルではなく、学に根拠を求めるものだと改めて感じ入った。山田先生は、新しい認知科学の成果を学ぶだけではなく、そのルーツであるJ・デューイの哲学にまでさかのぼっている。そしてさらにデューイのルーツであるヘーゲルやアリストテレスにまで探究を深めている。

☆もっとも、中等教育の教師として目の前の生徒1人ひとりに対話を通してアドバイスする毎日の教育活動の合間の中での探究である。1日が50時間あればと思いつつ・・・。

☆これが私学人の気概であることは間違いない。

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