私学市場の意義[07]
私学市場の意義[06]のつづき。
☆「中学受験と私学中等教育11月号(2009年11月15日)・編集発行(株)森上教育研究所」で、白梅学園清修中学校の戸塚丈夫先生の数学実践のケースが紹介されている。
☆Z会マスターコース講師の石田浩一氏のセミナー報告レポートであるから、おそらく戸塚先生が、セミナーで発表されるように依頼されたのだろう。
☆発表された内容は、各学年で年間通じて探求されるテーマ学習のうち中2の「未来予測プログラム」。身の回り・世の中の出来事についてデータを収集し、分析し、さらに未来を予測するとどうなるかについてグループで探求して発表するプログラムだ。
☆人口問題、地球温暖化の問題、自動車生産台数、携帯電話の生産など、それぞれ関連データを調べ、そのデータの意味や未来はどのようになるのか予測した例が紹介されたようだ。
☆一般には、数学というものは、関数というか、方程式というか、ともあれ、数学の問題を解くための道具としてしか考えられていないものだが、実は身の回りや社会の現象の中にある法則を見出すために必要な道具であり、思考を促進するきっかけであり、実は思考そのものの投影であったりすることを実感・体感できる優れたプログラムであると石田氏は絶賛している。
☆石田氏自身、中学の図形学習が大学入試につながるというものの見方をされている方であり、この視点は戸塚先生と共通している。
☆そもそも数学の世界は、19世紀末までは、あらゆる現象を幾何で解き明かすことが王道だったはずである。それが現代数学の登場で、関数と方程式でシンプルに表現する道が開かれた。
☆本来幾何で表現する限界を関数や方程式で乗り越えようとされたのであろう。政治経済が、近代経済学にシフトするとき、多次元方程式が活用されるようになったのと呼応している。
☆しかし、大学入試レベルは、幾何の限界を超えるような問題は実はそう多くは出題されているわけではない。その多くが幾何を駆使すれば解けてしまうという話題もでているようだ。戸塚先生は、その研究の集まりでも活躍されている。
☆三角関数や行列で解けるものは、たいていは幾何で解ける・・・。つまり、大学入試の数学の問題世界は19世紀末までのもので、それ以降の現代数学の発想がなくても解けるということか。
☆そして日常生活で解決するために使う道具は幾何的発想で十分なのかもしれない。日本の高校数学教育は世界標準に比べ高度であるというのは、中学までの数学は19世紀末までの数学観で、高校になると急激に現代数学の知見にシフトするからであるのだろうが、ずいぶん日常生活からかけ離れているとも言えるのかもしれない。だからこそ、幾何の学習を大事にしたいということなのだろう。
☆戸塚先生よると、小学校から中学に進む時、算数から数学にうまくシフトできない生徒がいるという。それは図形と方程式が1つの考え方の表現を変えたものであるという変換の視点が欠けているからだと。
☆だからグラフや図の読み取りを通して、そこに気づいてもらいたいのだと。そしてこの気づきがないまま中学から高校に進むと、同じ数学なのに、壁にぶつかることがあるのだと。
☆白梅学園清修の数学知は、入試の時から始まる。図形問題を解くことだけが目的ではなく、図形を通して数学的思考を学ぶところから始めていきたいと。大事なことはこの数学的思考なのだ。なにせ近代建築や現代思想、金融資本主義、科学などの舞台裏は数学的思考なのだから。
☆そしてこのことは白梅学園の教育理念であるヒューマニズムにも通じる。近代思想の父デカルトは数学的思考の確立者でもあるし、イギリスの金融をコントロールする立場にあったかのニュートンも数学者でもある。この発想は、現代思想の出発点となったフッサールの現象学に継承され、さらにフッサールの哲学は、社会学にも継承されていく。要するに、白梅学園の教育理念ヒューマニズムのルーツは近代数学にあるのだ。
☆大学入試に直結する数学のセミナーのはずであったのが、そこで出会った受験市場と私学市場が、近代数学・現代数学の文脈で共鳴しあったのではないか。
☆私学市場の意義は、たとえきっかけは受験勉強であっても、そこに真理を浸透させる影響力なのではないか。真理は真理である。
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