私学市場の意義[10]
私学市場の意義[09]のつづき。
☆「所報」という東京私学教育研究所が毎年編集発行している紀要がある。今年の春74号が発刊されている。
☆「所報」を読んでいくと、私学人がどのようなビジョンを見据え、今・ここでの教育問題や社会問題を解決しようと取り組んでいるか、生徒達に何を期待しどのよに教育を実践しているかが見えてくる。
☆私立学校は教育と経営の両輪を戦略的かつ革新的に運営している。経営がからむわけであるから、そこには市場が広がる。しかし、その市場は単純ではない。受験市場というフェーズと教育市場というフェーズ、そして私学独自の私学市場のフェーズが混在していて、複合的である。
☆受験市場が優位に立っていた時もあるし、教育市場が優位に立つこともあったであろう。しかし、今日では私学市場がこの業界全体をけん引しなければならない状況になった。
☆受験業界全体が量の競争の限界を迎えているし、教育市場は、学習指導要領ベースの編面的な教科書では、世界で展開している知識基盤社会に対応できなくなっているが、文科省の拘束力は解けることを知らない。理念なき金融資本主義の崩壊が求めているのは再び理念のあるクリエイティブ資本主義である。資本主義の限界もあるだろうが、次の新たな暁光を拓くのは教育では私学市場であろう。
☆特に東京における中等教育レベルの私立学校の市場は世界でも類をみない優れたシステムなのだ。200以上の私立中高一貫校が東京エリアに集中しているという都市はほかにあるだろうか。教育格差があると批判されつつも、欧米に比べればはるかに大衆に開かれている。
☆「所報74号」の巻頭言で、東京私立中学高等学校協会会長(八雲学園理事長・校長)の近藤彰郎先生は、新しい学習指導要領の相も変わらず学校の実際の生徒の状況を無視した全国一律かつ公私一律の政策を真っ向から批判している。
☆私学人の国の教育政策に対する凛とした姿勢が映し出されているのだ。近藤会長はこう宣言する。
「人は生きる時代を選べない。与えられた時代を懸命に、賢明に生きる。」私は度ある毎にこう申し上げています。子どもたちもその時代を、その時代だけを生きているのです。だから、教育内容を変えることは絶対に失敗が許されません。私たちはこの項目(英語の授業はすべて英語を使って授業をするという項目)が子どもたちによりよいものとなるよう、じっくり検討したいと思います。
☆ここには限られた時代を生きる人間が、限られた時代を超えて正しいビジョンや理念に支えられて懸命に=賢明に生きていくことが大切であるという私学人の精神がこめられている。その賢明かつ普遍的な精神がなければ、限られた時代の中で教育内容が失敗しているかどうかは興味と関心がなくなり、だから、場当たり的な政策が生まれることになる。
☆そして実際そうなっている。では子どもたちにじっくり腰を据えてそその責任を引き受けるのはだれか。それは「私たち」私学人だと近藤会長は宣言しているわけである。
☆實吉副会長は、よく私立中高一貫校の絆を「ゆるやかな理念共同体」と表現されるが、このような共同体が存在するのは、世界では東京エリアぐらいかもしれない。それゆえますます私学市場の存在理由は重要なのである。
☆しかも、「ゆるやかな理念」の集まりというのが言い得て妙なのだ。理念の正当性・信頼性・妥当性は常にクリティカルに検討されねばならない。しかし、もし唯一の理念だけに集まったとしたらどうなるだろう。
☆そこには恐ろしい圧政、抑圧、強制、拘束、鬱屈・・・が生まれる。議論が生まれない。そう実に国の教育政策となんら変わらなくなる。なぜ不登校が増えるのか。いじめがなくならないのか。教育政策それ自身に問題が内包されている。そのことを議論できないのが公立学校の盲点である。私学市場がそこを開眼させるべく教育実践で証明せねばなるまい。
☆その強い意志と熱い情熱が、いつも「所報」にこめられている。
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