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クオリティスクールの新コンセプト[026]

クオリティスクールの新コンセプト[025]のつづき。

☆東京エリアの出願がはじまって3日目、少しずつ昨年と同じくらいの受験総数に向かって出願数が増えている。もちろん、午後入試や試験回数を増やしているから、実受験者数は多少減るかもしれない。

☆しかし、3倍以上倍率があれば、基本的にはサバイバルできるはずだから、量よりも質の方向に本音ではシフトしなければならない。まあしかし、受験というのはイベントでもある以上盛り上がりと勢いが大切で、この時期にクールに構えているわけにはいかないのも事実なのだ。

☆冷静だが熱い行動がなければ、市場は衰退するのが世の常だからだ。

☆受験市場はそれでよい。ただ私学市場は、≪私学の系譜≫がしっかりと生き残らねばならない。近代の闇を撃退する英雄、あるいは近代の壁にぶつかる卵になるのは≪私学の系譜≫の環境からなのだ。だから、日本の近代化の過程で生まれた私立学校はある意味社会のリーダーを輩出する文化資本再生の場なのである。

☆≪私学の系譜≫といえば、その第一世代は、福沢諭吉であり、江原素六であり、新島襄であり、矢島楫子であり、キリスト教や仏教の多くの宗教家である。彼らの系譜の私学は、紆余曲折あるだろうが、世界の問題を引き受けて教育を行っている名門として位置している。

☆第二世代であり、戦後の教育に重要な影響を与えた思想家は、内村鑑三と新渡戸稲造である。多くの弟子たちがその思想を戦後教育基本法に注ぎ込んだ。この教育基本法の思想を多くの私立学校が今も脈々と継承しているわけである。

☆そういう意味で≪私学の系譜≫の精神をそれぞれの私学がどのように現代化=脱構築=組み換えているのかがポイントである。

☆内村鑑三の精神の影響を受けている鴎友学園女子は、まさにロゴス化という学内議論を通して、教育理念の現代化を果たして久しい。そして今年の生徒募集も安定し、人気は続いている。

☆新渡戸稲造の思想の影響を受けている学校といえば、普連土、恵泉、新渡戸文化学園である。普連土、恵泉は、やはり新渡戸稲造の思想を現代化している。新渡戸稲造の精神の教育力としてのデフォルト水準が高い。だから学校に訪れたり、パンフレットやサイトを開くと、そこには「道」を感じるのである。そういうこともあって、生徒募集は今のところ成功している。

☆ところが新渡戸文化学園の中学の生徒募集は、苦戦している。新渡戸稲造の探究精神を受け継ぎ、そのプログラムを独自に展開しているのに・・・。

☆おそらく表現がロジカルすぎるのではないだろうか。中高というのは思春期を通過する。思春期とは1人ひとりの葛藤と世界の問題が重なり心的空間が曲がるときである。この時期を通り抜けるには、ファンタジーとか異界と接点を見出しつつも決して同化しないで通過する自己の道を見出さねばならない。

☆自己の問題と世界の問題が結び付き、自分なりの価値観や世界観を概念的に内面化する時代である。新渡戸稲造が自らの内面に抱え込んだ自分と世界のジレンマに耐えながらクウェーカーの道を突き進んだ道行きを強烈なイマジネーションで共鳴し、生徒達が自らの道を拓いていくような自己実現プログラムが表現されていない。もったいない。

☆戦後日本の生活は、大量消費・大量消費・大量移動によって、そのジレンマにフタをしたまま生きることができたし、無関心で過ぎ去ることができた。ジレンマに耐えることが高ストレスだと避けられてきた。しかし、それが幻想であることが家族形態の変化や若者の生活の変化の中で表出化してきたのは、説明を要しないだろう。

☆根源的な存在の不安を概念的にとらえ返し、不安の扉をあえて開く。そこから希望が生まれてくる。そういう実感を抱けることが再び重視される時代になっている可能性がある。そこから逃げるのではなく、むしろそこを乗り越えていくことができる知性と感性。今までと違うのは、道を歩むとき、多くの支援者がいることだ。そのようなプロジェクトが行われている学校に生徒が集まるのではなかろうか。かつてのように自己克己ではなく、相互克己・・・。

☆私立学校の多くはそのようなプロジェクト・プログラムを実行しているが、必ずしも表現しているとは限らない。新渡戸文化学園もその1つかもしれない。このような場合は、受験生側にそれを感じる高感度な選択眼が必要。もし学校選択で迷われている方がいたら、訪れて感じることができるかどうか探究してはいかがだろう。

☆八雲学園は今年も生徒が集まっているが、やはりここには自分の物語をつくる教育がある。物語とは非日常や異界にドキドキ、ワクワクしながら近づき、根源的な人間性を発見する道である。多種多様なイベントや海外研修・異文化交流という非日常、異界の設定が巧みである。

☆かつてHOT NEWSで、八雲学園の卒業生についてこう書いた。

慶応大学法学部に進学したTさんは、物静かな性格だが、茶道部の部長役を果たし、今では師範になっているほど道を極めている。高3時の読書感想文の中で、泉鏡花の「異界」の世界が、不可知のものを排除してきた合理的近代人にある充実した感覚をもたらすということに気づいていたほど。この道という心的構えによって受験準備は支えられたとTさん自身自覚している。

☆この合理的近代人が忘却しているものを再発見する感性が育つのは八雲学園の教育の質なのだ。思春期とはこの忘却されたものへの接近がゆえに起こす大切な葛藤とその葛藤から逃れようとする葛藤の二重の心的ゆがみ空間。この空間を世界空間につなげて自分の空間にデザインし直すのが思春期。そのときいっしょに建築を手伝ってくれる友人や教師が大切なのだ。

☆このゆがみを見て過剰にあたふたする親が最近は多くなったかもしれない。学校の教師が親とコミュニケーションをとるのは、ゆがみの表層ではなく、ゆがみの本質について、教師と生徒と親が共有しなければ乗り越えられないからなのである。

☆この本質を大切にしているのが≪私学の系譜≫であり、その本質を掘り起こし、それを基準に未来に向かって生きていく道を見いだせる質の高い教育の競争が行われている場が私学市場である。受験市場では入り込めない場である。

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