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クオリティスクールの新コンセプト[035]かえつ有明の深まり

クオリティスクールの新コンセプト[034]のつづき。

☆今の地に拠点をシフトして共学校になってかえつ有明は5年目を迎える。サイエンス科、学習支援体制、学級や授業づくりのためのPDCAサイクルシステムなど新しいプログラムを開発運営し、進化してきた。

☆そして、その進化は、中1から入学してきた生徒の成長に程よい距離を保ちながら同伴走行してきた道のりでもあった。

☆学校を外から見ていると、どうしても新しいシステムに目が行きがちである。私もその例外ではない。

☆しかし、5か月ぐらい前に取材をさせていただいた先生方にお会いして、話を再び聞くチャンスをいただいて驚いた。サイエンス科のような新しい学びのシステムは、すっかり当たり前になっていたのだ。

☆システムをつくりあげていくとき、形式知化するのは今では組織経営では常識になっている。特にデジタル領域では、見える化が極めて重要だろうから、世の中がその方向で走っている。

☆しかし、そこからが重要なのだが、形式知化や見える化のままでは生産的ではないし合理的ではない。それらは再び暗黙知化し、視覚という脳の領域から身体で感じ考える身体化にシフトしなければ、飛躍しない。断層世代の用語でいえば、文化資本化していなければ、日常にその文化が機能しない。

☆コンサートでピアノを弾く時に自分のどの指で弾くのかを、指の圧力はどの程度にするのかを見える化したとたん、演奏は止まるだろう。アナリーゼやトレーニングは演奏会前に十分に行っておくのである。受験もやはりその点に関しては同じである。

☆そんなたとえと同じような深まりがかえつ有明の先生方との話の中で見えた。特に興味深かったのは、教師と生徒のコミュニケーションの大きな変化である。変化というよりも広がり、あるいは浸透速度と言った方がよいかもしれない。

☆どの先生方も、授業という知的活動と生徒達の気持=感情を連動させて、生徒自身から学ぶ内面からの姿勢をつくりあげようと必死なのである。だから、取材というよりディスカッションのように盛り上がる。やはりかえつ有明の教師は熱い。新しいシステムはクールかえつ有明を演出してきたし、子どもたちもそんな自分の学校をかっこいい、スマートだと言っている。

☆しかし、この熱があるからコールドにならずにクールでスマートでいられるのだと感じた。風の吹く教室にしたい、盛り上がる授業にしたい、輝く表情であふれる授業にしたい、目が上がる授業にしたい・・・。どれもこれも知的活動を支える感受性の豊かさのことを語っている。

☆楽しくなくては授業ではない。このような言葉はよく聞くが、かえつ有明の先生方は、楽しいと脳が動き出すのだと、感情と脳と知的活動を結び合わせようとする。

☆そしてさらに大事なことは、80%の生徒がそのような先生方の思いと共鳴できても、20%の生徒はそうはいかない。その生徒がいかに心を拓き、自分の内側に世界を見いだせるのか、日々悩みなんとかしようとしていると語るときの真剣な眼差しは、学園ドラマ以上にドラマなのだ。

☆マーケティング的には、イノベーターは3%ぐらいで、まったく見向きもしない顧客は30%ぐらいで、あとは様子をみて自分にとって役に立つかどうかという消費者だろうから、80%もの生徒がかえつの教育に積極的にかかわるのは、すでに成功だと思いますよと語りかけるや、先生方は「教育はそうはいかないでしょう。1人でも立ち止まっていたら、いっしょに走ろうとするのですよ」と。

☆「もちろん待ち続けることが基本ですが、そのような生徒はもんもんとしているわけで、何が問題なのか自分でもわからないで悩んでいるわけですから、その生徒の周りをうろうろしながら突破口は何かこちらも悩むんですよ」と。

☆もう一人の先生は、平家物語の授業でその突破口を発見することもできたという。今までのような授業ではなく、サイエンス科的な考える手法を使ってみたという。プロットというカードを複数枚用意をして、そこから選択して並べ替えて物語を再生する作業を仕掛けたというのだ。

☆もちろん授業の前後でかなりの仕掛けを準備をしているわけだが、その成果がこのプロットカードによる物語の再生によって最大の効果を生みだしたのだと思う。

☆物語を再生することは、模倣というミメーシスを媒介して自らの物語を再生することなのだ。「模倣はいけないと自分の中で壁をつくっている生徒がたくさんいます。日本のよくない慣習かもしれませんね」ともう一人の先生も語る。「勢いをつけるには模倣から始めてもよいとアドバイスしています。まずはスタートダッシュが授業の極意ですね」とも。

☆大きな物語が喪失してしまったといわれるようになって久しい今日、自分で自分の物語を作ることがキャリア教育だとすると、そんな特別なシステムがなくても、今のかえつ有明なら通常の授業の中でできてしまうのではないかとも感じた。そしてだからこそその持続可能性のためのサイエンス科システムの役割は大きいとも。

☆「それでもいつも生徒が自らやる気をだして授業を進められるかというとそうでないときもあります。それは生徒の問題ではなく、自分の仕掛けの準備不足が原因です。日々悩みっぱなしです。」グッときた。

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