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クオリティスクールの新コンセプト[058] 三輪田に期待できるコト

クオリティスクールの新コンセプト[057] 今後は本物教育のアピールが大事のつづき。

☆三輪田学園の応募者総数は昨年対比127.5%。厳しい受験市場の中で、成功を収めたと言えるのではないだろうか。新校舎建設といっても、いっぺんに建ったわけだはないから、その効果によるものとは必ずしも言えない。校長の世代交代があったが、校長が変われば学校も変わるという法則はあてはまらない。というのは前校長の西校長の力量そのものを超えるのは、他校でも難しいからだ。大学進学実績の飛躍かといっても、大きな右肩上がりを描いているわけでもない。

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☆何か新しい教育プロジェクトをぶちあげたかというと、目に見える範囲では、それはなさそうだ。ではいったい何が成功に導いたのか。日能研の合格者は39人、SAPIXは7人であるから、受験市場の偏りはない。全方位的に多くの塾から選択されている。ということは私学市場としての生徒獲得戦略が成功しているケースではないだろうか。大いに研究すべきモデル校ということだと思う。

☆一学年170人前後のサイズであるから、3回入試の総応募者数が1200人集まればなんとかなるはずである。1500人集まれば、安定的だろうから、学校当局としては、まだまだだと考えているに違いないが、生徒獲得戦略は、ともかく成功している。それはなぜか。

☆おそらく98年・99年の私学危機を乗り越えるときから毎年手をうってきた1つひとつの戦術をすべて継続し、有機的につなげる中期戦略が、かりに理事長そして校長が変わって、一瞬の初期化はあっても、高い水準でのデフォルトを形成してきたからではないか。

☆同学園のサイトにさりげなく進路指導のシステム概略図がある。このシステムが出来上がり、日々実践され、学園内で当たり前の存在=暗黙知になるには2005年までかかったはずである。本物教育の土台を形成した段階で、制服を変え、校舎を変えるプランを実行した。暗黙知というデフォルトに意匠を凝らす戦略である。

Photo              (三輪田学園のサイトから)

☆その過程で、大学進学実績も充実してきた。この進学実績と次の年の生徒募集人数はなんとなく因果関係がありそうに見えるが、総受験生の100人ぐらいがそこに着目するだろうが、おそらく他の受験生は、あまりそれが選択理由にはなっていないだろう。そこが三輪田学園の強みである。

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☆進路指導は狭義の進路と広義の進路という≪差異化≫がなされているが、この違いがわかる受験生・保護者が三輪田学園の場合ほとんどなのだろう。一般に進路の≪差異化≫については表現されない。この表現発想そのものが戦略である。

☆狭義と広義という一見スマートではないわかりにくい表現が、図になると実にスマートなのである。一般には狭義の進路をキャリアデザイン、広義の進路指導をリベラルアーツという位置づけにする。すると進路指導と特別教育活動ということになるから、受験生・保護者にとっては、2つは別物扱いになるのである。

☆ところが三輪田の場合は、両者の関係性が非常に密接であるという意識が受験生・保護者に強く記憶される。

☆受験市場では、「狭義の進路指導あるいはキャリア教育」と「大学進学実績」を結び付ける強引な因果関係像を結んでいくし、広義の部分は特別プログラム扱いされるか、あるいは見えないカリキュラム扱いされるかどちらかだろう。そうすることで、受験生・保護者に結果的に広義の進路教育の部分はオプションというイメージを結ばせることになる。カリキュラムが主流と傍流というイメージで受けとめられるようになり、傍流は意識の外に置かれ、狭義の進路指導→大学合格実績という論理になる。

☆すると、狭義の進路指導は、実はどこの学校でもほぼ同じに見える。これは公立と比較してもそうだ。予備校や教育産業の模擬試験が活用されるから、なおさら違いが見えにくい。結果的に大学進学実績の差しか目立たないのである。

☆ところが、この三輪田学園の進路教育の概略図のように、狭義と広義進路指導というように見える化されていると、広義の部分がオプションだとは認識しないだろう。むしろ土台としての重要な役割を果たしているという像を受験生・保護者に結ばせる。

☆このように、98・99年以降の多様な戦術の積み重ねとそれぞれの戦術を結び付ける三輪田の教育システムの全貌を、つまり本物の教育を表現する戦略が効果的だったということではないか。これは、本物の教育を行っているにもかかわらず、「狭義の進路指導→大学合格実績」という部分しか記憶に残らない表現になっている学校にとって、大きなヒントになるはずだ。

☆しかし、本当は三輪田学園にはさらに重要な深層構造がある。それは、この狭義と広義の進路指導が有機的に結び付くエネルギーの存在である。システムができても、それを動かすエネルギーがなければ、絵に描いた餅である。そしてエネルギーを生み出すエンジン部分と資源こそ、目に見えないのである。

☆エンジン部分や資源の貯蔵部分をオープンにして車を走らせたら燃えてしまうだろう。原子炉をオープンにして作動させたら放射能が漏れてしまうだろう。

☆そこのセキュリティはしっかりしていなければならない。三輪田の場合、それは教員同士、教師と保護者、教師と生徒の多層構造としての議論の場が設定されていて、1人ひとりの想いと思想とアイデアと感情が分散拡散せずに、1つになるように仕掛けるエンジン部分がある。そしてこの議論の多層構造こそセキュリティである。

☆この多様な個性を、個性のまま活かし1つにする装置こそ議論の場なのである。サイトにさりげなく教育サロンとあるが、このような場の設定が、狭義と広義を結び付けるエネルギーを生み出しているのである。

☆一般には狭義の進路指導の部分は目に見えるが、広義の部分は見えないで終わるところ、三輪田学園は両方を見える化し、それを支える奥行きは見えないけれど、確かにあるという確信を抱かせる表現をとっているのである。

☆今後、三輪田学園に期待できるコトは、受験市場に影響されない私学市場を形成するヒントを他校にも提供できることである。また、多様多層な議論が、教育の質を上げるとはどういういことであるかについて、これからの日本社会に大きな刺激を与えることになることだろう。

☆≪私学の系譜≫の原点は、議論の本位である。

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