2010中学受験市場[10] 日能研 vs SAPIXに見る今後の受験市場
2010中学受験市場[09] 日能研 vs SAPIX ⑦のつづき。
☆前回、クリエイティブクラスの日能研、ファーストクラスのSAPIXと極端に二極化して述べたが、現状でそうなのであって、今後は両塾とも互いにクリエイティブクラスとファーストクラスの両方を競い合っていくことになるはずだ。
☆日能研は中学受験専門塾として、私学人を応援するという理念で動いているから、あくまで私学全部を引き受けるだろう。SAPIXは、そういう理念はないとしても、単純に難関校というのではなく、新しい学際的な知性を問いかける麻布や開成、筑駒、栄光、桜蔭、鴎友学園女子などに大量に合格させているために、入試問題によってクリエイティブクラスのニーズを満たすカリキュラムを作らざるを得ない。
☆私学を応援する理念で動く日能研と市場の原理で動くSAPIX。どちらが有利なのだろう。おそらく市場の原理のほうが資本主義では強いのだろう。
☆しかし、市場の原理は危ういのではないかと言われるかもしれない。ところがそれが中学受験市場ではそうはならないのだ。私学を応援する日能研が、市場の原理で動くSAPIXに追いつめられるのには、私学市場の良質さが、受験市場の原理をコントロールすることになるというパラドクスがあるのだ。
☆かつて日能研は合格販売株式会社と自称他称、そう呼ばれていた時代がある。つまり教育の良質さは、私学市場に任せようという、まさに市場の原理で動いていたのだ。ところが、ある時点で私学の教育の市場を保守する役割を自ら演じた。
☆クリエイティブ資本主義において、そのような戦略が優位かどうかは誰もわからない。しかし、東急線・みなとみらい線で通える私立中高一貫校」合同相談会の近藤彰郎先生(東京私立中学高等学校協会会長、八雲学園中学校・高等学校 理事長・校長)と工藤誠一先生(神奈川県私立中学高等学校協会理事長、聖光学院中学校・高等学校)との対談のなかで、中学入試問題の良質さが良質教育を反映するのだということが前面に出された。
☆私学市場側からの熱いメッセージである。この良質問題を逆算して解説しているのは受験市場ではあるが、自ら創造しているのは私学市場である。ファーストクラスであり同時にクリエイティブクラスの私立中学は、良質問題を出してきた。
☆しかし、これからは受験市場の模擬テストに迎合するような問題は出題しないよという挑戦状が私学市場から受験市場へ贈られたのである。
☆週刊東洋経済(2010年3月6日)でも述べられていたが、ゆとり教育時代、青年の知性を保守してきたのは、私立中学入試であった。しかし、その主役は受験市場ではなく私学市場であったはずだ。
☆理念なき市場の原理は危うい。その意味で日能研は理念を持っている。しかし、私立学校の理念は多様だ。1つの会社の理念ではカバーできない。その点、SAPIXは理念フリー。
☆渋沢栄一よろしく理念の神々の良質競争は、私学市場でやっていただければ、私たちはそこには関与しない価値自由の立場にいますよというのがSAPIXである。
☆難関校にはいれるが、その難関校が必ずしもクリエイティブクラスでない学校の場合、そのような塾の戦略は、日能研とSAPIXの競争の領域には入っていけないだろう。
☆結果的に受験市場も、私学市場の理念に牽引されてクリエイティブクラスの学校にどれだけ合格させるかの競争になる。クリエイティブクラスの日能研VSファーストクラスのSAPIXという対立軸は、受験市場ではなくなる。
☆クリエイティブクラスの学校は、必ずしも難関校ではない。そうなると小さな塾が活性化する可能性も見いだせる。あらゆる学校の入試問題が思考力・表現力を前面に出してくる中学入試問題となった場合、知の面倒見の良さが重要になる。
☆知識重視で入れたクリエイティブクラスではない難関校に合格させてきた中堅の塾は逆に危うくなる。柔軟な対応ができないからだ。しかも、そのような難関校もクリエイティブクラス志向になっていくはずだから、中堅塾はますますリスクが高くなるだろう。
☆大きいか小さいか。フィンランドという国がそうなのだ。対話や議論がベースに知が育成されるところでは、大きいか小さいかのどちらかでなければ市場の競争で乗り切ることができない。
☆クリエイティブクラスの学校の知性においつくには、添削というシステムは時代錯誤である。対話と議論によって瞬時にメタ認知が稼働する授業が最適なのだ。コストと労力がかかるがゆえに、中途半端な資本規模では持続できない。大きいか小さいかというのはそういうわけだ。
☆従来型の添削や模擬テストシステムは、大量消費・大量生産・大量移動のポストモダニズムには最適だった。しかし、資本主義のパラダイムは、より子どもたちの主観や創造性を掘り起こす方向に転換する。もちろん、私学市場は強迫観念的な心理性の掘り起こしデータベースシステムのリスクをヘッジするパラダイムを用意しなければならないわけであるが・・・。
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