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私立学校の教育と受験市場のズレ③

☆受験市場・マスメディアの欲求枠(フィルター)では見えない私立学校の教育の質の枠。この部分を見るには、

①新しい学習理論に基づく授業の構成を見る目を持っていなければならないし、

②思春期を乗り越える生徒のことば力の形成過程を見破る目を持っていなければならない。

③それから、授業の構成とことば力の過程を貫く時代と共振する理念の不易流行という現象を洞察できなければならない。

☆「学習観」「言語観」「理念観」という3つのものの見方とその相乗効果を知る必要があるわけだ。

☆この3つの複眼視点がなくても、東大や早慶上智には合格できる。学習指導要領の延長の受験勉強とはそういうものである。

☆じゃあなぜ、私立学校はその学びの範囲でとどめておかないのか?とどめている学校もあるし、そこに到達していない学校もあるかもしれない。しかし、たいていの私立学校はその受験勉強の範囲を超えている。

☆だから、受験市場の枠ではつかみきれないのである。

☆しかし、なぜそんな苦労をしなければならないのか。それは≪私学の系譜≫に立ち戻ればわかる。≪官学の系譜≫は、国民を日本国家の一員として組み込み、日本国家のために役立つ知識を修得させる教育を与えてきた。したがって、国家が与えるもの以上を必要としない。その中で高い地位につく機会を与える形式的平等が与えられればそれでよかった。

☆一方私立学校は、はじめから理想の社会を創る人材を輩出しようとしてきた。そのような人材は社会のメンバーではあるが、国家から与えられたものを自在に操るだけでは、社会を構成できないのである。国家のビジョンの正当性・信頼性・妥当性を常にチェックし、警鐘を鳴らし、軌道修正できる人材は、国家以上の人材なのである。この発想は、宗教系の理念、あるいは啓蒙思想的理念、あるいは水戸学的・陽明学的理念に基づいていなければならないが、明治政府以降、文部官僚はそれらすべてを≪官学の系譜≫から排除した。

☆だから、国家と社会を区別して今語っている文脈、すなわち国家を形成するのか、人間社会を形成するのかは違うという文脈を、えっ何を言っているのか、同じじゃないかと思えば、≪官学の系譜≫の流れに属しているだろうし、区別することの意義を直感できる場合は、≪私学の系譜≫に属している。つまり受験市場の欲求枠を超えて、私立学校の教育の枠をつかみ取ることができる。

☆ともあれ、時代は脱国家の時代を迎えている。越境人の出現を大歓迎している。日本というタコツボ国家あるいはガラパゴス国家の中で平等を謳歌していてると、とんでもない変化が日本を襲うのに気づかない。

☆この激動の変化の中で、もはや頼ることのできない国家を修復しながらも、グローバルな世界共和国への世界的な動きのかじ取りをしていける人材の輩出。これなくして、日本社会はうまくいかないだろう。

☆このような未来を創る人材育成の教育が、私立学校の使命でもある。だから受験市場の欲求枠に収まりきれないのである。

☆さてさて、ここまでの能書きは、だれもが言っている。問題は、このミッションに対応して私立学校が独自に展開している「学習理論」「ことば力」「理念現象」の内実を見えるようにする表現の開発なのだ。

☆それには、このような3つのものの見方とそれを統合しようとしている私学人の授業や授業観を取材するところからスタートするしかない。まずは聞くことだ、見ることだ。

☆で、出来る限り、受験市場の先入観である欲求枠の装備を解除し、取材して欲しい。おそらく従来のマスメディアや受験雑誌の編集者で、新しい視点で見られる人材はそう多くないであろう。だから、教育産業の情報分門が取材してくれると助かるのだが。ベネッセとか教育と探求社とかならばできるのではないだろうか。

☆東京私立教育研究所が独自に表現していくことはいうまでもなく大切である。すでに「所報別冊74号」に掲載されている私学人の論文はその先駆けである。

☆だから、それらの論文を書いている先生方を訪ね、ぜひ取材をして欲しいものだ。

☆また、たとえば、東京私立中高協会の近藤先生、實吉先生、東京私学教育研究所の清水先生、海城学園の中田先生、かえつ有明の山田先生、桐光学園の有馬先生、松本先生、明大明治の松田先生、江竜先生、白梅学園清修の柴田先生、麻布の氷上先生、開成の生田先生、JGの梶原先生、田園調布学園の西村先生、鴎友学園女子の西川先生、吉野先生、聖学院の平方先生、戸板の杉岡先生、伊藤先生、順天の長塚先生、立教女学院の山岸先生、佼成学園女子の江川先生・・・などの私学人に話を聞けば、「真実」と「現実」と「未来」がわかる。

☆私立中高ではなく大学人ではあるが、立命館アジア太平洋(APU)のアドミッションオフィス課長の伊藤健志氏も未来を創る教育について戦略的な見通しと洞察力の持ち主である。

☆もっとも、みな相当お忙しい私学人ばかりなので、アポをとれるかどうかは確実ではない。しかし、自分の言葉と思想で、真実と現実と未来を語れる私学人であることは確かである。

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