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入試問題が変わる兆し

☆本ブログ「森上教育研究所の論説必見。」でも述べたが、最近の森上研究所の発刊している「中学受験と私学中等教育」の巻頭言は、格調高い。同誌153号も、前号同様、適切な選抜方法や試験問題制作について檄を飛ばしている。

「難関校などは、比較的優れた問題を提起するものの、中には任意性の強い出題もみられその正当化の理由が事前の準備や予想を裏切るため、ということにあるのだとするなればむしろ基礎力判定と、そうした高学力判定と分けて出題すべきだと思われる。入試が変われば受験は変わる。入試制度と内容を良質なものにして魅力的にしたい」

☆私学市場と受験市場では、選抜に対する温度差があるため、この方向性は、おもしろいが、なかなか難しい。≪私学の系譜≫論からいえば、入試問題の正当性、信頼性、妥当性は、建学の精神を基準にするために、統一的な問題を私学でやるのは難しい。受験市場からの発想では、知識的側面は客観的だから、そこの部分の基礎力判定はできるだろうとなるのかもしれない。

☆しかし、それも文科省的な知識観だとすると、私学市場は動かないだろう。たしかに論考にあるように、今後は「知識基盤社会」である。グローバル人材の要望もある。しかし、それは国家政策として、経済的なニーズとして対応しなければならないというのなら、私学市場は動かないだろう。

☆そもそも「知識基盤社会」の「知識」は、英米流の世界戦略の一環として、コンピュータベースドな試験に一元化しようというベクトルと教養としての知識、つまり経済資格社会のためではなく人間の幸福のために寄与する知識というベクトルの両方があるだろう。

☆市場拡大形成のグローバリゼーションと自然・精神・社会の統合力を内蔵する人間づくりのためのグローバリゼーションのどちらをとるかというと、私学市場は後者の立場に立つ学校が50%はあるだろう。それは全国学力テストの利用率を見ても予想されることだ。

☆森上教育研究所のスタンドポイントが、受験市場から見ているのか、私学市場から見ているのか、そこははっきりしないから、なんともいえないが、もし私学市場のスタンドポイントにあるとしたら、それはまずは一般財団法人東京私立中高協会などのコミュニティと対話をするチャンスを多く持たねばならないだろう。それはとてもよいことである。

☆しかし、もし受験市場の立場に立つとするのならば、私学市場とは教育の量と質の競争をしなければならなくなるだろう。

☆ただ、その体力があるのは受験市場の中ではどこだろう。少ないだろう。すると受験市場の中でのまずは抵抗が生まれよう。寡占化あるいは独占化されるのは、市場にとってよいことではないからである。

☆しかし、コンセプトとしてはすばらしいのである。それは社会の経済的ニーズというだけではなく、時代の要請であることは間違いない。誰かが決めた知識配列表を保守していれば生きていける世界ではないことは確かだからである。思考力という高学力を判定する正当性、信頼性、妥当性に耐えうる問題を作成できる人材を学校が育成することは、入試制度の再編を待つまでもなく、優先的に進めていかなくてはならないからだ。

☆それをすでに行っている学校は、麻布、開成、武蔵、海城、駒東、栄光、公文国際、筑駒、桜蔭である。そのような学校に肩を並べる入試問題を作成する準備に取り組む学校が多くなればなるほど、森上教育研究所のコンセプトは実現に近づくであろう。ただし、かように1つひとつの私立学校が独自に行っていくというプロセスでしか、最初はあり得ないだろう。そのためのエールを贈る広域支援ネットワークを協働することは、学校外部の多才な応援団においてはあり得るだろうが・・・。

☆さて、現実的には、来春の入試で良質の高次思考問題作成に挑む学校はというと、海城学園が帰国生入試でさらに挑戦している。かえつ有明が、「作文入試」と称しながらも、サイエンス科のクリティカル・シンキングのプログラムを入試問題に反映させようとしている。そして広尾学園も特待生入試で、標準問題40%、応用問題60%という配分の高次思考を要する問題を出題すると宣言している。

☆いずれにしても、来るべき高次思考力の時代を見据えて、模擬試験のような入試問題をいかに脱するかにチャレンジする学校こそ本当に伸びる学校ではあるまいか。

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