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東大帰国生入試の小論文テーマ

☆帰国生の小論文プロジェクト。序破急の「破」一歩手前ぐらいまできている。改正臓器移植法施行をきっかけに、臓器移植について対話してみた。賛成、反対の新聞記事、そして法律そのものを読みながら、結局人間とは何かまで、深く対話が進むようになった。

☆合理性と死生観との葛藤で、本質的なものが見えたときには、その重さをしばし受けとめる感性は、説明しようのないほど大切な何かを共有したし、改めてルール・オブ・ローとは何か、自由とは何かを座標マップを手掛かりに話し合ったりもした。

☆自分の考えを600字くらいにまとめて、互いに発表し、論理的な流れのアドバイスをし合ったり、自分とは違う発想をリスペクトし合ったりできる対話スペースが形成されつつある。

☆サンデル教授の「正義論」を手掛かりにしながら、語る場面もあり、最終的には、自分が判断する基準をもたねばならないところで、苦しみもがく。主観的に書くこともできるし、たんたんと解説風に書くこともできる。

☆しかし、自分の立場を明らかにして書くとなると、揺れ動く。インター主観を書き手と読み手の間にいかに形成できるように書くか。真剣に悩んでいる。

☆帰国生の場合は、自分の海外の体験と日本の情況を比較しながら考えることができるから、最初から複眼思考が可能なのは興味深いし、それぞれの海外の経験の違いを語りあうことができるので、なおさら対話に弾みがつく。

☆テーマも、いま、ここでという点と世界の最前線の科学や思想、そして痛みという全体をつなげるものばかり。しかもそのつながるイメージを、自分たちの体験から生みだすことができるから、机上の話にならない。

☆この対話スペースでは、日常の世界では、タブーになっている人間の根源的な淵まで近づくことができる。彼らはそのタブーの意味を片方では理解したうえで、接近するし、入学試験という枠組みも理解しているから、リバタリアン的な発想はセイブできる。たまたま集まった帰国生がそうだということかもしれないが、そこは大人だからではなく、地球市民としての視点なんだなということがわかる。

☆彼らは必ずしも東大を受験するわけではないが、東大の帰国生の入試問題を、思考のトレーニングの素材とする。なにせ自分の考えてきたこと体験してきたことが詰っている自分の脳そのものをリソースにして、目の前の出来事と世界の出来事を一瞬につないで考えるシンプルな問いかけなのがよい。

☆時事問題で、小論文を仕上げたあとは、すぐに次の時事問題に移るのではなく、東大の過去問を1つ考える。それから時事問題に移るというサイクルの繰り返しがやっとできるようになった。これは、英語のプロジェクトとも連動するようになっているからできることでもある。

☆とにかく、プロジェクトのメンバーは生徒1人ひとりの情況について、よく情報交換している。そして、そこはインサイダーにならないように、生徒達とも共有するから、茶飲み話で終わらない対話が続く。もちろん、iPhoneのアプリで心理ゲームをやって、そのメタファーを語り合って盛り上がる場面もたくさんあるが、チャットと思考が結びあう勘の良さに驚かされることもしばしば。

☆道端を歩きながら、電車に乗りながら、アニメや映画などの政治的、哲学的メタファーを読み解く会話もとぎれることはない。それからもちろん、言うまでもなく、自分の生き方や価値について、社会との葛藤についてなどの話も尽きることはない。

☆そこと小論文のテーマがつながるから、もう思考は止まらない。生徒たちは、同時に本も読んでいるから、なおさらだ。宮台真司論、サンデル教授の本、エヴァンゲリオン論、映像論、心理学、経済学、とくに国際関係論に関する本を読みながら、それがまたリソースになる。

☆今の若者はという定番の批判はいっぱいあるが、EU諸国に立ち寄った時もそうだったが、たとえば、ストラスブール大学の学生も同じように真剣に議論する。とにかく油断すれば、あっという間に時間は過ぎる。世間が批判する若者とは違って、たまたま出会った学生や生徒がそうなのだろうか。いや生きることが刹那的になっている今日、そこで何か大事なものを見出したいという欲求があるのは当然なのではないだろうか。

☆話がズレてしまった。東大の帰国生対象の入試問題の話だった。ここ2,3年の問題をいくつか列挙してみよう。現実的な話なので、ときどき私たちも考えてみると、若者たちの心の底にいきつくことができるかもしれない。

□「東アジア共同体」の可能性や限界について、自由に論じなさい。

□あなたにとって、もっとも強烈であった異文化体験は何ですか。具体的経験を説明した上で、そこから何を学んだかを述べなさい。

□今日、企業は大きな社会的影響力を持ち、単に自己の利益や成長を求めるだけではすまないことが強く認識されている。例えば、一つの企業の不正取引が、多数の株主や取引業者に大きな打撃を与えるかもしれないし、生産活動が有害物質の発生を伴うものであれば、従業員や地域住民の健康に著しい損害を与える可能性がある。つまり、企業は自身の活動において従業員、株主、取引業者、消費者、地域住民さらには社会全体に対し、何らかの責任を負わなければならないものと考えられる。このような企業が社会の様々な主体に対して持つ責任としては、これらの例以外に、どのような事柄が挙げられるだろうか。具体的に示しなさい。
その場合、企業が社会的責任を果たすため、あるいは企業に責任を果たさせるためには、企業や社会がどのようなことをしなければならないだろうか。考えるところを述べなさい。

□「子ども」が「大人」になるために身につけるべきことには、文化によってどのような違いがあるか。あなたの考えを述べなさい。

□あなたが暮らしてきた外国における、日常生活から出るゴミのリサイクルの事情と将来に向けた課題について、科学技術の役割を踏まえて述べよ。

□映画や小説では、しばしば、頭脳は優れているが歪んだ価値観や欲望を持った異常な科学者が描かれることがある。このことを基に、科学および科学者と社会との関係について、あなたの考えを述べなさい。

□自然科学は、物理学、化学、生物学、地球科学などの様々な学問分野から構成されている。これらの学問分野に共通する考え方や方法について論じなさい。

□① あなたの母国で、「からだによい食べ物」であると信じられているものをひとつあげてください。② なぜからだによいと信じられているのでしょうか? 関連する社会的習慣・宗教・文化・風習などについて触れながら、あなたの母国でそう信じられている「理由」について、答えてください。③ それに科学的合理性・根拠はあると、あなたは思いますか、思いませんか? あなたがそう考える理由も含めて、答えてください。

□「国境と人権」というテーマについて、論じなさい。

□地球規模でみた貧困の現状と原因、解決策について論じなさい。

□18 世紀末にイギリスで開始された産業革命は、労働と余暇の関係を大きく変えた。例えば、工場制度の生成は、労働と余暇の時間的・空間的な分離をもたらしたと言われる。工場で働く時間とそれ以外の余暇といった時間における区分だけではなく、働く場所(工場)と余暇を過ごす場所との空間の明確な分離が起こったと言うのである。
 また、当時でも、工場では分業が進み、労働は単純作業の繰り返しに近づくと同時に、そのリズムも作業を行う人間ではなく、機械が決めるようになったと指摘された。人間はいわば「機械の奴隷」となったと主張されたのである。
 そうした状況に対し、2つの系統のユートピア思想が生まれたという説が存在する。
一つは、工場制度の出現によってもたらされた生産力の発展をさらに進めれば、社会で必要とされる財やサービスを生みだすのに要する労働時間が短くてすむようになるというものである。生産力の発展の結果、たとえ労働は嫌なものであっても働く時間は短くなり、その分より長い、しかも物質的に豊かな余暇生活を楽しむことができるようになるわけである。
 もう一つは、「機械の奴隷」となるような工場での労働のあり方を何とか克服し、労働を通じて人間のもつ諸能力が十全に発揮され、労働の中に喜びが見出せるようになることを展望するものである。
 このようなユートピア思想の存在を踏まえて、以下の問いに答えなさい。

(1) 2つのユートピア思想で追求された労働と余暇のあり方の差は、あるべき人間の姿についての考え方の差を反映しているように思われる。そしてこのような人間像の差は、それに対応して理想とする経済あるいは社会のあり方の差につながるとも考えられる。それぞれのユートピア思想は、あるべき人間の有り様をどのように考えていると思うか。またそれぞれが追求している経済あるいは社会のあり方はどのようなものであると想像されるか。なるべく具体的な姿がわかるように論じなさい。
(2) 現在の状況は、この2つのユートピア思想を基準とすると、どのように評価できるか。思うところを述べなさい。

□社会には、商品化されている事物と、商品化されていない事物がある。今日では、一般的に今まで商品化されていなかった事物がどんどんと商品となっている状況が見られる。
このような商品化は、私たちの日常生活や社会のあり方にどのような変化をもたらしているのか。具体例を挙げながら論じなさい。

□次の文章を読み、人生における労働の意味について、あなたの考えを述べなさい。

「まじめに生きなければならない。苦しみに耐え、汗をうかべて労働することにこそ人生の意味がある、という考え方に反対する人はいないだろう。しかし、まったく同時に、その同じ人に、できることなら一生労働などせずに、面白くおかしく、歌ったり踊ったりして楽しくすごしたい、という不届きな心持ちがあることも、決して否定はできないはずである。」 (山田洋次『映画館こやがはねて』)

□体験から得た知識、本で調べて得た知識、インターネットで得た知識の間には、どのような違いがあるか、具体例をあげながら、あなたの考えを述べなさい。 

□ロボットは、どんどん「進化」しており、色々な仕事を人間に代わって、しかも人間よりも上手に行ってくれるようになった。しかし、ロボットの能力がどんなに向上しても、人間の仕事(職業)として残る可能性が高い仕事(職業)もありそうである。このような仕事(職業)
を一つ挙げ、これを選んだ理由を論じなさい。

□地球上のほとんどの人間は、水力、風力、石炭、石油、原子力、太陽電池、バイオエタノールなどのエネルギー源に頼って生活している。二つ以上のエネルギー源を取り上げ、それぞれの長所および短所について、あなたの海外経験(あなたが育った外国の事情)を踏まえて論じなさい。

□遺伝子組換え作物、農薬、家畜飼料など、食品の安全性が多くの国で問題になっている。あなたが高校生活を送った国で起きている食品の安全性に関する課題とその解決策について論じなさい。

□近年、少人数の集団の中で周囲の仲間の考えや気持ちを推測することを「空気を読む」と表現することがある。日本の社会と外国の社会でこの「空気を読む」態度や仕方に差があるか、あるとすればその功罪についても、述べてください。

□現代社会における情報技術(IT)の発展には目覚しいものがあり、人々のコミュニケーションにさまざまな影響を及ぼしている。IT をどのように使えば、人々のコミュニケーションをより豊かにし、社会をより幸福にできるか、具体例を挙げてあなたの考えを述べなさい。

□国境や文化・宗教の違いを越えた「正義」の存在可能性について論じなさい。

□一つの国や地域の中だけでは解決することが困難であり、国境を越えた取り組みが必要な諸問題がある。そのうち、科学や技術に深く関係する問題を一つ取り上げ、どのように対応したらよいか、国際的な視点から論ぜよ。

□自分を犠牲にして他を助ける行動(利他行動という)は、ヒト以外の動物でも観察されている。しかし利他行動は動物の寿命を縮め、子孫の数を減らすことにもなり、損な行動のように思われる。さて、他人に親切にしておけば、いつか必ず自分にとって良いことがある、という意味で「情けは人のためならず」という言葉が使われる。自分が他人に対して親切にするときの動機や、逆に他人が自分に対して親切にしてくれた事などを思い出しながら、この「情けは人のためならず」という言葉に対して、あなたの考えを述べよ。

□「衣食足りて礼節を知る」について、このことわざの意味するところをあなたの海外経験を踏まえて論じなさい。

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