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共立女子の挑戦 対話革命の教育

☆昨年9月「共立女子から授業は変わる」というブログで、同校の若手3人の教師の興味深い授業の試みを紹介した。

社会科の池末先生、国語科の金井先生、理科の桑子先生が、協働して、教科横断知型の授業を展開している。・・・・・・3人の先生方は、素材を教科書から社会現象の中にシフトする。寺山修司だったか、かつて「本を捨て外に出よ」と言ったのは。作家という創造者は、壁をぶち破るのに、ルーチンから抜けだす。3人の先生方もそうなのだろう。教科勉強から学びの旅に出よと。そんなわけで、まもなく姿を消す201Kの中央線の電車を素材に、生徒と共にインタビューを開始し、収集した資料やデータ、情報を編集、そしてそれを絵本にした。

☆そして、この8月にこの絵本が交通新聞社から出版物として発売された。池末先生からこんなメールを頂いた。

Kyoritsuorenji

当面は中央線沿線の書店にしかありませんが、アマゾンや紀伊國屋オンラインなどを使えば全国から購入可能です。結構全国区、特に関西地域からの問い合わせが多いです。何とか絵本の発売までこぎ着けたという感じですが、私たちの目的は絵本を売ってお金儲けをするわけではなく、これからのこうした教科や科目を超えた活動の草分けとして行きたい、というただ教育の一活動に過ぎないという事です。

☆儲けて、新しい教育実践に活用してもよいと大いに思うが、定価630円では、なるほど儲からないだろう。

☆そんなことより、この活動は、教育における対話革命である。しかもこの対話革命は教育の枠を超えて広がる可能性がある。出版物として、市場に接続できる教育というのは、まさにソーシャル・キャピタルやソーシャル・ビジネスの重要な実践例である。

☆実用と教育とアカデミズムとシチズンシップなど実に包括的な教育だと思う。なんといっても生徒さんたちの取材や編集の活動が、多くの人々との対話を通して支えられたことが重要である。権威や権力に頼らない、フラットな創造的対話の過程がそこにはあるからだ。池末先生はこう続ける。

8月22日にJR東日本八王子支社で中央線201系さよならイベントを豊田の車庫で行います。この公開時間の前を何とか借りる事ができたので、卒業して行った生徒たち、そして取材させていただいた方々を全てご招待して、本物のオレンジ電車の車内で絵本贈呈式を行います。この電車の開発責任者だった松田さんは四国から、(JR四国の会長さんです)、電気回路を設計した佐々木さんはパリから(パリ在住です)駆けつけてくれます。盛大な会になりますが、卒業して行った生徒たちがまた全員集合します。そして、冬にも読みきかせ会を開く予定です。卒業して行ったにもかかわらず、こうして学習活動が継続してできるということに深い喜びを感じると同時に、こういう機会をオレンジ電車が廃車になる前に与えてくれたのかなあ、と感じたりもします。

☆オレンジ電車はたしかに物質である。しかし、それは多くの人々がかかわってでき、持続し、旅を終える物象で、教育はその物象に結実していった諸関係全体をたぐっていくプロセスである。もちろん、桑子先生が≪学校は限られた時間の中で大学入試に必要な「偏差値的な学力」と「総合的な学力」の両方の習得を実現していく必要がある≫と語られるように、物象化された知識の体系を覚えることも重要であるが、それだけでは偏っているのである。物象と関係の間を「行き来」できる教育こそ未来の授業。そしてその「行き来」することこそ創造的対話。

☆共立女子のルーツの1つである鳩山家。鳩山政権のコミュニケーション革命である「友愛革命」はいったんは消えたように思えるが、文科省の副大臣鈴木寛氏の「熟議による教育改革」は着々と進んでいる。この「熟議」こそコミュニケーション革命の1つの手法である。

☆共立女子の先生方の試みは、「熟議」も含むもっと包括的な創造的対話の手法である。この教育の活動について詳しく発信されている「智慧の実.net」をみればそのことが了解できよう。

☆それにしても、こんどはiPhoneやiPadを活用して授業が行われるような予感もする。今回の授業の過程のなかで、PCやWebなどICTツールが鉛筆などの文房具のように活用されている。智慧の実.netというサイトがその証しである。

☆創造的対話志向のプログラムは、今世の中にかなり浸透してきている。「熟議」「対話する組織」「思考デザイン」「ワールドカフェ」「OST」「AI」「フューチャーサーチ」・・・、そうそう忘れてはいけないのはプロジェクト・ベース学習。

☆共立女子の「教科・教室から外に出よう」プログラムもその1つではあるが、取材という体験から出版までという包括的な公共圏を作っていることが、決定的に他のプログラムと違うところだ。

☆共立女子全体の教育に関しては、まだまだ充実すべき点もあるだろうが、このような教師の活動が自由闊達に学内で認知されているということは、他校とは異なり、創造的対話の組織を持続可能にするリーダーが存在しているということでもあろう。

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