14歳からの教育学
☆≪ 教育問題はなぜまちがって語られるのか?―「わかったつもり」からの脱却 (どう考える?ニッポンの教育問題) 広田 照幸・伊藤 茂樹 日本図書センター 2010年9月30日≫という書のタイトルは、編集者がつけたのだろうが、本当のところは「14歳からの教育学」ではなかったか。
☆中高生が読んでも、十分にわかるなかなかの書である。ものの見方を変えるトレーニングを、教育の渦中にある当事者が考え、振り返るチャンスとなっている。もちろん、子どもの受験や学力、思春期などの様々な不安を抱えている保護者にとって、元気が出ると言うより、実践的なものの見方を身につけられる良書である。本書の目的を引用しよう。
誰か政治家や専門家の人たちが何とかしてくれるだろう、と考えるのではなくて、どうか自分で考えたり調べたりしてみてください。まずは、問題の現状がどうなっており、どういう説明が適切で、どういう解決策がありうるのかを考えてみてください。みんなで考えていけば、お互いの認識のゆがみや偏りが修正され、最後に価値観や立場のちがいが残ります。意見は対立したまままかもしれません。でも、そこでは、少なくとも教育問題について、深い理解に到達することもできるでしょう。1人ひとりがきちんとした認識と、(どういう立場であれ)しっかりとした意見をもつことが、教育問題の改善・解決をよりましな方向に向かわせる、「質の高い世論」を作りだすことになるのだと思います。
☆「誰か政治家や専門家の人たちが何とかしてくれるだろう、と考えるのではなくて、どうか自分で考えたり調べたりしてみてください。」の背景文脈には、個人史は人類の歴史を体現するという発想、あるいは、生物学の個体発生は系統発生を体現するという発想のメタファーがある。
☆「まずは、問題の現状がどうなっており、どういう説明が適切で、どういう解決策がありうるのかを考えてみてください。」には、本書の柱の一つである、「事実レベル→診断レベル→解決レベル」という言説の正当な組み立て方の筆者の思想がある。
☆「みんなで考えていけば、お互いの認識のゆがみや偏りが修正され、最後に価値観や立場のちがいが残ります。意見は対立したまままかもしれません。でも、そこでは、少なくとも教育問題について、深い理解に到達することもできるでしょう。」ここには、「熟議デモクラシー」の発想と民主主義の不可能性原理の発想が同居している。
☆「1人ひとりがきちんとした認識と、(どういう立場であれ)しっかりとした意見をもつことが、教育問題の改善・解決をよりましな方向に向かわせる、「質の高い世論」を作りだすことになるのだと思います。」には、ましな方向でも質が高くなることが重要で、その主人公は世論であるという未来志向がある。
☆そのようになるのは歓迎であると同時に、このような進化論的発想に、歴史を超えて最高の質を体現できる「フロー体験」の発想も導入するとなおよいのではないか。自己実現へのフロー体験は、歴史的影響を超えることができるはず。それがなければ、歴史の通過点としての体験に埋め込まれてしまう。それではやはりおもしろくない。
| 固定リンク
「教育イノベーション」カテゴリの記事
- 【八千代松陰】千葉から世界を変える(+1) 生徒の内なるトルネード(2018.06.27)
- 【八千代松陰】千葉から世界を変える(了) 教師力と先進的なティール組織(2018.06.26)
- 【八千代松陰】千葉から世界を変える(3) 知のトルネード(2018.06.26)
- 【八千代松陰】千葉から世界を変える(2) 知性と感性の空間(2018.06.26)
- 【八千代松陰】千葉から世界を変える(1)教育のキーワード(2018.06.25)
最近のコメント