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土浦日大中等教育学校 最強のイノベーティブスクール [02]

土浦日大中等教育学校 最強のイノベーティブスクール [01]のつづき。

☆明治国家の法の精神の礎を築いた山田顕義の現実的で理念的な精神は、土浦日大中等教育学校の教育にいかに反映して生きているのか。それを見ていきたい。

☆教育というのは「活動」である。この「活動」という意味は、吉田松陰の弟子であり、欧米を視察し、体感し探究し続けた山田顕義にとっては格別の意味を持ったであろう。

☆欧米にはアリストテレス以来、人間は政治的動物であり、社会的動物であるという伝統があるが、この政治的かつ社会的とは、活動を意味する。今日の日本で働くといえば、労働を意味する。最近ワークシェアリングという言葉が使われているが、労働=仕事であり、労働=仕事=活動になってしまい、労働という動物の勝利とまで言われている。

☆しかし、山田顕義の明治建国をなしとげた業は労働という言葉では収まりきれないし、仕事という言葉でも収まりきれない。それらの概念からはみ出している領域まで包括する概念が、欧米の伝統的「活動」の意味である。

☆もちろん、労働も仕事も重要であるが、活動なき労働、活動なき仕事もあり得るのである。ここに横たわる人間疎外の辛い悲劇を自ら体験したハンナ・アレントは「人間の条件」で、三つの言葉の意味を問い返しているのだが、ある意味山田顕義が潜り抜け乗り越えた幕末の情況も同質の構造を持っていたに違いない。

☆なぜアレントと山田顕義なのか。時代を超え、場所を超え、偉大な活動のエネルギーは、共通する普遍的精神があるからだ。

☆この時代を動かし乗り越える根源的な精神こそ、土浦日大中等教育学校が大切にしていることなのだと思う。

☆だから、生徒の「活動」を見れば、それが労働でも仕事でもなく、社会的(未来を良くするという意味で政治的)活動をしていることがわかるはずなのだ。

☆同校の朝は、当然通学という「活動」から始まる。ということはここにも山田顕義の普遍的な精神が宿っていなければならない。

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☆そんな思いで、土浦駅のスクールバスに乗る時の生徒の「活動」から見学することにした。その日はちょうど雨。生徒にとっては晴れの日が良いに決まっているだろうが、見学するこちらの立場からすれば、悪天候の時こそ、「活動」の妙技が見え隠れするから、興味津津であった。

☆整列を見守る教師は近くにはいない。近くにいて指示する方が、効率はわるくなるし、大事な普遍的精神である自律が育たない。おそらくそういう教育の「活動」が浸透しているのだろう。

☆傘をさしながらも、楽しげに友達と対話をしたり、本を読んだりしながら、整然とではなく、自然体の構えで並んでいた。

☆スクールバスに乗る「活動」は、生徒にとって、労働でも仕事でもない。自律というルールを自分のものにして動ける状況を生成しているのである。

☆このような「自律した活動」(自律とは活動であり、活動とは自律だから、同語反復なのだが)は、山田顕義が大切にした精神だろうし、欧米でリベラルアーツで育成される精神と同質のものである。

☆さて、この「自律=活動」は、いかにして育成されるのであろうか。それは多様な教育活動の中で育つのではあるが、なんといっても校長中川先生の「道徳の授業」が「活動」の基盤を創る専門のプログラムなのではあるまいか。

☆校長の話に耳を傾け、オープンエンドな問いかけに思考を集中させ、自分の考えを書く。もし時間内に書けなかった場合は、次の日ノートを直接校長室にもっていく。そのとき校長室のドアは、中1の生徒にとって、たんなる物質ではない。社会との活動を開く、おそらくはじめて直面する大きなインターフェースであろう。

☆まさに

自分で自分の

力を探り

豊かな世界に

分け入る勇気

☆を生みだす瞬間である。

☆それにしてもこの一節、校歌の詩の一部であるが、作詞は谷川俊太郎である。言葉で世界を開く精神の天才。生徒のまわりにある精神の大きさに驚くばかりである。

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