PISA2009公立学校強化ツールになる
☆10日金曜日、国立オリンピック記念青少年総合センターで、公開シンポジウム「研究者によるPISA2009レビュー~日本の教育はPISAとどう向き合うか~」が開催された。主催は「NPO法人教育テスト研究センター(CRET)」、共催は「Benesse教育研究開発センター(BERD)」。
☆オーストラリア、韓国、フィンランド、ドイツ、日本それぞれの国のPISAの結果と21世紀型教育について発表があった。その後パネルディスカッションがあったようだが、私事の都合でそれは拝聴できなかった。しかし、研究者の発表は充実していたので、ある結論が見えたような気がする。
☆詳しくは、後日CRETのサイトで公開されるとのこと。
☆したがって、当日の模様はそちらをご覧いただくことにして、簡単に感想だけ述べておこう。2000年にOECD/PISAが始まったころから、注目していたのは、1989年のベルリンの壁が崩壊し、冷戦が終焉することによって、ITやインターネット技術は公開され、EUの実現などによって、グローバリゼーションが拡大した。
☆それによって、人材育成の問題も世界標準にならねばならない気運が生まれ、学習観が多いに変化した。はじめOECD/PISAは、新たな学びの軸を生みだすきっかけになると感じた。今でもPISA当局はその意識はかわらないだろうが、2000年から2009年の間の、世界同時不況の問題解決に教育が強くからんでしまったがゆえに、国を越えた21世紀型教育とは何かの模索よりも、各国の経済事情に直結した教育政策を検証したり創出するための道具としての位置づけが明確になってきた。
☆特にPISA2009におけるトップの位置についた上海市の登場は、教育の問題というより威信をかけてトップをとるというPISAにおける競争的な側面が強調されるようになってきた象徴的存在というのが、研究者共通の認識である。
☆威信をかけて競争するということは、経済競争を意味するのだろう。
☆そういう意味では、まだまだ国際経済における位置づけの不安が教育に全面的に広まっているわけではないフィンランドも、渡邊あや熊本大学准教授に訊ねてみたところ、今後国内でも問題になてくるであろうと。実際フィンランドのメディアも「フィンランド陥落」というトーンを生み出しているという。
☆オーストラリアは、観光&教育立国であるがゆえに、世界との交流なくして教育は語れない。したがって、世界標準の学力を身につけるための努力は欠かせない。ものづくりよりもサービス業に力点が置かれている国家であるから、どこの国よりも知識基盤経済社会づくりに明るく熱心である。ここはフィンランドやドイツとは事情が違う。
☆そのドイツだが、名古屋大ということもあるのかもしれないが、近藤孝弘教授の発表は実におもしろかった。PISAが行われる前から、低学力の再生産が行われていたドイツは、PISAを外圧、日本的表現では黒船として活用したのだという。
☆社会保障がいきとどき、労働者階層は、自分たちの腕や仕事に誇りを持っているから、学校の勉強に価値を置いていないのだと。万国の労働者!の国なのだということだろうが、さすがはマイスター制度が細々とではあるだろうが、ともあれ、その精神が継承されている国である。
☆しかし、PISAショックという表明は、効果があったようだ。午前授業の国が終日授業の国になりそうだと。ベルリンではすべての学校が終日授業になったようだ。
☆もっとも、これもまたおもしろいのは、教育内容そのものはあまり変化がないようだ。ねらいは、家庭環境が教育に影響するから、少しでも長い時間、子どもを家庭から切り離し、学校に長時間留めておくことが目的だという。
☆フィンランドも、2006年までのPISAの結果を、フィンランドの教育肯定の裏付けとして活用してきたのだから、今回の結果を受けてどう変わるのかは今後も注目である。成績が良いゆえに、勉強嫌いが存在するという言い方をどのように変更していくのだろうか。
☆日本については、京都大学の松下佳代教授が講演したが、下記のタイムスケジュールに従って、教育政策の転換=脱ゆとり教育政策は成功したのではないかと指摘。
☆また、PDCAサイクルの教育への導入や評価国家として教育のコントロールなど、教育システムの構造転換に間接的に役立ったのではないかと。
☆結局、小泉構造内閣の教育の自由化のための企業的発想の強化がなされたということだろう。
☆教育というスーパーストラクチャーにサブストラクチャーを見事に埋め込んだということになる。ドイツ以上に巧みな公立学校の国家コントロールの強化をやってのけたのである。
☆松下教授はPISAのランキングや習熟度を教育の量的側面とし、読解リテラシーのプロセス=三側面を教育の質と分けられた。
☆これによって、学校教育法を改正によって、高校から創造力を育成すると文言に明かにされた疑問を不問に付す発表をすることになる無意識の誘導まで国家によってなされるはめとなった。文科省の報告要約では、習熟度は難易度ということになっている。
☆国民はこれ以上のレポートを読まないし、マスメディアもこの点をあえて問い返さない。それはすでに新聞社関係の見識者と話したときにまったく興味を示さなかったことからも明らかである。
☆とはいえ、ランキングが多少改善されたがゆえに、習熟度に注目するようになったことは評価に値する。習熟度とは“proficiensy”の訳語であるが、PISA2009の報告書には、その各レベル=習熟度ごとの“Characteritics of tasks”も丁寧に定義されている。
☆しかも今回は今まで読解リテラシーのレベルは5までだったのに、レベル6を新設した。この意義について、研究者やマスメディアの方々が発信すると新たな地平が見えてくるはずである。
☆それから、このシンポジウムの前日、デジタル教科書教材協議会(DiTT)が、「2015DiTTアクションプラン」を発表した。
このたびデジタル教科書教材協議会(東京都港区)は、学校教育におけるデジタル教科書教材の普及に向けた計画を示す「DiTTアクションプラン」をとりまとめました。「2020年度までにデジタル教科書を普及達成とする政府目標」に対し、昨今の海外、特にアジア諸国における急速な取り組みと、日本の低迷する国際競争力などの状況を鑑みた社会的要請を受けて、それを5年前倒しにした「2015年度までの普及」を民間による目標と定めています。
☆そして、その目標は次のようになっている。
・2015年度までの3つの目標
① 全小中学生に情報端末を配布
② 全教科のデジタル教材を開発
③ 全授業のうち約3割での利用
・ デジタル教育を通じて目指す将来の国家目標
「創造力」「コミュニケーション力」「学力」の3指標で世界一位を目指す
・ デジタル教科書教材が対象とする市場規模は約4兆円
・2010年度内に第一次、2011年度に第二次標準ガイドラインを策定する
・2010年度内に「DiTTビジョン」を策定する
・2011年度から新しいデジタル教材、アプリケーション、学習環境を開発する
・2011年度から国と連携して学校や課外WSでの実証実験を行う
・これらを踏まえ、制度、予算、標準ガイドラインなどの政策への反映を図る
☆他国の教育ICT導入促進は次のようになっているという。
☆だから、日本もがんばらなければということだろうが、その目標がパワーポンとになると、
☆明白に「PISA1位」となっている。PISAは国家政策の正当化の道具と化したのが2009年の結論だろう。
☆かくして、東浩紀氏のいう、統計学やゲーム理論にもとづいて管理された環境が出来上がる。PISAの目的は、そのような社会は避けがたいから、その管理を見破るクリティカルシンキングをいかにすべての子どもたちが身につけるかだと期待していたが、学力格差を縮めるという名目で、再び古くて新しい知の構造の画一化の道を拓いてしまったのだと感じた。
来るべき社会では、各人がばらばらの考えをもち、自分のまわりの局所的な利害にしか関心を向けていなくても、情報の集積がネットワークを介して全体の秩序を生み出していく。そこには抑圧も強制もない。人々は、高度な情報環境の支援を受けてたがいに緊密に協力している。あるいはさせられているが、そのことには気がついていない。それは確かにユートピアのように響く。しかし、筆者は、その状態こそが、巧みな「管理された環境」だと考える。そこで賞揚されている創発的な秩序の原理は、民主主義の蓄積よりも、むしろ統計学やゲーム理論にもとづいている。(東浩紀「中央公論」2003年10月号)
☆20世紀、明治国家の教育政策を様々な距離の取り方や戦略で、批判的に対峙してきたのは私立学校である。そして、どうやら21世紀においても同様の図式にならざるを得ない状況になってきたわけであるが、今度は日本一国ではなく、グローバルな相手だけに、いかに対峙していくことになるのだろうか。それとも、この波に飲み込まれてしまうのだろうか。2012年、すべてがはっきりしてくるだろう。2011年は、来るべき時のための準備に追われるだろう。
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