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グッドスクールの例⑤ 土浦日大中等教育学校

グッドスクールの例④ 佼成学園女子のつづき。

☆今年は「龍馬伝」や「坂の上の雲」など幕末から明治にかけての国づくりのドラマが人気だった。ここ数年「歴女」という女性のトレンドもあったから相乗効果があったのかもしれない。そのようなドラマで必ずと言ってよいほど登場するのは吉田松陰である。幕末から明治維新にかけて活躍したのは松下村塾出身者だったから当然であるが、閉塞状況にある日本という国を再構築する際に、大きなヒントになる発想を松陰とその継承者たちに見出そうとする無意識の時代の欲求があるのかもしれない。

☆土浦日大とこの話がどう関係するのかというと、周知の事実ではあるが、幕末から明治にかけて日本を建設した人物が、日大開設にもかかわっているからである。松陰の最年少の弟子で、兄弟子高杉晋作に日本の未来を託された山田顕義は、日大の創設者であり、初代の校長は金子賢太郎であった。

☆山田顕義は、五稜郭を落とすや快進撃で新政府の覇権を確固たるものとしたが、大事なことはその後の日本国家の法整備に寄与したことである。金子賢太郎も同様であるが、金子の場合は、日露戦争時、渡米し、セオドア・ルーズベルトと交渉し、日本を全面支援する約束をとりつけた。もともと小村寿太郎とハーバード大学で学び、その人脈を有効活用したということだろう。

☆それにしても、この法創出の過程で、二人は重要な法思想を広め深めた。詳しくは筆者の力量を超えてしまうが、当時はサンデル教授の授業以上の論争が国内を席巻していて、その中で伊藤博文率いる明治政府はロック的なリベラリズムの礎をつくったのではないだろうか。そのときに山田顕義と金子賢太郎は伊藤を強力に理論で支援したに違いない。

☆しかし、ここでおもしろいのは、山田顕義は吉田松陰の弟子であればこそ、民法典論争において、何ゆえにルソー派に立たなかったのか、そこは興味深い。おそらく、ロックかルソーかという単純な話ではなかったはずだから、政治的にはルソー派ではなかったにしても、思想的には実際にはロックとルソーの共通思想を見出していたのではないかと憶測する。

☆なぜそんな憶測をするのかというと、政治というのはシンプルな発想にならざるを得ないから、複雑で大事なものは切り捨てられることが多く、山田顕義の政治と思想はやはり、同じような関係だったのではないかと思うし、政治が切り捨て山田が心の中に秘めていた発想にこそ現在の日本の閉塞状況を拓くヒントがあるのではないかと思うからである。

☆枕が長くなったが、土浦日大の校長、副校長、副教頭からお話をお聞きするとき、必ずといってよいほど、吉田松陰、山田顕義、金子賢太郎の精神を現代化する教育の話題になるので、同校の建学の精神や理念の前提を確認しておきたかったのである。

☆さて、そのような土浦日大中等教育学校は、すでにグッドスクールではあるのだが、「家庭の高文化資本×学校の高文化資本×創造的才能選抜システム=新公共人の輩出」というグッドスクール方程式に念のためあてはめてみよう。

☆まず、家庭の高文化資本についてだが、土浦日大中等教育学校では、2年次と4年次のときに、生徒全員がケンブリッジのボーディングスクール体験をするのである。このケンブリッジでの学びを大いに歓迎する家庭の子弟が入学するということだけからいっても、在学生の家庭の文化資本がいかに豊かであるかが推察できるはずだ。

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☆学校の文化資本も豊かであると同時に先進的である。生徒全員にノートパソコンが与えられる。生徒全員がパソコンをネットにつなげる環境も充実している。外部記憶装置と自らの脳による記憶とのシナジー効果を生みだす新しい学びが生まれている。

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☆また、幅広い部活動を見ても、そこに文化資本を豊かに生みだし続ける作用があるのがわかる。

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☆創造的才能選抜システムについては、入試問題に思考や発想を稼働させるようなデザインがなされている。社会の問題で、国旗のデザインの意味を問う問題などは、知識を覚えているだけでは解けない。

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☆また、国語の問題で、違いを考える問題を丁寧に出し続けているが、差異に気づくことが思考を深めていくときに最も重要である。土浦日大の授業は、どの教科も必ず比較と対照を整理する思考過程を通過させるが、入試問題は学校の顔と言われるゆえんがここにある。

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☆新しい公共人が輩出されるかどうかは、毎年行われる国語と英語の両言語によって行われるディベート大会にすでにそれが保証されているといえるのではあるまいか。これからは否が応でも世界の人々と合意を形成する機会が多くなる。そのときにディスカッションとディベートの能力は欠かせない。

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☆もちろん、大学進学実績は十分納得のいく成果を毎年出している。今年の3期生も、はやくも輝かしい実績を出している。来春大いに期待できるだろう。

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